6月11日から13日までの3日間、アジア最大級のテクノロジー見本市「CES Asia 2019」が上海で開催された。CES Asiaは毎年米国ラスベガスで開催されるデジタル製品見本市「CES」のアジア版で、今年で5回目の開催となる。チャイトピ!は昨年に引き続きCES Asiaを取材した。今年もその最新情報をいち早く発信する。

今年のCES Asia出店企業は125社のスタートアップを含めて550社を超えた。出展テーマは5GやAI(人工知能)、IoT、自動運転、VR/AR、ロボットなど多岐にわたり、特に注目されたのは5G技術の自動車分野での活用だった。

 

5G×自動車技術

今年は自動車技術の展示が大きく展開され、一部はまるでモーターショーであった。車の展示面積は会場全体のおよそ3分の1を占め、世界中から60社もの自動車メーカーや自動車部品関連会社が出展した。アウディやメルセデス・ベンツ、ヒュンダイ(現代)自動車、KIAに加え、日産やホンダなどの日本企業も出展し、各社は自動運転車や電気自動車、さらに最新のコンセプトカーや、インターネットに常時接続し、情報通信端末としても機能するコネクテッドカーなども披露し会場を盛り上げた。

6月6日に中国政府が通信キャリアに対して5G営業ライセンスを発行したことで、5G技術は中国で再びホットワードとなった。世界中で5Gネットワーク普及に向けた取り組みが盛んな中、今年のCES Asiaでも5G技術は主役として様々な分野で活用されていた。特に自動車メーカーは揃って5Gコネクテッドカーに関連するソリューションを打ち出している。

▲威馬汽車とバイドゥの共同開発システム「ValetParking」搭載車(撮影:チャイトピ!)

中国電気自動車メーカーの威馬汽車はバイドゥとの共同開発で「ValetParking」システムを公開した。同システムを搭載した自動運転車は個人所有およびレンタカー事業において、スマホ等モバイル端末による遠隔操作での出入庫や自動充電などを実現させる。

▲紅旗のスマートバス(撮影:チャイトピ!)

中国の自動車メーカー紅旗はファーウェイの5G技術を活用した小型バスを展示した。将来このバスはユーザーの端末と繋がり容量の大きいファイルを一瞬でダウンロードできるようにしたり、物流配達車としても機能できるという。

▲日産の新技術「Invisible-to-Visible」(撮影:チャイトピ!)

日本企業については、日産が「Invisible-to-Visible(見えないものを可視化する)」技術を披露した。ドライバーには本来見えない角度や遠くにいる人などを確認できるようにする。さらにドライバーの脳波測定による運転支援技術「Brain-to-Vehicle」も展示された。このシステムは専用のヘルメットをかぶることでドライバーの脳電波が検出され、それに基づいて運転アシストがなされる。たとえば、事故発生時にはドライバーの反応の遅れを同システムがカバーするなど、人と車が一体となって走行することを実現する。

 

AI、IoT技術はCES Asiaの常連に

5Gの登場により身近になったIoT技術は今回のCES Asiaのもう一つのテーマである。昨年よりもAIとIoT技術に関する展示は多く見られ、家電メーカーやIT企業はこぞって自社開発のIoT技術をアピールした。スマートホームの普及もかなり近づいてきていると感じる。

▲IFLYTEKのAIレコーダー(撮影:チャイトピ!)

中国の大手AI開発企業IFLYTEK(科大訊飛)はAI技術を活用したレコーダーを展示した。15メートル圏内の音声を録音でき、98%の合致率でその内容を文字に起こすことができる。また、IFLYTEK以外にも中国の検索エンジン開発会社SOGOU(搜狗)が同様のレコーダーを公開した。これも合致率は95%だという。このようなレコーダーは以前からあったが、最新モデルはさらに精度を上げてきているようだ。

▲Suning.comのスマート商品棚(撮影:チャイトピ!)

現場では中国O2O小売企業のSuning.comが展示するIoT技術を活用した重量センサーで商品を識別できる商品棚が注目を集めた。棚から手に取った商品の詳細がディスプレイに表示され、たとえば写真のように1つのマンゴスチン(果物の一種)を手に取ると、その価格や産地、運送過程などの情報が自動表示される。さらにこの棚を通して在庫管理もでき、販売者にも重宝されそうだ。

一つ懸念されるのは、違う商品でも重さが同じであればシステムに混乱が生じる可能があることだと現場の関係者は話した。店舗側は注意すべき商品同士を分けて陳列する必要があり、顧客による置き間違いの対策も必要になってくる。

▲nuralogixの顔スキャン健康管理アプリ(撮影:チャイトピ!)

カナダのAI開発スタートアップ nuralogix が開発した顔をスキャンして体調をチェックするアプリも話題を呼んだ。特別なカメラは必要なく、自分のスマホに内蔵されたカメラで顔をスキャンするだけで心理状態や病気の可能性などが診断される。現場でも体験者の血圧や皮膚の状態などがアプリに表示された。

▲OBSBOTの人物追跡AIカメラ(撮影:チャイトピ!)

中国・深センのAI開発スタートアップOBSBOTは特定人物を認識し追跡撮影するAIビデオカメラを展示した。ハンドサインで人物指定や錄画開始/停止などの操作ができる。手のひらを前に見せる「パー」のハンドサインをすれば被写体を指定でき、2本指で丸を描く「OK」のハンドサインをすれば一度目は撮影開始、二度目は撮影停止の指示として認識するようになっている。画面を直接操作することもでき、さらに被写体として犬と猫も指定できる。実際にチャイトピ!編集部が体験した結果、人影に隠れたり飛び跳ねたりしても認識され、追跡機能の精度は高かった。

▲同社製ロボットと組み合わせて長距離追跡もできる。(写真提供:OBSBOT社)

同社の技術関係者によると、被写体の追跡ではAI技術を用いてピントを合わせていて、さらには同社製のロボットと組み合わせると長距離の追跡もできる。この技術は現在中国で人気のショート動画業界での活躍が期待でき、実際に同社はすでにTikTokとの業務提携に向けて動いているという。

 

拡大していくロボットの活躍フィールド

会場ではロボットが幅広い分野を支えるような存在感を見せた。近年はエンタメ、ホテル、レストラン業界等でロボットの活躍が多く見られるが、今後ますます多くの業界の発展をロボットが支えていくだろう。

▲寒武紀のプログラミング勉強ロボット(撮影:チャイトピ!)

中国のAI開発企業・寒武紀は6歳以上の子供向けのプログラミング勉強用ロボットを展示した。コーディング(データの符号化作業)などの専門知識を子供向けに解説し、自分でもプログラミングできるように指導する。また、深センのロボット開発企業・工匠社が開発した格闘ロボットも現場で人気を集めた。 近距離対戦用と遠距離対戦用のロボットが展示され、実演では動きもスムーズに見えた。

▲工匠社の格闘ロボット(撮影:チャイトピ!)

中国ではEC業界の一大行事「618セール」(以前の記事リンク)を来週に控え、これに合わせてSuning は配達員の腰を守るロボット「腰部助力外骨骼(腰部サポート外骨格ロボ)」を発表した。短期間で急増する配達件数は配達員の体に多大な負担をかける。このロボットは運搬時のエネルギー消耗を軽減でき、配達員の労働環境と物流効率の向上が期待される。

▲Suning の外骨格ロボット「腰部助力外骨骼」(撮影:チャイトピ!)

AIやIoTなどの技術は何年も前から注目され、開発も進んでいるにもかかわらず、消費者の手に届くまでの大規模な商用展開には至らなかった。しかし今回のCES Asiaで特に感じたことは、5Gネットワークの整備が進む今、これらの技術はついに普及のときを迎えつつあるということだ。現在世界4か国で5Gの商用展開が始まり、中国の三大通信キャリアも5G商品の発売に向けて動いている状態である。今回のCES Asiaで展示されたAIやIoT、自動車技術などが日常生活で見られるようになるまであと少しのところだろう。