中国事業買収で百度との合意を発表した直後に空売りされたJOYY

アメリカの空売り調査会社「マディ・ウォーターズ」から架空のユーザー数と売上水増しを指摘され、ライブ配信や動画などを展開する「JOYY(歓聚集団)」の株価が26%急落した。
JOYYは中国国内向けの娯楽系ライブ配信サービス・YY live(YY直播)を検索エンジン大手の「百度(baidu)」に36億ドルで売却することで合意したことがつい先日発表されたばかりであった。そんなタイミングでの空売りにより買収案はどうなるのか、市場の関心が寄せられている。

▲YY liveのスマホ画面(チャイトピ!よりキャプチャー)

活気を見せる中国ライブ配信業界の中でも、JOYYは創業が早く、古参プレイヤー的な存在で2012年に米ナスダックで上場している。YY liveとゲーム実況配信サービス「huya(2020年にテンセントに売却した)」を傘下に持つ。
YYliveは元々、2008年にリリースされたゲーマー向けの音声通信ソフト「YY語音」であった。ユーザー数をみるみるうちに増やし、瞬く間に音楽やゲームなどの配信内容を含めた娯楽全般のライブ配信プラットフォームへと成長した。月間アクティブユーザー数は約4120万人である。

また、JOYYは近年、海外進出を積極的に行っており、2019年にはシンガポールに拠点を置く動画アプリ・BIGOを買収した。同社が展開するライブ配信サービス・BIGO liveは、2020年10月の世界非ゲームアプリ売上ランキング10位にランクインしている(米調査会社SensorTowerのデータより)。

中国現地メディアの報道によると、JOYYは国内事業のhuyaとYY liveを次々と売却し、今後は海外事業に注力する計画のようだ。売却先の百度にとっても、ライブ配信業界進出にはYY liveが持つユーザーやノウハウはかなり魅力的だ。

伸び悩むYYlive、中国娯楽系ライブ配信の現状

中国ライブ配信といえば、EC+ライブ配信を思い浮かべる人が多いだろう。新型コロナの現状下によりオフライン販売は大きな打撃を受け、オンラインへ注力する企業が増え、ますますライブコマースへの注目度は上昇した。その活況に比べて、ライブ配信の原型とも言える娯楽系ライブ配信は近年伸び悩みを見せている。

娯楽系ライブ配信の特徴は配信者が歌を歌い、トークを行い、ファンが投げ銭をする。その投げ銭がプラットフォームの主な収益源となっているのだ。

YY liveは娯楽系ライブ配信の代表的なプラットフォームであり、ユーザー規模も同業の中では首位にある。しかし近年YYをはじめとする娯楽系ライブ配信全体のユーザーと売上の伸び率が落ち込んでいるのだ。

▲YY liveの課金ユーザー数と伸び率推移
(決算資料に基づきチャイトピ作成!)

▲YY liveの売上推移
(決算資料に基づきチャイトピ作成!)

JOYYの決算を見てみると、直近2年間のYY liveの売上も減少の傾向にある。2020年Q3では28.91億元で前年同期より6%減少した。2019年から課金ユーザー数は400万人前後に留まり、伸び率も19.1%から4.7%に落ちた。

YY liveだけではなく、ユーザー数2位に位置し、香港で上場しているinke(映客)も同じく成長鈍化の課題に直面している。同社の全体売上の9割以上を占めるライブ配信の売上は2016年から年々減少しているのだ。2016年~2019年の売上はそれぞれ43億元、39億元、38億元、32億元となっている。
新型コロナウイルスの巣ごもり特需でユーザーを増やし、売上も急増しているオンラインゲームやライブコマース業界とは対照的に、収益が減少している娯楽系ライブ配信。娯楽系ライブ配信の時代は過ぎてしまったようだ。

さらに近年、快手やdouyinなどショートムービーアプリもライブ配信を展開しており、YY liveの競争環境は激化している。
その上、中国政府がライブ配信への規制を強化した。メディアを管轄する広電総局は近頃、ライブ配信の配信者と課金ユーザーの実名化を要求する通知を発表、実名登録していないユーザーと未成年ユーザーによる投げ銭が不可能となる。この規定が実施されればYYliveの収益に大きな影響を及ぼすだろう。

まとめ:

マディ・ウォーターズの空売りレポートに対して、JOYYは「マディ・ウォーターズは中国のライブ配信業界のビジネスモデルを理解してない、レポートには大量の誤った情報が含まれている」と反論している。
しかし不正会計の疑惑を別にし、YY liveの近年の伸び悩みだけを見ても、百度による2020年Q3売上高の84%にも相当する36億ドルの買収額には疑問の声が上がっている。
マディ・ウォーターズの空売りに対して百度側はまだコメントを発表していない。2021年前半に買収手続きを完了する計画であるが、この買収案がどうなるか引き続き追っていきたい。

 

関連記事はこちら:
2019年中国ライブ配信市場レポート
JOYYの決算資料はこちら:
https://ir.yy.com/index.php/financial-information/quarterly-results