先日テンセントが保有する中国EC大手京東(JD)株の大半を配当し、JDの筆頭株主の座を降りたことで、世間に衝撃を与えた。それに加え、テンセントは東南アジアIT大手seaの株を売却。テンセントが株を手放した理由は何なのか、その理由を探りたい。

市場では様々な憶測があるが、主に下記2つの理由だと推測されている:

① 独禁対策として、大手企業への出資を減らしていく方針
② 投資先のポートフォリオを組み換え、成長率の高い企業に投資

テンセントは2008年に投資部門を設立し、中国を中心としてベンチャー企業に投資を行ってきた。今まで1,000以上の会社に出資しており、ソフトバンクのように事業会社からの投資会社化を進めている。

投資先には京東の他、美団(meituan)や、DiDi(滴滴)、快手、ビリビリ、RED(小紅書)など、有名な会社が名を連ねる。投資領域は本業のゲームはもちろん、エンタメや教育、企業向けサービス、ハイテクなど、様々な分野で投資を行っている。

順位を拡大表示
▲テンセントが投資した上場企業一覧

中国政府は2021年から独占への取り締まりを強化。これにより、テンセントが投資を通して構築した巨大な「テンセント経済圏」もその標的となった。
企業結合に関する審査が強化され、テンセントは24件の違法企業結合を行ったとして、合計1,200万元(約2億円)の罰金が科されることとなった。しかも、対象期間は過去にも遡るため、投資案件への処罰は今後も続きそうだ。

独禁対策の側面もあるが、今回テンセントが京東株を配当し、さらに東南アジアIT大手seaの株を売却したのには、投資戦略の重点の転換があるだろう。チャイトピは公開された資料(出典:天眼查/IT桔子)を基に、2011~2021年の10年にわたるテンセント投資戦略の変化を分析していきたい。

テンセント過去10年の投資


■年間投資件数の推移

画像3を拡大表示
▲テンセントの年間投資件数の推移(出典:IT桔子)

2008年以前、テンセントはwechatなどの自社事業に注力することで中国SNS市場でのユーザーを増やしてきた。その後、投資会社「騰訊投資(Tencent Investment)」を設立し、本格的な投資活動を開始。2015年あたりから年間投資件数を急拡大している。2019~2020年の投資件数は減少傾向であったが、IT企業にとって風当たりの強かった2021年は、意外にも255件の投資を行い、過去最多を記録した。


■投資領域の変化

未标题-1を拡大表示
▲2011と2021年テンセントの投資領域(出典:天眼查)

テンセントの初期段階の投資活動は、本業のネット関連に集中。特にゲーム領域での投資が多く、2008年には人気MOBAゲームLeague of Legendsの開発会社Riot Gamesに出資し、22%の株式を獲得した。その後、増資が続き、2015年に同社を買収。MOBAゲーム業界での支配的地位を確立した。

さらにその後は、エンタメ・メディア分野への影響力を拡大し、ビリビリ、ちこ(知乎)、huya、douyu、Himalaya、趣头条などの会社に投資し、これら全て有名な会社となるまで成長を遂げた。

また、ライバルのアリババと対抗するように、テンセントは京東(JD)、pinduoduo(拼多多)、唯品会(VIP shop)をはじめとする複数のEC会社にも投資を行い、京東の筆頭株主(配当前)、pinduoduo、唯品会の第2位の株主となった。

2018年以降、テンセントは引き続きゲーム、エンタメなどコンテンツ分野での投資を行ってきたが、企業向けサービスやフィンテック、医療、チップ開発など先端的な技術分野への投資を増やしている状態だ。

アリババと異なる投資スタイル

中国IT2強と呼ばれているが、テンセントとアリババはそれぞれ違った投資戦略があるようだ。

画像5を拡大表示
▲テンセントとアリババ投資先の社数(出典:IT桔子)

投資会社数を見ると、テンセントは1,055社で、アリババは36社と、大きな差がある。

持分比率では、アリババは支配権を獲得するための投資が比較的に多く、636社のうち、80社を買収。動画サイトのyouku、ブラウザのUC、地図サービスの高徳、デリバリーサービスのeleme(餓了麼)などの会社を買収している。

一方、テンセントの買収社数は、1,055社のうち54社のみ。他の投資案件の多くは持分比率を20~49%に抑制しており、大きな影響力を持つものの、実質的な支配権は持っていない。

2021年の投資事例

中国政府がIT大手への独占取締を強化し、テンセントは音楽レーベルの独占権放棄。さらにテンセント主導のゲーム実況配信大手douyuとhuyaの合併案中止を政府に命じられた。
2021は決して投資という観点から見ると良い環境であったとは言えないが、テンセントがこの1年に投資した案件は255件にのぼり、過去最多を記録した。

画像6を拡大表示
▲2021年の投資先(一部)

2021年の投資先を見みると、企業向けサービスの投資件数は57件で最多。ゲームとエンタメはそれぞれ2、3位となっている。
また、クラウドサービスや人工知能、自動運転、チップ開発など、テック企業への投資が増加し、摩尔线程、元象唯思、云豹智能など技術開発のスタートアップにも投資している。

日本企業においては、楽天と角川に出資しており、特に角川には17億元(約300億円)を投資した。

今後の投資戦略は?

テンセントは投資を通して巨大なテンセント経済圏を構築してきた。独禁対策として、今後は投資規模を抑制していくと分析されたが、2021年の投資件数だけを見ると、控えているような姿勢は見えない。
この255件という出資件数を実現できたのは、独占と認定されるほどの支配権を取得せず投資を行ってきたからだろう。

また、テンセントが罰金を科された投資事件のほとんどは「未申告の企業結合」が理由であり、市場独占と認定されていない。唯一市場独占と認定された案件は、テンセント主導のhuyaとdouyuの合併案のみである。

この2社は中国ゲーム実況配信市場の40%、30%のシェアを占めており、両社の合併により筆頭株主のテンセントが中国実況配信市場の支配的地位を確立し、競争を排除、制限する可能性あると認定された。

つまり、今後は投資する前に政府への申告を行い、市場独占にならない程度の投資であれば継続可能ということである。2021年の投資姿勢から見ると、テンセントは今後も積極的な投資姿勢を続けていきそうだ。しかし、投資の方向は政府に支持される技術開発の分野へ転換する可能性が高いかもしれない。