春節(旧正月、今年は2月12日)は中国で最も重きをおかれている祝日である。この時期は中国全土が最も盛り上がりを見せるのだ。企業にとっても春節は見逃せないマーケティングチャンスである。
2014年にテンセントは、提供するwechat pay(微信支付)のモバイル決済サービスを普及させるため「デジタルお年玉(紅包/ホンバオ)」機能を開発した。スマホアプリでお金を気軽に送受信できるため、同年の春節で大流行した。その後ライバルであるアリペイ(支付宝)が2016年に福カードを集めて5億元のお年玉を分け合う「集五福」というキャンペーンを打ち出し、参加者数は1億人を超えた。
このようにお年玉のばらまきを通してサービス利用者を増加させるために毎年春節は、アリババやテンセントを含めた複数のネット企業がお年玉ばらまき合戦に参戦している。それでは今年は各社、どんなイベントを打ち出しただろう。
総額1700億円を超えるお年玉
春節の2週間前から複数のスマホアプリがロゴに春節キャンペーンのメッセージを追加した。百度(検索エンジン)、douyin(抖音/中国版Tik Tok)、快手(ショート動画)、拼多多(EC)の4社アプリに「分〇〇億(〇〇億元をばらまく)」が表示された。
一方で、アリペイ(支付宝)は「集五福」イベントを今年も引き続き行い、金額は例年通り5億元で上記の4社の2桁と比べると少ない。ロゴも派手な宣伝はなく、「过福年(福のある1年を)」と表示されているだけだ。モバイル決済2強のアリペイとwechatpayが市場シェア獲得のため開始したお年玉配布合戦は近年ネット業界に広がりをみせ、動画企業やEC企業に活用されている傾向にある。
拼多多や百度など8社が配ったお年玉の総額は110億元(約1780億円)に達した。各社の金額を見ると、28億元のバラマキを宣言した拼多多の金額が最も大きい。次いで百度が22億元、快手と抖音がそれぞれ21億元、20億元であった。
毎年のお年玉ばらまき合戦において中国版紅白歌合戦と言われる年越し番組「春晩」の存在はかなり大きい。wechat payが2014年に「春晩」と連携し、視聴者にお年玉を配るマーケティングが大成功して以降、毎年「春晩」の「お年玉スポンサー」を巡る競争が激化している。放送の歴史が35年を超える「春晩」の近年の影響力は比較的下降気味だが、視聴者数5億人を超える定番の年越す番組としての宣伝効果は依然と企業にとっては魅力的である。今年はdouyinが「春晩」のスポンサーとなり、番組の放送中に12億元のお年玉をばらまいた。
ネット企業の狙いは?
春節のお年玉戦略に投じている大金は会社の利益にかなり影響を与えている。百度は2019年Q1で上場後初の赤字を出し、CFOが春節のマーケティング費用が赤字に繋がったと発表している。これだけのコストをかけて大手ネット企業らがお年玉ばらまき戦略を続けるのは何故だろうか。
お年玉の受け取り条件を見てみると、基本的に3つのパターンがある:
- カードを集める
- 友達にイベントを拡散する
- ゲームをクリアする
どれもユーザーを増やす事と利用率を引き上げることが目的だ。モバイル決済サービスを普及させるために始めたお年玉ばらまき合戦は、今ではネットサービス業界のユーザー争奪の基本になっている。
一方で、これだけ大金を投入して獲得したユーザーの維持が企業にとって課題になっている。お年玉獲得後にアプリを削除するユーザーも少なくない。実際に百度が2019年に「春晩」と連携して9億元のお年玉を投下し自社のモバイル決済サービスのユーザー増加を図ったが、百度の決済サービスはアリペイやwechat payに匹敵するサービスにはなれなかった。大金を投入して一時的に急増したユーザーをどのようにして維持するかが今後の課題である。