美を追求し自分の外見をよくするための美容医療、よく見せるための美顔カメラやコスメなどのサービスや商品が、近年中国で話題になっている。
そして関連商品の発展から、「顔面偏差値経済(颜值经济)」という言葉が誕生した。
美容医療市場の急成長
▲2016年~2018年・中国美容医療市場規模(出典:前瞻产业研究院)
2015年から中国美容医療市場が伸び始め、2018年の市場規模は2245億元(約3兆4000億円)に達し、消費者数は2000万人にまで上った。しかし中国の美容医療の浸透率は約2%で、先進国の10%を大幅に下回っており、まだまだ市場は伸び代を秘めている。
2015年に中国政府は美容医療関連の審査を緩和した。そのお陰で美容医療業界には資金が多く集まり、市場への新規参入が相次いだ。そして美容医療系アプリも続出し、市場競争は激化。2018年3月以降の美容医療関連の新規企業登録数は2016年の4倍にものぼった。
京東や美団などのインターネット大手も美容医療にビジネスチャンスを感じ、関連事業を始めている。美容医療サービスの利用者数は女性が全体の64%を占めている。年齢層からみると、19~24歳の利用者がもっとも多く、全体の24.5%を占める。
80後(1980年代生まれ)、90後(1990年代生まれ)の若者の間では抜け毛の悩みが一般的になっている。そのため美容医療サービスの植毛手術を受ける人が増えている。30歳以下で抜け毛の悩みを抱える人は植毛サービス利用者の全体の63.1%を占めており、若者の植毛需要は高いのだ。
主な美容医療アプリ
▲主な美容医療アプリ(チャイトピ!作成)
今年5月にナスダックで上場を果たした美容医療アプリを代表する「新氧(SoYoung.com)」は、Q3の四半期決算で収益が前年比80%増加と、好調な成績を出している。
「新氧」は最初、ユーザーが自分の整形前後の写真や感想をシェアできるコミュニティであった。美容に関するコンテンツが増えていく中で新氧はEC事業の展開を始め、ユーザーがアプリで美容サービスを予約出来る、ユーザーと医療機構を繋げるサービスを始めた。
美容医療市場は利益が高い一方、リスクも高い。許可を持っている医師の不足や利益を上げるための品質の悪い医療機器の利用など、様々な問題が存在している。
2017年から中国政府は違法な美容医療経営や活動の取り締まりを開始した。政府の監督強化を受け、これからの美容医療業界は零細企業などの経営が困難になり、大手企業にリソースが集まることが予想できる。
美顔カメラ市場と人気なアプリ
SNSが存在する環境下で育てられた中国の若者たちはSNS上で自分がどう見られているかを気にして、外見への重視度がどんどん高まっている。そのため美容医療以外にも、美顔カメラが1つの手段になっている。
2019年美顔カメラアプリを利用してる中国人は約4.5億人で、浸透率は約40%。モバイル端末を利用する人、10人のうち4人が美顔カメラを利用していることにある。
▲2018年7月~2019年7月美顔カメラアプリの利用者数と浸透率(出典:极光)
美顔カメラは撮影と写真編集の2種類に大きく分けられる。
- 撮影:自撮りが主な機能
代表的なアプリ:Faceu激萌、美颜相机、无他相机、轻颜相机 - 写真編集: 写真の加工が主な機能
代表的なアプリ:美图秀秀、天天P图、PicsArt 、Snaoseed
▲美顔カメラ勢力図(チャイトピ作成)
これらの美顔カメラアプリはソーシャル事業を展開するインターネット企業と関わりが深い。
例えば「Faceu激萌」と「轻颜相机」はtiktokの運営会社であるバイトダンスが開発したアプリで、「天天P图」は中国ソーシャル最大手・テンセントのサービスだ。中国版ツイッターのweiboは「无他相机」に出資している。
美顔カメラ業界はソーシャル企業の戦場となっているのだ。
顔面偏差値経済の熱気は美容医療や美顔カメラの分野だけに留まらず、フィットネスやコスメなどの分野にも影響を与えている。
天猫(Tmall)が発表したデータによると、2018年天猫コスメ商品の売上は前年比60%増加した。その売り上げの主力にあっているのが90後消費者である。若者による自身への「投資」ブームが続く限り、顔面偏差値経済の熱気もますます上がっていくだろう。