今年も中国では、世界消費者権利デーである3月15日に「315晩会」というテレビ番組が放送された。この番組は毎年恒例の人気番組であり、世界中の企業が注目し、そして恐れている。その内容というのは、消費者権利を侵しているとされる企業や事例を取り上げるというものなのだが、問題を指摘された企業は直ちに謝罪し改善措置の声明を出すなど対応に追われることになるため、どの企業も毎年ヒヤヒヤである。過去にはアップルやナイキ、サムスンなどの世界的有名企業も摘発されており、「餌食」となる企業は中国企業とは限らない。

日本企業としては2017年に無印良品とカルビーが、同社の製品の原産地について問題を提起された。中国は日本からの食品輸入において、放射能の影響が懸念されるとして東日本の一部地域を原産地とする食品へ制限をかけている。同社の一部製品がその取り決めに反するのではと騒がれたのであった。

さて、今年はどの国の、どの企業が「餌食」となったのであろうか。今回は取り上げられた問題とその後の対処、それに関連する企業の情報も紹介したい。以下では、先に「問題点」を挙げ、そのあと該当する企業と対処を紹介している。

 

◼️医療廃棄物再利用問題

廃棄された注射器などの医療品が、ビニール袋や子供の玩具などに加工され、市場に出回っていたという問題。

該当企業:企業名公開なし。

対処:問題を起こした企業の1つは陕西省西安市にあり、同市の関係部門が当該工場を取り締まった。また、山東省臨沂市当局も直ちに調査を開始し、該当する企業を取り締まり、当事者を拘束した。

 

◼️食品添加物問題

1.中国では小麦粉や豆で出来た辛みのある「辣条(ラーティアオ)」というスナックが人気だが、この菓子に違法の添加物が使用されているという問題。

該当企業:蘭考県寧遠食品有限公司、他複数社。

対処:当該企業の「辣条」生産工場は営業停止処分となり、業務改善を要求された。

  • 普通の卵に黄身をより濃い黄色にする添加物を入れ、地卵と偽り高値で販売していたという問題。この黄身の黄色を故意に濃くする行為は卵の「化粧」と揶揄されている。

該当企業:湖北神丹健康食品有限公司、湖北省蓮田食品開発有限公司、他複数社。

対処:少なくとも、該当企業のうち知名度の比較的高い「神丹」が販売する卵は現在ECモールの淘宝や京東から撤去されたことが分かっている。

 

◼️銀聯クイックパス決済のセキュリティ問題

中国銀聯が提供するクイックパス(非接触型IC決済。中国名:閃付)は銀聯と契約している銀行カードに備えられた高速決済システムで、支払い時にパスワードを入力する必要がない。しかしこの機能を狙い、POS機を故意に近づけ他人の金を不正に引き出すことが理論上できるという、セキュリティの脆弱性を指摘された。また、銀行が消費者に何の説明もなくクイックパス機能を開通させたことも問題視された。

さらに、ECモールで違法にPOS機を販売する店も存在する。ここからPOS機を購入し、上記犯行に及ぶという流れ。

該当企業:中国銀聯

対処:銀聯は番組放送後に声明を出し、クイックパス機能は国際社会で広く実用され、指摘されたようなケースの発生確率は非常に低いとの見解を表明している。万が一被害があった場合にも、銀聯は全額賠償するとしている。

 

◼️電子タバコ健康被害問題

中国ではかつて電子タバコが人に与える健康被害は普通のタバコより小さく、禁煙効果まであるという考え方もあったが、電子タバコであろうが普通のタバコと同じく長時間使用するとニコチン依存に陥ることには変わりない。そして、中国の一部の電子タバコには表示量以上のニコチンが含まれているという問題が提起された。

該当企業:企業名公開なし。

対処:証券取引所はそれぞれ上場している電子タバコの生産に関わる企業に対応を求め、そのうち1つの取引所は関連企業に対し、各自社内調査を行い、電子タバコが人体に与える影響について正しい報告をするよう求めた。

2019年に入って電子タバコ業界が注目されるようになり、新たなビジネスチャンスの到来に期待する声は大きかったが、今回の報道は間違いなく電子タバコ業界にダメージを与えた。

 

◼ 迷惑電話・通信情報抜き取り問題

1.ロボットが自動で1日に5000件もの営業電話をかけており、それが迷惑電話にあたるという問題。

該当企業:深圳市中科智聯科技有限公司。

対処:ロボット開発企業の「中科智聯」は当局に取り調べられ、当該ロボットの販売事実が確認された。しかし昨年中国で採択された関係法案により非通知発信が不可能となり、当該ロボットはすでに売り上げを落とし会社自体の営業を停止していた。

 

2.Wi-Fiから近くにいる人のMAC(媒体アクセス制御)情報と電話番号を取得する技術を開発した企業が複数あるという問題。

該当企業:深圳薩摩耶互聯網金融服務有限公司

対処:「深圳薩摩耶金服」は既に緊急会議を開き、調査チームも結成したと表明している。番組で取り上げられた問題に対して全面的に調査し、後に報告を発表するとのこと。

 

 

◼️医療関係資格不正使用問題

薬局や病院向けに薬剤師免許や医師免許の貸し借りの仲介役を担うサイトが存在する問題。このようなサービスを利用する薬局や病院は、医師免許などを有料でレンタルし、医師不在のまま医療行為を行えてしまう。「聘証網」というサイトは就職情報サイトのように見せかけて、実際には免許名義レンタルの仲介をしている。

該当企業:聘証網、猎正網、他複数社。

対処:現在摘発された「聘証網」と「猎正網」は凍結している。

 

◼️大人用オムツ再利用問題

使用済みのオムツを回収し、それを再利用してまた新たに大人用オムツを生産していたという衛生用品の不衛生さを問われた問題。

該当企業:湖北佰斯特衛生用品有限公司、金得利衛生用品有限公司

対処:湖北省仙桃市にある湖北佰斯特衛生用品有限公司については、番組放送当日に同市当局が同社を取り締まり、関係者5人を拘束した。

 

 

◼️家電業界アフターサービス料金不当請求問題

複数の家電メーカーがアフターサービスにおいて様々な理由をつけてサービス料金を請求しているとの問題。問題のない家電に対しても問題があるかのように対応し、無料設置のサービスを行う際に部品の購入を勧誘するなどしたとのこと。

該当企業:美的、他複数社

対処:美的グループは消費者にお詫びし、厳しく対処するとの声明を発表。

 

◼️高利貸しアプリ問題

大学生などの若者を相手に、7日あるいは14日という短い返済期限に多額の利息という条件で金を貸し付けるアプリが悪質であるという問題。暴力による取り立てを行っているなどの問題も発覚した。

該当アプリ:融360、速貨宝、他複数社。

対処:問題のアプリを提供する企業の1つ紫兰科技公司の責任者5人の身柄が当局により拘束された。また、放送後にはインターネット金融サービスを取り扱う「融360」を運営する企業も声明を出し、アプリを撤去したうえで自主調査も開始すると表明した。

 

今年の「315晩会」は中国国外の大企業を名指しすることなく、比較的規模の小さい中国企業の問題が多く指摘された。指摘された企業の中でまだ比較的知名度の高い企業は美的と銀聯の2社のみ。さらに同社において問題視されたアフターサービスやクイックパス機能も、過去に同番組内で取り上げられた問題と比べると世間からの注目度や当該企業への影響など全体的に控え目な印象である。米中貿易戦による両国の経済的損失も無視できないという状況の中、中国当局による国外企業への配慮がはたらいた可能性がある。