2010年に北京で創業されたアートトイブランド・POP MART(泡泡玛特、ポップマート)が12月11日に香港証券取引所で上場を果たした。時価総額は1065億HKD(約1兆4300億円)。

POP MARTは中身が見えない「盲盒(ブラインドボックス)」仕様のアートトイ販売を展開しており、2017年以降の3年間で売上を10倍にも伸ばした。
創業当時はおもちゃを含めた雑貨店であったが、現在はおもちゃに特化したブランドになっている。特に2016年に打ち出した自社IP(知的財産)キャラクターであるMollyは若者の間で大人気となり同社の売れ筋商品である。2019年にはMollyシリーズのブラインドボックスが700万個も売れている。

▲ POP MARTの売上上位のIP(左からDimoo、Molly、PUCKY、The monster)
(撮影:チャイトピ!)

急成長のPOP MART

アートトイは子供向けのおもちゃとは異なり、ポップカルチャーを融合させた15~40歳の消費者をターゲットにしたものである。遊ぶだけでなく、コレクション用やファン同士で交換することが多い。
国際市場調査会社のFrost & Sullivanによると、中国のアートトイ市場の発展はまだ初期段階にあるが、ここ数年の成長は著しい。市場規模は2015年の63億元から2019年の207億元に拡大している。現在のアートトイの人気からみると、今後も市場は伸びていくと予測されている。

▲2017~2020年上半期POP MARTの売上と損益推移
(POP MARTの目論見書に基づきチャイトピ!作成)

POP MARTは2014~2016年の3年間、連続赤字であったが、2017年から黒字転換し、売上と純利益が共に急増している。2019年の売上は16億8300万元で2017年の10倍以上となった。純利益は4億5110万元で2017年の約300倍となった。新型コロナウイルスで中国の消費市場が打撃を受けた2020年上半期も、売上は前年同期比50%の伸び率を保っている。

▲販売ルート別の売上構成比
(POP MARTの目論見書に基づきチャイトピ!作成)

販売ルートは、実店舗とECの両方を展開しているほか、コストの低い自動販売機販売も展開している。2020年6月末時点で中国では136店舗と1001個の自販機を有している。さらに2021年に83店舗、800自販機を増やす計画も発表している。
また、実店舗は一、二級都市を中心に展開しており、北京、上海、広州の3都市の実店舗数が全体の46%を占める。

▲上海のショッピングセンターにあるリアル店舗と自販機
(撮影:チャイトピ!)

IP+ブラインドボックスが成長の鍵

POP MARTはIPを事業の核心としている。Mollyを含め自社所有のIP12個、独占的ライセンスを獲得したIP25個、非独占的IPも56個所有している。
自社IPのMolly、Dimooと独占的IPの Pucky、The monsterが売上トップ4である。この中でもMollyがPOP MARTにとって最も重要なIPであり、売上への貢献度が最も高い。2017年~2019年のMollyの売り上げ全体の占める割合はそれぞれ89.4%、62.9%、32.9%%だった。

▲Mollyのブラインドボックス、1シリーズで12種類ある
(撮影:チャイトピ!)

人気IPの次に、「ブラインドボックス」の販売手法もPOP MARTの成長の鍵である。カプセルを開けるまで中身がわからないというワクワク感に若者は興味をそそられている。さらに、レア商品や限定品が入っているため、毎シリーズごとに全種類集まるまで買う熱狂的なファンもいる。59元のレア商品や限定品はフリマサイトでは2000元まで値上げして転売される現象も存在する。

ブラインドボックスは日本のガチャガチャと似ており、2000年代から海外ブランドのブラインドボックスが中国で販売されるようになった。そして2016年からPOP MARTがMollyを打ち出し、ブラインドボックスの人気に火をつけ、大ブームを起こした。今やアートトイ業界だけでなく、化粧品や海鮮食品を取り扱う小売店もみんな真似して、ブラインドボックスの販売手法を活用している。

人気IPの持続的開発が今後の課題

POP MARTの売上は、POP MARTブランドのIP商品(自社IP、独占IP、非独占IP含め)の売上と第3社商品販売売上の2種類に分けられる。2019年のPOP MARTブランドのIP商品売上は全体売上の72.7%を占めた。Mollyなど人気4つのIP商品の売上が全体売上の58%を占める。

▲2019年IP別の売上構成比
(目論見書に基づきチャイトピ!作成)

数少ない人気IPへの依存度が高く、経営に不利な影響をもたらすリスクを下げるため、POP MARTはデザイナーチームを作って新IPの開発に力を入れているが、いまだに新たな人気IPは生まれてない。さらに掘り下げてみると、人気自社IPであるMollyとDimooも元々自社開発ではなく、アーティストから買収したIPである。

人気アニメや映画に登場するキャラクターのフィギュアと異なり、アートトイにはそのキャラのストーリーがなく、デザインのみでの販売となる。人気に火がつくのは偶然性によるものであり、持続的開発が成功につながる保証はない。また、ポップカルチャーの変化は早く、若者の趣味や好みも日々変わっている。Mollyのような人気IPもその人気がいつまで保つか予測もできず保証もできない。

IP開発について、創業者の王寧氏はディズニーのようにたくさん映画を作らなくても、自社のやり方でIPを開発し商業化していき、5年後には最もディズニーと似ている中国企業になるかもしれないと発表している。
上場を果たした初の中国アートトイブランドとして今後の展開に注目である。

 

目論見書資料はこちら:
https://www1.hkexnews.hk/app/sehk/2020/101931/documents/sehk20060102881_c.pdf