アリババ6982億元の売上、コロナ後の消費回復をアピール
中国EC祭典の618セールは6月1日から18日まで開催され、アリババは累計注文額が6982億元(約10兆5400億円)を達成し、記録を塗り替えたことを発表した。アリババが618セールの売り上げを公開するのは今回が初めてである。その理由としてコロナが収束に向かっている中、初めて開催された今回の大型セールが、中国消費回復状況を見る上でとても重要なイベントであるため、どれ程売れたかに対して多くの注目が集まっていたことが挙げられる。
他にも中国大手EC2位「京東(JD.com)」の累計注文額(6月1日~18日)が2692億元(約4兆672億円)で前年比33%増加、「蘇寧(suning)」も18日当日の売上が前年比129%増加と、いずれも好調を見せた。
▲EC各社の売上(チャイトピ!作成)
コロナの影響で中国経済は大きなダメージを受け、第1四半期のGDP成長率はマイナス6.8%と、92年以降初めてのマイナス成長への落ち込みをみせた。中国政府は景気回復のために消費喚起策に力を入れ、EC企業と提携して消費券(クーポン券)を配布し618セールを盛り上げた。
ショート動画が618で高い存在感を、ライブコマース業界に起きる変化
アリババによると、618セールで「ファーウェイ」や「エスティローダー」など、ブランドのライブ配信経由売上が1億元(約15億円)を突破した。
コロナの影響を受けオンライン販路へ注力する企業が増えており、企業のCEOや地方都市の市長らもライブ配信での顔出しを始め、自社や地元の商品販売に助力している。関係データによると、今年中国のライブコマース関連企業は6千社も増え、前年より258%急増した。
以前から618セールではアリババや京東らEC大手が主役を担っていたが、ライブコマースの勢いの波に乗り「TikTok(抖音)」や「Kwai(快手)」をはじめとするショート動画企業も618セールに参入しネット通販業界での存在感を高めた。
▲中国ライブコマース勢力図(チャイトピ!作成)
中国ライブコマース業界ではアリババの「淘宝直播」、TikTok、Kwaiの3社がトップ3に並んでいる。3社の中でも、アリババが業界を先駆けてライブ配信による商品販売を始めた。後発のTikTokとKwaiは動画を強みに持っており、ECサイトにユーザーを誘導する形でのライブコマースを展開した。この3社に比べて少し遅れをとっていた京東も、618セール直前にKwaiと長期的な協業関係を結び、ライブコマースでの勢力強化を図った。このようにEC企業とショート動画企業の提携が増えている。
一方、アリババの「タオバオ」と提携していたTikTokは618セール後に提携を解除し、自社EC事業を立ち上げる計画が報じられた。他者ECサイトにユーザーを誘導する形式を辞め、自社サイト内で取引を完成させるスタイルへ転換していく。さらに、検索エンジン大手のバイドゥやQ&Aサイトの「知乎」などの企業も618セールの直前にライブコマースへ新規参入し、中国ライブコマース業界図に大きな変革がもたらされた。
▲ブランドが行うライブ配信現場(撮影:チャイトピ!)
今までKOL(インフルエンサー)を採用したライブコマースが売り上げを上げるための有力な手法として浸透し、人気KOL+ライブ配信が成功のパターンとなっていた。
しかしメーカー側からすると売上向上の裏には、KOLに支払う高い手数料と広告費、商品を低価格で提供する代価がかかっている。ライブコマースで1番儲かるのはKOLであり、メーカーではない。そのため、一時的な売上向上ではなく、マーケティング効果を重要視し、KOLを採用しない自社でのライブコマースを行う企業が増えている。
今回の618セールでもKOLを採用していないブランドのライブコマースが成長しており、タオバオでライブ配信を行った出店者数は前年比160%増加した。売上トップ10のライブ配信者の中でもブランド自身のライブ配信が6割を占め、KOLによるライブ配信を超えた。今年の618セールが終わった今後のライブコマースは販路ではなく、マーケティングの手法として定着していく傾向にある。
中国消費回復状況は?
中国国家統計局が発表したデータでは、5月の社会消費財小売額が前年より2.8%減少しているが、下げ幅は4月より4.7ポイント縮小した。回復の兆しが見えつつあるが、前年の水準にはまだ戻れていないのが現状だ。
▲中国社会消費財小売総額成長率の推移(出典:中国国家統計局)
618セールで見られた好成績はコロナにより抑えられていた反動による「リベンジ消費」の貢献が大きく、大規模な補助金や高い割引率も功を奏している。また、北京での感染拡大による第2波への警戒が強まり出しており、本格的な消費回復にはまだまだ時間がかかるとの見方もあるのが現状だ。