新疆綿問題で不買運動が勃発。海外ブランドの売上急落。
ドイツのスポーツブランドAdidas(アディダス)が2021年4~6月期決算を発表。中国市場における売上は10億300万ユーロで、前年同期より約16%減少した。
他の地域は、新型コロナウイルスの禍から回復傾向にある中で、中国市場が唯一のマイナス成長となった。
中国では今年3月末に、新疆ウイグルでの人権問題の観点から、新疆で生産されたコットンの使用が懸念された。実際に使用を禁止したアパレル大手のH&Mやadidas、nikeなどは、消費者から製品に対するボイコットを受ける結果となった。
AdidasのCEOであるカスパー・ローステッドは、中国市場での収益減少に対し、現地ブランドへのニーズが増えていると解釈した上で、中国市場での収益回復を信じている旨を表明した。
実際に、米国の市場調査会社Morningstarが発表した調査によると、AdidasとnikeのTmall(中国最大のECサイト)における今年4月の売上は、前年同期比それぞれ78%、59%と急激に減少している。
しかし、国際ブランドの苦境に反し、中国国産ブランドの売上は絶好調である。
代表的なスポーツブランドLiNing(李寧)の2021年上半期の純利益は、前年比163%と急増し、市場予想を大幅に超過している。
中国若者四人に聞いてみた!
この出来事についてどう思うか、筆者が事件発生当時の3月に中国の若者にインタビューを行った。
意外なことに、ウイグル問題すら知らず、SNSや周りの友達から聞いた情報で海外ブランドを嫌いになった人が多い。つまり、詳しいことを知らないまま、雰囲気で不買運動に参加しているのである。
それから3ヶ月後の7月、もう一度インタビューを行ったところ、前回と少し違った回答を得た。以下は96~99年生まれの4人の回答である。
A:ニュースが出た時は、これら海外ブランドを嫌になったが、今はそんなに嫌いじゃないかも。国産の良い製品があったら、海外ブランドを購入しなくてもいいけど・・。
B:ニュースが出てから、これらのブランドを一回も買ってない。ただ、618(大型ECセールイベント)の売上ランキングを見てみると、ナイキを買う人は少なくないと思う。
C:購入する頻度は下がったけど、もう海外ブランドを買わないことはない。
D:いつかまた買うと思う。着心地が良い上、代わりとなる国産ブランドが今のところないから、海外ブランドを買うしかない。
H&Mの場合、EC店舗がプラットフォームに閉鎖されたため、閉鎖解除されるまで業績が影響されざるを得ないが、上記のインタビューから見ると、その他のブランドに関しては、事件による影響は少しずつ減少していくだろう。
ただ、政治的要素によるリスクが予想できない中国では、次にどんな出来事が起こるか、誰もわからないのも事実である。
「国潮」への思い
中国ビジネスと関わる方なら、「国潮」を良く耳にするだろう。
中国の国力の成長と伴い、国民による民族への自信も高まっている。若者世代の中国製造、国産ブランドに対する情熱が上昇しているのである。
百度が発表した検索データ調査によると、過去10年における「国潮」の検索は528%増加。国産デジタル製品やアパレル、コスメなどが特に注目を集めている。
その中でも、90後と00後の若者世代が74.4%と大多数を占める。
少し極端的な事例だが、今年7月に中国の河南省が洪水被害を受け、死者が300人を超えた。この事件を受け、創業は早かったものの、近年は存在感が落ちていた中国スポーツブランドERKE(鸿星尔克)が河南省に5,000万元を寄付。一夜にしてSNSで有名になった。
同社は近年、経営不振に陥っていたが、それでも5,000万元という大金を寄付したことで、国民の感動を呼び、「ERKEブーム」が勃発。現在も注文が殺到している。
加えて、Addidasのライブ配信中、ライバーがその場で「ERKEを支持する」と発言するなど、信じられないことも起きている。
しかし、インターネットには人気を留める力はなく、どんなこともすぐ人々に忘れられると言われるため、ERKEがこの人気をいつまで維持できるか疑問である。
このように「国潮」が加速する中国において、中国市場に進出する海外ブランドは、政治問題の取り扱い方に一層気をつけなければならない状況下にある。今後は、中国の若者の考え方や、行動を理解した上でのマーケティングがますます重要となってくるだろう。
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