地方市場向け新サービス「花小猪」を打ち出したDiDiの狙い

今年3月に、貴州省・遵義(じゅんぎ)市、山東省・臨沂(りんぎ)市などの地方都市で低価格配車サービス「花小猪(huaxiaozhu)」がリリースされた。しばらくすると実質的にオンライン配車最大手DiDi(滴滴)傘下の新サービスであることが明らかになり、「花小猪」は注目の的となった。
コロナ禍により人々の外出減少で配車業界は苦境に立たされた。花小猪のリリースはDiDiの主力事業への梃入れを図る目的があるのだろう。

▲花小猪のアプリ画面、低価格を前面に打ち出している

▲2018年中国オンライン配車の都市浸透率(出典:前瞻研究院)

近年「地方市場」が中国ビジネス業界のホットワードとなっており、EC大手の拼多多(pinduouo)も地方市場の大きなポテンシャルを生かし急成長してきた。中国一線都市でのオンライン配車の浸透率は約84%にのぼるが、地方都市のオンライン配車の浸透率は57%前後に留まる。花小猪は若年層の多い地方都市を中心に事業展開しており、拼多多が活用していたシェア型クーポンなどのプロモーション手法を採用し、「オンライン配車業界の拼多多」と呼ばれた。

度重なる問題発生、花小猪の課題

中国現地メディアの報道によると、花小猪はオンライン配車市場シェアの25%を目標に掲げており、DiDiの花小猪への期待値はかなり高い。しかしリリース開始からの約半年を振り返ってみると、花小猪の発展は好調だとは言えない。
地方市場においてのオンライン配車の伸び代は高いように見えるが、市民の利用習慣の育成にまだまだ時間を要する。
花小猪は8月からサービスエリアを北京や広州などの一線都市に拡大し、地方市場向けサービスの位置付けが不明確になった。その上一線都市に進出すると、親会社のDiDiとの競争は免れない。中国リサーチ会社「極光」によると、花小猪とDiDiのアプリユーザーの重複率は50%以上にも上る。

近ごろ、花小猪の運転手が規定の走行ルートを外れたことで乗客と口論になり、運転手が乗客を途中で降ろした動画がネットで波紋を呼んだ。他にも待ち時間の長さ、運転手の勝手な注文キャンセルなどのケースが多発しており、多くの利用者から不満の声が上がった。さらに、経営許可を取得していないため、複数の地方政府にサービスを停止されるなど、一連のマイナスな事件で花小猪の発展に懸念する声も多い。

では、中国配車サービス市場8割以上の市場シェアを占め、絶対的な地位に君臨する滴滴はどうして花小猪をリリースしたのだろうか?

伸び悩むDiDi、噂される美団との合併

「TMD」と呼ばれる中国IT新御三家の中で、先にIPOを果たした美団(meituan)、ショートムービーで世界中を席巻したバイトダンスと比較すると、DiDiの成長は思わしくなく、評価額は2017年の500億ドル前後から止まっている。
当初市場シェアを取るために採用した補助金作戦は確かに有効的だったが、DiDi側のコストが大きく、黒字化への道のりが遠かった。補助金政策を取り止めれば、運転手が注文を受けなくなり、マッチング率が低下、ユーザー離れが起きかねない。

今年6月に美団と合併する噂が出回り、DiDiはその噂を否定したが、市場ではDiDiの今後の発展が悩ましく思われている。
新たな成長エンジンを探るためDiDiは新規事業の開拓に乗り出し、一部の都市でフードデリバリー、貨物運送などのサービスを打ち出したが、どのサービスも拡大することがなかった。さらに、主力事業のオンライン配車市場も近年、嘀嗒出行(Didachuxing)や哈啰出行(hellobike)などの企業が、相乗りサービスといった細分化した分野で成長を果たしており、DiDiにとって無視できない存在となっている。
そんなDiDiの今後の動向に注目していきたい。