中国テクノロジー業界を中心に、最近ネット上で議論を呼んだホットワード「996」。朝9時から夜9時まで週6日出勤という勤務形態を指す。とある中国のEC企業が年次総会にて996の常態化を宣言し、同社のプログラマーらがその過酷な労働環境を告発したという事例があった。同様の不満を抱えるプログラマーは国内で後を絶たず、主にテクノロジー企業での劣悪な労働条件は今、996という言葉と共に多くの注目を集めている。
急上昇ワード“996” 昔から存在するという現実
今年3月末、ソフトウェア開発プラットフォームのGitHubにて「996.ICU」というプロジェクトが立ち上げられた。これは996の過酷な労働環境の下でプログラマーが体調を崩し、ICU(集中治療室)に運ばれていくという意味で名づけられた。このプロジェクトでは匿名で自社の過酷な残業などを非難することができ、すぐに多くのプログラマーの共感と支持を得た。さらに過度な残業が存在する企業名が「ブラックリスト」として挙げられており、アリババや京東、DJI(大手ドローンメーカー)など著名なIT企業の名も含まれている。
これについてアリババ会長のジャック・マーは、996を一つの「恵み」と表現し、人一倍の努力しないと、成功は手に入れられないとコメントした。この発言は大きな波紋を呼び、ジャック・マー個人のweiboには批判のコメントが相次いだ。
▲ジャック・マーのweiboに寄せられたコメント
(大意)“残業が問題なのではなく、サービス残業というのが酷い。聞き捨てならないのが、それをスキルアップの機会であるとか良いように言い換えていること。”
(大意)“一企業のトップがそのように言った後、どれだけの社長があなたの意を曲解し、あなたの話を持ち出して996を強制し得るか、考えたことがありますか?お願いします、あなたは労働環境改善へ向かわせるべき存在であって、社員を説き伏せている場合では決してないのです!”
ジャック・マー以外にも、京東会長の劉強東は起業時の苦しさを振り返り、996を強制するようなことはできないが、努力の精神も欠かせないと強調した。これらの発言に対し、一大企業の起業時の苦労と一般会社員の仕事とを比べることがそもそもの間違いであり、大企業の取締役レベルの人間にはもっと一般人の生活も考えてもらいたいといった趣旨のコメントが多く寄せられた。
いわゆる「ブラック企業」に関する話題が物議を醸したのは今回が初めてではない。2016年には生活情報サイト「58同城」が996を採用し、社員らは大きく反発した。その前の2015年にはWeChatを運営するテンセントの社員が過労死したことも大きな話題となった。
8割のサラリーマンが日常的に残業、そのうち7割がサービス残業
▲2019年のサラリーマン残業時間(出典:智聯招聘)
▲7割以上がサービス残業(出典:智聯招聘)
中国の人材会社「智聯招聘」が行った調査によると、残業があると答えたサラリーマンは8割を超え、「3時間以内」との回答が最も多く全体の約26%を占めた。次いで5〜10時間の残業との回答が約18%となった。また、驚くべきことにその7割以上がサービス残業(賃金不払い残業)であるということも判明した。
過酷な労働条件、その原因とは?
中国経済の急速な発展に置いていかれぬよう、企業は利益を最優先にしがちである。それにより長時間にわたる労働は常態化し、従業員へのストレスも増えている。特にIT業界は変化が激しく、日々激しくなる競争に負けまいと企業が従業員にかけるプレッシャーは膨れ上がり、対応しきれない仕事は残業へと回さざるを得ない。
GDP世界2位となった中国は今、日本と同じような課題に直面している。近年は過労死の件数が増えており、過酷な労働環境への不満の声は日に日に大きくなっている。これからも世界のトップを走り続けるのであれば、中国でも「働き方の変革」が始まっていくだろう。