世界初のブラックホールの写真が4月10日に公開され、その歴史的快挙に世界中から注目が集まった。一方、中国では違う意味でブラックホール写真が大きな話題を呼んでいたのである。写真や映像などのビジュアルコンテンツを販売する「視覚中国」というサイトが、本来著作権フリーであるこのブラックホール写真を販売していたことが発覚し、大きな物議を醸した。
事件の経緯
視覚中国は2000年に成立した中国初のオンライン・ビジュアルコンテンツ販売サイトで、世界中のカメラマンやアーティストと契約し、写真や映像などのコンテンツを提供している。2014年には深センでIPOも達成した。
▲視覚中国で販売されるブラックホール写真(出典:weibo)
ブラックホール写真が公開された後、視覚中国は自社クレジットを表記したブラックホール写真を掲載し、商用する際は問い合わせるよう要求したところ、この著作権の主張は不適切であると感じたユーザーがweiboでこのことを投稿した。するとその投稿は瞬く間に大きな反響を呼び、さらには当該写真以外にも中国の国旗や企業ロゴまでもが販売されていることが発覚し、視覚中国は世論からの激しい非難を浴びた。これを受けて同サイトは謝罪したうえでサービスを停止し、4月29日現在も未だにサイトは開けない状態である。
視覚中国はコンテンツの違法販売には至っておらず、この事件だけを見ると当該画像の削除と謝罪のみでも十分との見方もあるが、運営停止にまで及んだ裏には以前から存在する同様の素材販売サイトによる著作権侵害の問題がある。
蔓延する不当な著作権の主張
本来の著作権保有者から作品の著作権を買い、作品使用希望者に使用料を請求するというのが素材販売サイトの正当な商売である。しかし視覚中国の動きを観察すると、著作権を悪用したビジネスを行っていたようだ。
2017年に視覚中国は「鷹眼」というシステムを開発し、同社に著作権のある作品のネット上での使用状況を細かく調査していた。そして、使用料を支払わずにコンテンツを使用した企業に対して賠償金を請求する。ここまでは一見正当な調査・請求であるように思われるが、関係データによると視覚中国が2018年に抱えた裁判は2968件にものぼり、2017年には5676件もあった。つまり同社はこの2年間で合計8644件、平均して1日に10件から15件もの裁判を行ったのである。
この大量の裁判には、不当なものが含まれている。視覚中国は正確なクレジット表記をしていない画像を故意にネット上で拡散し、そこにはフリー素材と勘違いさせ賠償金を請求する狙いがあったのではと言われている。実際に被害にあったと訴える企業が複数あり、無断でコンテンツを使用することはもちろん違法であるが、視覚中国のような悪質な運営方法は以前から問題視され始めていた。このような背景があっての今回の事件は反発の声をより大きくし、ネットでの驚異的な拡散を招くことになったと考えられる。事件の後、視覚中国に続いて全景網や東方ICなど複数サイトがサービスを停止し、同業界には他にも同様の問題があると指摘されている。
今回の視覚中国の事件を通して、中国国営テレビは批判のコメントを発表し、さらに視覚中国の運営会社が所在する天津市の関係部門は同社に対して30万元(約500万円)の罰金を課した。近年、中国政府は知的財産を専門に扱う裁判所を設立するなど、知的財産権の保護を強化している。しかしそれでも視覚中国のようなサイトは複数存在し、知的財産保護にはまだ多くの課題が残る。情報化が日ごとに進む時代の中で、今回の事件が大きく話題になったことをきっかけに情報を扱うあらゆるサービスのより正当な運営と、特に差しあたり素材販売サイトによる著作権の不正利用問題の早急な改善を期待する。