「日本はAI後進国。投資対象となるユニコーン企業が現れていない」

2019年7月18日に開催されたソフトバンク主催の大型ショーケースイベント「SoftBank World 2019」にて同社の孫正義社長はこのような痛烈な言葉を残した。
ネット社会の現代、ほとんどの人がスマホを所持している。そしてそのスマホを使用する際インターネットに接続しなければほとんど何もできない。

ではネットに接続する際、どこの国のOSや検索エンジンを使用しているのだろう。
代表的な主流OSとしてWindowsとMacが挙げられる。そしてこの2つは両方ともアメリカ企業のものである。
アイルランドのWeb分析会社「StatCounter」の調査によると、2019年のスマホによる検索エンジンシェア率はGoogleが94.72%を誇り他と圧倒的な差をつけている。2位には1.39%でBaidu、3位には1.17でYahoo!が続く。

アメリカは実質、日本を含めた世界中のユーザーデータを所持しているのだ。
反対に日本は自国のデータを所持・把握ができていない。このような事柄が日本がAI後進国と言われている要因の1つなのかもしれない。

また日本の近隣国である中国は膨大な人口を抱えているため、すでに多くのユーザーデータを所持している。目まぐるしい成長を続ける中国でもAI技術は必要不可欠なものとなっており、2013年以降、企業の平均的なAI技術への投資額は3倍にも上る。そして日本でも注目されているサービスの多くに、AI技術が活用されている。

世界的にも注目され、発展を続けているAI技術、2019年も終わりに差し掛かっている今、中国で注目されているAI事業についてまとめてみた。

AIチップ

↑アリババ・自社開発のAIチップ「含光800」(公式サイトより)

発展を続けるAI技術において、AIがさらなる高パフォーマンスの処理能力を発揮できるよう開発されている半導体チップことAIチップ。今後数十年の世界のチップ産業のトップを担う存在がまだ確立されていないため、世界的にも多くの大手企業らがAIチップ開発に力を入れている。

そして中国でも8月にファーウェイが「 Ascend910(昇騰910)」を、9月にはアリババが「含光800( HanGuang 800)」を発表するなど、半導体の自給率が著しく低い中国で大手企業らが積極的にAIチップの開発に取り組んでいる。

また共に世界最高性能を謳う両社の発表したAIチップは、それぞれ用途が異なる。
ビッグデータなどを利用して「トレーニング」を行いAIモデルを形成するのがファーウェイの「 Ascend910(昇騰910)」、出来上がっているモデルに様々な処理を行う「推論」を行うのがアリババの「含光800( HanGuang 800)」である。

対話型AI

アリババがリリースした音声サービスの事例(撮影:チャイトピ!)

人々の生活において1番わかりやすく浸透しているのが対話型AIだろう。チャットや音声でAIと対話するこの技術は身近なものだと、スマートフォンやパソコンなどに内臓されている。家庭用としてはAIスピーカーなどが主流だ。

音声で指示を出すことにより、電話をかけたり、音楽を流したり、知りたい情報を得ることができる。中国では多くのプラットフォーム上のカスタマーセンターで対話型AIの技術が取り入れられている。
これにより消費者へのレスポンスと対応の最速化を実現させたのだ。

対話型AIは高齢者や、低年齢層への需要が特に高い。

関係部門によると1人っ子政策を行い人口増加を抑えていた中国は、2020年に60歳以上の人の数が約2.5億人にも上ると推測されており、中国の全人口のおよそ17.8%を占める。
高齢化社会が進む中国で、対話型AIによる電子機器の操作や目の不自由な方の手助けは必要不可欠なものになっていくだろう。

また、対話型AIは低年齢層では教育の分野で位置を確立している。
例えばスマートスピーカーのEcho Dotや双方向での会話が可能なAIアシスタントのGoogle Assistantは家庭での教育現場で活用されている。両親の共働きが主流な中国で対話型AIは、さらなる発展と需要を高めるだろう。

そして音声認識ソフトウェアなどで定評のある中国の情報技術企業は「科大讯飞(iFLYTEK)」である。最先端のAI企業とも呼ばれており、AI技術を活用した様々な言語の翻訳システムを開発しており、特に中国語の翻訳・通訳精度に関しては98%にも及ぶという。

AIビジネスソリューション

【チャイトピ!編集(参考元:同花順 )

中国において特にAI技術に関する投資額が高かったのが企業のビジネス課題を解決していくAIソリューションである。

代表的なビジネス課題のAI応用例として人材管理が挙げられる。
雇用webサイト「CareerBuilder」が2017年にアメリカ人人事マネージャーを対象に行った調査で約50%が“5年以内にAIは仕事の一部となる”と答えた。
彼らによると社員の処遇を決定する人事の仕事はとても責任のある仕事であるため、AIの利用は人事担当の仕事効率の向上のみならず、精神的負担をも軽減できる1つの策となるのだという。

AIは人材管理の中で様々なことに応用することができる。
採用の際、履歴書を見て対面面接やオンライン面接などを行う過程はとても労力の要いる仕事だ。しかしAIによって応募者全員分の処理工程が簡略化される。

例えばアメリカのデジタル面接プラットフォーム「HireVue」は面接者の面接の際の表情や話し方を分析しデータ化、活躍する人材を予測する。考慮することのできなかった適正や能力などの審査が公平かつ速やかに行われ、欲しい人材の、確保の機会を失うことなくより高品質な対面面接へつなげることができる。

面接の様子はデータとして残るため、採用にかかる面接工数も削減される。
アマゾンはAIを利用し、商品同様に応募者に5段階の星評価を行っている。

アリババも投資しておりビジネスソリューションを展開する中国企業が、小売り業界向けにサービスを提供しているBIZVANE (商帆科技) である。
主にCRM(顧客関係管理)製品の開発・運用を手がけている。2015年に設立したばかりだがすでに400社以上の企業と提携しており、26万人以上のユーザーがBIZVANEのサービスを利用している。

AIの動向

消費者の要求がますます高くなっている現在、多くの企業がAI技術を利用した事業やサービスを提供し人々の生活はより豊かなものとなっている。

AI技術の発展による雇用問題や倫理観などの不安感が懸念視されているものの、企業によるAI技術の開発はより一層勢いを増しているのだ。

様々な分野で活躍しているAI技術のこれからの発展の拡大に注目である。