つい先日行われた中国最大のネット通販セールイベント・ダブル11において売上記録を塗り替えたアリババなどのEC企業が脚光を浴び話題となった。
その裏では中国宅配便業者たちもEC企業同様に奮闘していた。同イベントで配送依頼が殺到し、宅配件数記録を更新したのだ。中国国家郵便局が発表したデータによると、11月11日~16日の宅配依頼ラッシュ期間中、郵便局と民間宅配便業者ら合計23.09億件の配達注文を受け、前年比23%増加した。
しかし大盛況を見せた中国宅配便業界の現状は、決して楽観視できるものではないのだ。
低価格戦略で利益が下落した中国宅配便業者
現在の中国民間宅配業者(国営の郵便局を除く)は以下が3大勢力である。
・京東自社宅配サービス
・順豊
・三通一達(中通、申通、圓通、韵達の4社)
京東の自社宅配サービスは赤字運営が続いているものの、京東の主要事業であるEC事業において速達サービスは重要な要を担っている。1993年と、早くに創業した順豊はビジネス向けの宅配業を中心に成長し、2017年には上場を果たした。
比較的穏やかな傾向にある上記2社と比較すると、アリババの本部がある杭州で誕生した「三通一達」は4社間の競争が激化しており全社が宅配便サービスの値段を引き下げ、消耗戦に陥った。その結果業務量が増えても、純利益が下がる一方となった。さらには業績の悪化がサービス品質の悪化に繋がり、従業員による荷物の乱暴な仕分け動画が一時ネットで話題となってしまった。
今年Q3決算報告によると、三通一達の申通の純利益は前年比63%減少の3億元(約46.5億円)、韵達の純利益は前年比33%減少の7億元(約108.6億円)であった。収益は増加したものの、純利益は前年を下回る結果となった。圓通の純利益は成長を見せたが、伸び率7%と成長スピードの緩和は明らかである。
EC企業向け業務頼りの「三通一達」
「三通一達」の発展過程において、アリババの存在感はかなり大きい。アリババが展開するECサイト・タオバオと天猫上での配送依頼が4社を急成長させたのだ。しかしこの業務体制が4社をECサービスによる配送依頼に依存させる結果にしてしまった。そしてビジネスモデルが似ている「三通一達」は一斉に価格を下げ、市場シェアの争奪戦を展開することとなった。
そして京東以外にも、EC企業が相次いで宅配便会社を立ち上げて、宅配便業界へ参入している。
蘇寧(Suning)は2017年に宅配便企業の「天天快递」を買収し、本格的に宅配便事業を始めた。女性向けのECサイト唯品会も2013年から自社宅配サービス「品駿快递」を展開している。
EC企業に依存し成長してきた「三通一達」だが、現在ではそのEC企業が競争相手となっているのだ。
アリババが主導する宅配技術開発の菜鳥の野望
アリババは2013年に順豊や三通一達などの宅配便業者と共同で宅配技術開発会社・菜鳥(cainiao)を創立した。
当時アリババは自社宅配サービスを立ち上げるつもりはないと宣言していた。そして菜鳥を通して中国の民間物流企業を協業させ、スマート物流ネットワークを構築することを目標に、業者達には技術とデータだけを提供し、宅配の実務には関与しないと発表したのだった。
しかし2015年からアリババは圓通、中通、申通に出資し宅配便業界への影響力を強めた。菜鳥にも何度もの増資を行い、創立当初は43%であった持ち株比率を63%にまで引き上げた。それに比例して業者らの持ち株率は減少した。
さらに今年の3月にアリババは倉庫と配送を一体化させた物流サービス「丹鳥」をリリース。このサービスはアリババの自社宅配便サービスとも言える。アリババの宅配業界への野心が明らかになった。
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アリババのライバルである京東の会長・劉強東は、“アリババの菜鳥は表面上は三通一達らと協業し物流の効率を高めたが、裏では協定企業らの収益を自身のモノにしている”と菜鳥を批判した。
菜鳥が「三通一達」に技術とデータを提供している事で「三通一達」はますます菜鳥に依存した業務体制に陥っている。競争が激化している宅配便業界において、長期に渡る低価格戦略は企業に重い負担を強いらせ、その上EC大手らの市場参入が「三通一達」の市場シェアを奪った。
「三通一達」の状況は楽観視できないが、中国EC市場勢力の変動は「三通一達」に大きな希望を与えている。中通が発表したデータによると、今年Q2の業務では拼多多(ピンドウドウ)からの宅配依頼が前年より増加し、全体の20%を占めた。
拼多多などの中国EC市場の新勢力が「三通一達」にとって突破口になるかもしれない。