中国で大人気のアイドルオーディション番組「青春有你3」が最終選挙目前に、放送中止を発表した。たくさんのファンから驚きの声が挙がった。
同番組のルールでは、ファンがスポンサー企業の乳製品を購入し蓋の裏にあるQRコードを通して好きなアイドルに投票できる。しかしQRコードを目的に大量購入し、牛乳を下水道に流す動画がネットで拡散されテレビ局が放送中止を命じたのだ。今回の事件により、中国で流行っている「アイドルブーム」の裏にある課題が露呈した。
4月末に中国政府が「反食品浪費法」を成立させた直後に「青春有你3」が牛乳事件で通報された。放送中止はファンの行き過ぎた応援行為による結果だと言われるが、責任は番組の主催企業、スポンサー企業が負うべきではないかとネットで議論を呼んだ。
中国のアイドル市場の現状
2005年「超級女生(スーパーガール)」という女性歌手のオーディション番組が大きいな注目を集めた事が、中国アイドル番組の起源と言える。その後2018年にテンセントが韓国のアイドルオーディション番組「PRODUCE101」の中国版「創造101」を打ち出した。同年にライバルのiQIYI(愛奇芸)が男性バージョンの「偶像练习生」を打ち出し、2番組とも大ヒットとなった。総再生数はそれぞれ30億、50億を達し、中国でアイドルブームを引き起こした。
2018年の中国アイドルの市場規模は604億元である。さらに2020年は1000億元に達する見通しで、そのうち5割はファンによるアイドル関連商品とサービスに対する消費である。
ビジネスモデル
中国アイドル経済の関係者はアイドル、ファン、プラットフォーム、芸能事務所、ブランドに分けられる。テンセント傘下の動画サイト・テンセントビデオ(腾讯视频)とバイドゥ傘下のiQIYI(愛奇芸)といった大手動画サイトがオーディション番組を主催し、アイドルの人気を利用しプラットフォームの利用率を引き上げている。ファンはアイドルの関連グッズやアイドルが出演した広告ブランドの商品を購入し芸能事務所に利益をもたらす。
ファンの特徴
中国アイドルのファンのうち、95後の若者が全体の50%を占める。男女比は12:88で女性ファンが圧倒的に多い。地域分布では、北京、上海など一線都市のファンが多いのが特徴である。
オーディション番組ではアイドル自身の実力ではなく、ファンの多い人気者が選出される傾向にある。ファン投票がアイドルのランキングに大きく反映しており、アイドルが成功するとファン自身も達成を感じられる。
中国のファン文化は集団的な行為で、ファン同士影響を与え合う。自発的に応援グループを作り、そのグループの中でアイドルの関連情報をシェアする。いざファンの集団に入ると、その雰囲気に影響され、アイドルの応援にお金を惜しまなくなる。
中国アイドルブームには課題も多く見られる
中国のアイドル市場は急成長しているが、今回の牛乳事件のようなマイナス的な報道を皮切りに中国アイドルブームの裏側にある課題も露呈した。
- 練習生の実力低下で番組の見どころがなくなる
- 不正行為で投票数が増加
- ファン集団による過激行為
また、中国のアイドル業界は入れ替わりが激しく、事務所と番組の宣伝で一夜にして人気となったアイドルが多くいるが、瞬く間にその人気が落ちていくの一般的である。
中国政府はすでにアイドル養成番組への規制案を発表しており、投票権を買える仕組みを禁止すると明確にしていた。しかし目の前の利益を優先し、この禁止令が無視される傾向にある。
しかし今回の牛乳事件が引き金となり、政府の規制強化によるアイドル番組の制作リスクは増えた。まだまだ発展途上と言える中国のアイドル市場がこれからどうなっていくのか引き続き追っていきたい。