中国フードデリバリー最大手の「美団(meituan)」が手数料を引き上げ、現在の状況下で足下を見るようなやり方にクレームが殺到している。
新型コロナウイルスにより客足が急減し、中国の飲食業界は巨大な損失を被った。他の業界が手数料の値下げなどを行い出店者をサポートする中、美団はなぜこのような行動をとったのだろうか?
手数料値上げにより不満が募る出店者
2月18日から24日の間に、中国重慶市、四川省、雲南省、山東省の飲食協会が「美団」と「eleme(餓了麼)」に対しての手数料引き下げの手紙を公開した。
美団は新型コロナウイルス流行初期に手数料を8%に引き下げたのだが、その1週間後に大幅に20%引き上げたのだ。この行動はウイルス流行中に自社の利益のためではないかと出店者側から強く批判を浴びた。
美団も、新型コロナウイルス発生以降出店者支援策を打ち出し、一部の出店企業に対して、手数料減免などの措置をとったが、対象がごく一部の出店者に限られており、一般の飲食店への効果がゼロだと皮肉られた。
黒字化に躍起になる美団の思惑
美団は創業当初、ユーザー獲得のため8%の低手数料を採用していたが、現在は大型チェーン店・18%、小規模店・23%という手数料を設定している。
新型コロナウイルスが流行している時期に出店者へ優遇措置を取り、終息後に手数料を普段の水準に戻したらいいのではないかという声も挙がっているが、去年ようやく黒字化を実現できた美団にとって、ホテルや旅行などの事業が停滞状態にある今、最も需要が高いデリバリー事業の手数料値下げは会社の資金状況に影響するため意に反するのだろう。
▲美団とelemeの市場シェア変化(出典:Trustdata)
今まで激しい市場競争下に身を置いていた、美団とelemeは創業初期からの出店者に低手数料の措置をとり、消費者にも補助金を出し、多くのユーザーを獲得してきた。
赤字経営を続けてきた美団とelemeだが、競合の多い市場競争の中で勝ち上がり、デリバリー業界2強となった。さらに美団は自社より創業開始が早かったelemeを追い越し、市場シェアをどんどん拡大し、2019年Q3のシェア率は65%を超え、紛れもなく中国フードデリバリーの最大手となった。
しかし全体の市場が頭打ちになるに伴い、ユーザー数や収益の成長は鈍化している。会社の価値を判断するに、利益率は重要な指標となっている。
美団はオンライン旅行やホテル、シェア自転車、金融など様々な業界へ進出しているが、デリバリー事業が会社の最も重要な収入源である。
そのためデリバリー事業の手数料引き上げは最も効率の良い黒字化の方法だと言えるだろう。2019年Q2で美団は創業から9年目にして初の黒字を実現した。さらに2019年Q3も成長を続けて、純利益19億元(約282億円)を実現した。フードデリバリー事業の収益は155億元(約2320億円)で全体の57%を占める。注文数増加の他に、手数料値上げが収益増加に貢献しているのだ。
さらに美団は消費者への補助金も少しずつ減らし、月額15元の会員登録を行うと30元のクーポンが発行される会員制度に転換している。
▲美団の会員登録画面
中国調査会社EqualOceanによると、アメリカのデリバリー企業GrubHub、Uber Eats、イギリスのデリバリー企業Deliverooの手数料は30%を超えている。そんな企業らと比較すると、美団の20%の手数料率は低料金である。
美団に登録している配達員は約300万人いる。中国の人件費は比較的に安いが、美団の決算報告によると、2019年上半期の手数料収益は216億元、配達員給与のコストは177億元にものぼる。つまり手数料収益の8割以上が配達員の給与支払いに配当されているのだ。美団が補助金作戦から手数料引き上げなのど措置をとるのもは会社の発展のため当然なことだろう。
手数料値上げによりユーザーが減るか
中国のデリバリーサービスが世界で最も発展していると言っても過言ではないだろう。アメリカなど欧米もデリバリーサービスが浸透しているが、市場規模や配達の効率からみると圧倒的に中国が上回っている。ロシアでは配達員が歩いて商品を配送するなど効率の悪いやり方は中国でも話題になった。
中国の高い人口密度、安い労働力などがデリバリーの発展にとって良い環境だった。美団ら初期の補助金作戦もユーザー習慣の育成に貢献した。
手数料値上げは最終的に商品の値上げに反映される。値上がりした商品をデリバリーする消費者が減少するのが予想できる。しかし美団とelemeが構築したデリバリーサービスはすでに中国社会のインフラとなっており大規模なユーザー離脱の懸念はないだろう。
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