中国人気コスメブランド・完美日記(Perfect Diary)を運営する「YATSEN(逸仙電商)」が米SECに対して上場に向けた目論見書を提出した。
完美日記は「RED(小紅書)」や「weibo」などの新興プラットフォーム上での販売とマーケティングに注力し、短期間で若年層女性達に爆発的人気となっている。その驚きの成長スピードに注目が集まっているのだ。

今回チャイトピ!はYATSENが公開した目論見書を元に同社の実績と課題を分析してみた。

2019年の売上高が前年比377%激増

▲YATSENの資金調達状況(出典:天眼查)

YATSENは2016年に広州で創業し、今までに5回も資金調達を成功させており、評価額は2018年の1億ドルから現在は40億ドルにまで上がり、40倍も拡大している。

▲2020年Q3までのYATSENの売上高推移(億元)(チャイトピ!作成)

2019年のYATSENの売上高も31億元と、2018年の6億元より約377%大幅増加した。2020年Q1~Q3の売上高も32億元で前年同期より73%増加しており、伸び率は高い水準を維持している。

YATSENは格安コスメの完美日記のほかに、中高級市場向けコスメブランド・小奥汀(Little Ondine)とスキンケアブランドの完子心选(Abby’s Choice)を運営している。

主力ブランドである完美日記はKOLを活用したネットマーケティングに力を入れ、1995年以降生まれの若世代の間で人気を集めた。2019年の「ダブル11(独身の日、中国EC最大のセールイベント)」では国内外の有名老舗ブランドを打ち負かし、売上ランキング1位に輝いた。
今年もダブル11が11月1日から開催されており、販売開始1時間で完美日記が売上トップを占め、幸先の良いスタートを切った。

販売費の高騰と、研究開発能力の弱さ

YATSENの急成長の裏には懸念点も存在する。

▲ 2020年Q3までのYATSENの損益(億元)(チャイトピ!作成)

目論見書によると、2019年の純利益は7500万元で、2018年とは違い黒字へ転換したが、純利益率は2.5%以下に留まった。さらに、2020年Q1~Q3では11億元の純損失を出し(Non-GAAPでの純損失は5億円)、赤字に戻ってしまったのだ。
新型コロナウイルスとオフラインへの投資が響いたほかに、販売費増加が要因なのは明らかである。

▲2020年Q3までのYATSENの販売費と販売費が売上高を占める割合
(チャイトピ!作成)

2019年のYATSENの販売費は12億元で、売上高を占める割合は41.3%。2020年Q1~Q3では、販売費は20億元にのぼり、売上高を占める割合は62.2%に拡大、マーケティング活動にかけるコストが着々と膨らんでいる。
YATSENはマーケティングを重要視している一方、研究開発能力が不十分である。2020年Q1~Q3の研究開発費用が売上高を占める割合はわずか1.25%であった。

リアル店舗を増やすYATSENの試み

オンラインマーケティングに重点を置くYATSENは商品開発能力を弱みに持つ。商品製造は他社に依頼し、ODM / OEMメーカーへの依存度が高い。コスメ市場はブランドの入れ替わりが速く、瞬く間に淘汰されるリスクを持っている。
実際に、花西子(Florasis)などの新興ブランドが次々と誕生し、SNSマーケティングを活用し一定のユーザーを獲得してきた。完美日記にとって脅威なのだ。

▲完美日記のリアル店舗(撮影:チャイトピ!)

こうした背景下でもYATSENは突破口を探り、様々な対策を打ち出した。
オンラインの伸び率鈍化に伴い、オフライン市場が見直された。2019年完美日記は上海で初めてのリアル店舗をオープンし、今後3年間で店舗数を600店に増やす計画を公開した。
また、韓国化粧品OEM大手のCOSMAXと共同で研究開発及び製造基地を建設し、2022年に生産開始を予定している。さらにYATSENはこの基地で自社の研究センターを建設する計画も立てており、研究開発にも注力していく姿勢である。

新興ブランドの攻勢を受け、老舗ブランドも時代の流れに順応しオンラインマーケティングに力を入れている。中国コスメ業界の競争は日々激しさを増しており、YATSENが今後どんな施策をとっていくのか、注目していきたい。