「網紅(インフルエンサー/KOL)」といえば、ECで活用される商品PRの主なツールというイメージが強いだろう。中国では「李佳琦(Austin)」など、初めからEC効果を目的として物を売る網紅が多い。そのような網紅達と比べて、コンテンツの制作に注力し独特な動画配信でフォロワーをweiboは2100万人、YouTubeは750万人持つ「李子柒(Liziqi、リー・ズーチー)」は網紅の中では少し特別な存在だと言えるだろう。
こんなにも多くのフォロワーも持てば、その人気をどうマネタイズ化するか考えるのが一般的だと思うが、李子柒のビジネスの仕方は少し特殊である。
田舎の食生活動画で人気急上昇
李子柒は2016年からweiboなどでショートムービーの投稿を始めた。桃の花でお酒を作ったり、竹を切って家具を作ったり、大豆の種を撒いて育て収穫し醤油を作るなど田舎生活の様々な様子を垣間見せた。童話のような美しく神秘的な雰囲気に憧れた人々のフォローがどんどん増えていった。
▲李子柒のYouTube投稿
李子柒はweiboだけでなく、Tik tok、bilibili、meipaiなど複数のプラットフォームに動画を投稿しフォロワーを増やした。Tik tokのフォロワーは現時点で約3000万人いる。さらに中国ではVPNがないと見ることのできないYouTubeでのチャンネル登録者数は750万人にのぼり、動画に英語の字幕がないにも関わらず海外で高い評価を得ている。
先日中国国営メディアも、珍しく彼女を報道し中国文化を海外へ伝える行動を称賛した。網紅である李子柒だが、人々がイメージする網紅とは少し離れており、現在では中国文化を広めている人、というイメージへ向上した。
一般的に、歌を歌ったり、ダンスをするなど自分の得技を見せネットで人気を集めた後にほとんどの網紅が動画内で広告を出すなど、「売れっ子」をビジネスに繋げていく。しかしビジネス化してしまうと、今までフォロワーを増やしてきた重要コンテンツの魅力が低下することが多い。急速で人気を得たかと思えば、いつの間にか消えてしまっている網紅が多く存在する。
李子柒はいまだに自分の動画内に広告を打ったことがない(YouTube以外の中国国内プラットフォーム)。寿命の短い網紅の中で、2016年に人気になった李子柒は3年経った今もその人気を保っている。
物議を呼んだ動画のクオリティの高さ、後ろに運営チームがいるのか
李子柒の動画が人気になった一方、その動画は本人が撮影しているのかという疑問の声も高まった。李子柒は三脚を使って撮影し、編集までも自身で行っていると表明しているが、動画のあまりにも洗礼されたクオリティの高さに1人の手だけによるものとは思えない、後ろに運営チームがいるのではないかという疑いの声が止まない。李子柒は人々のプレッシャーに耐えきれず一時期更新を中断していた。その後李子柒は大衆の疑念への対応として、カメラマンを雇った方が自分も楽になると、カメラマンを雇った。
この件は単に撮影したのが誰なのかに対する疑問ではなく、動画が写す美しい田舎生活が本物なのか、運営チームによってつくられた偽物なのかの真偽に対するものであった。
李子柒の動画は果たして単純に田舎生活を世間に伝えるために作られたのか、それとも最初から意図して儲けるために人気を集めたビジネス企画なのか?
背後の網紅育成会社「微念科技」の考え、最初からIP価値を狙う
公開資料を見て見ると、李子柒はコンテンツ製作や網紅育成事業を展開する会社「微念科技」と契約している。李子柒は自分の力で最初はフォロワーを増やしていったが、海外に名を知られるまでの人気に火を付けたのは「微念科技」の協力があってだろう。
▲「微念科技」に登録している李子柒(左上の赤い服着てる人)(ホームページより)
「微念科技」は未だに動画に広告の1つも出していない李子柒の人気をどのようにして会社のビジネスに活用するつもりなのか?
「微念科技」と李子柒の関係性とビジネス化の過程を説明するために両者の繋がりを整理した。
- 2015年:「微念科技」が「李子柒」の商標登録申請を提出
- 2016年4月:李子柒がweiboで初動画を投稿
- 2016年6月:李子柒が動画画面に「李子柒」のロゴを入れる
- 2016年8月:「李子柒」の商標登録申請に成功
- 2017年7月:李子柒の名前を使った「四川子柒文化传播有限公司」が成立。微念科技が51%の株式を持つ筆頭株主、李佳佳(李子柒の本名と思われる)が49%の株式を所有
- 2018年7月:李子柒・ブランドが天猫で旗艦店を開店
- 2019年11月:ダブル11セールで李子柒天猫旗艦店の売上は8000万元(約12億円)超え
上記の過程からを見ると李子柒の商標は本人が人気になる前から登録申請されている。微念科技は商標意識がとても高く、積極的に網紅の育成を展開していることがわかる。人気になった網紅をすぐに商品販売や商品PRに参入させ収益化させるわけではなく、微念科技はコンテンツ製作に注力し李子柒を単なる網紅としてではなく、1つのIPあるいは1つのブランドへ成長させ、結果収益化につながることを狙っている。
▲「李子柒」天猫旗艦店・商品の種類は少ないが、月販売数が高い
たくさんの網紅がEC、広告などを通してマネタイズ化を実現しているが、その人気が廃れると同時に、網紅の商業価値も下がる。コンテンツの積み上げに長時間にわたって力を入れ、IP価値を狙う李子柒のような網紅はどこまで歩んでいくのかチャイトピ!は引き続き追っていきたい。
*アイキャッチ写真は李子柒のyoutube投稿より
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