中国・bilibili(哔哩哔哩/ビリビリ)といえば、二次元が好きな中国の若者たちがよく利用する動画サイトのイメージが頭に浮かぶだろう。アニメ素材を個人が編集し二次製作した作品をアップしたり、面白い動画に「弾幕(流れるコメント)」を送ったり、二次元愛好者にとって天国とも呼べるbilibiliは最近予想外な動きを見せている。
2019年12月にbilibiliは8億元(約1兆2千億円)で超人気ゲーム「League of Legends」の競技試合の独占放送権を購入し、さらにその半月後に3000万ものフォロワーを持つ超人気ライブ配信者「冯提莫」と独占契約したと発表した。「冯提莫」との契約金額は発表されていないが、同女性の人気からみると決して安くない金額であると言われている。
アニメ愛好者のコミュニティであるbilibiliは他分野の事業にこれ程もの資金を投入し、事業拡大の狙いを示した。
極めて稀なテンセントとアリババ両社による支援を得たbilibili
bilibiliは2009年に設立された。当時は、人気動画共有サイト「Acfun」から独立した予備サイトでしかなかったが、現在では1.2億人のMAUを持つ中国の大規模サイトへ成長した。一方、Acfunは衰退しショート動画アプリ「Kwai」に売却される形となった。この両社の対照的な成長結果も中国メディアで頻繁に話題に挙がる。
▲bilibiliのホームページ・二次元以外にもライブやゲームの試合チャンネルが開設
中国ではアリババとテンセントの大手2社の対立が激しく、インターネット企業らはアリババ陣営かテンセント陣営のどちらかに入るのが一般的になっている。そんな中bilibiliはアリババとテンセント2社それぞれからの出資を得た。2015年bilibiliがテンセントからの出資を獲得しテンセント陣営と思われたが、2019年2月にアリババもbilibiliへの投資を発表した。bilibiliが持つ若者ユーザーはアリババにとっても魅力的だったのだ。
bilibiliではUGC関連のユーザーによる生成コンテンツ、個人製作作品などが最も多く、放送権を購入したドラマやアニメ作品は多くない。作品の放送権への資金投入を惜しまないiQIYIと比にならないほどだが、広告収益の成長率は完全にbilibiliがiQIYIを上回った。2019年Q3のiQIYIの広告収益は前年比14%減少と不振に陥った。これに比べると、bilibiliは前年比80%急増の広告収益を出した。
2019年に入り中国広告市場全体の成長が減速し始め、広告事業に収益を頼っていたインターネット企業は打撃を受けた。そんな環境下で成長を見せるbilibiliのポテンシャルは高い。
関連記事はこちら: 中国版NetflixのiQIYIの新たな課金制度に批判が殺到、背後にはBATの競争激化
さらなる成長のため多様化を展開
動画サイトとは言え、bilibiliの収益の柱はゲーム事業である。(自社開発ゲームではなく、人気ゲームの代理発行)
2018年Q4の決算ではゲーム事業収益が会社全体収益の62%をしめた。ゲーム事業への収益の依存度が高かった。しかしそのリスクを下げるため、bilibiliは広告やECなどの他の分野の事業展開に積極的になり、その結果ゲーム事業収益の割合は減少し、2019年Q3では50%までに下がった。
▲bilibiliでライブ配信してる冯提莫(公式weiboより)
今回契約した超人気ライブ配信者「冯提莫」は元々ゲームライブ配信プラットフォーム「斗魚(douyu)」で人気を獲得した配信者で、配信内容がbilibiliの雰囲気には合わないと指摘され、bilibiliの行動を懸念する声もあがっている。
「冯提莫」は最初ゲーム実況配信を行っていたが、その後歌を歌うことで人気を集めた。現在は歌手に向けて活動をしている。3000万フォロワーを持つ彼女との契約により、そのフォロワーがbilibiliに流れることは予想できる。
また、「League of Legends」の競技試合の3年間独占放送権を購入した行為も中国eスポーツ業界の熱気でゲーム関係のユーザーを増やしbilibiliを盛り上げる狙いがあるのだろう。この試合の放送権は以前からゲームライブ配信に特化した2大大手の「斗魚」と「虎牙」が争っていたが、bilibiliが8億元もの莫大な金額を投入し放送権を獲得した。
ライブ配信、eスポーツなどの市場への拡大により、収益の多様化を図るbilibiliは、アニメ関係サイトからアニメ・ゲーム・ライブ配信までもを展開する若者が集まるコミュニティとなった。
中国の若者たちの購買力はますます高まっており、多くの企業が狙う消費者層となった。多くの若者利用者を持つbilibiliがテンセントとアリババ両社の注目を得たのもおかしくないのだ。