去年11月、上海のコーヒーショップの数が6,913店に達し、東京、ニューヨークを追い抜いて世界でもっともコーヒーショップが多い都市であると話題になった。
スターバックスに脅威を与えたラッキンコーヒーなどの中国ブランドが出現し、さらにTim Hortonsや%Arabicaなど海外ブランドの中国市場参入が相次いだ。中国ではコーヒーブームに熱が帯び始め、競争に拍車がかかっていた。
成長途上にある中国コーヒー市場
そもそも中国ではお茶という伝統的な飲み物が親しまれており、外来品であるコーヒーを嗜む習慣は根付いていなかった。
1990年あたりにコーヒー業界大手であるネスレが中国で廉価なインスタントコーヒーを打ち出したことで、中国のコーヒー市場はインスタントを中心に成長してきた。2018年時点ではインスタントコーヒーが市場シェアの約72%を占めていた。
しかし、全体から見てコーヒー市場の規模はほかの国と比べて小さいものだった。
世界最大の会計事務所であるデロイトによると、2021年各国の年間一人当たりのコーヒー消費量はアメリカが329杯、日本が280杯であるのに対して、中国はたったの9杯となっていた。
一方で、規模が小さいことはつまり成長空間が残っていることをも意味する。
上海が世界でも最もコーヒーショップが多い都市であることからもわかるように、中国の大都市圏ではコーヒーが大いに人気である。2020年の年末時点で中国には10.8万店のコーヒーショップがあり、そのほとんどは一級都市(上海・北京など)及び二級都市に集中していた。
消費者も主に一級都市に住む経済力の高い20〜40歳のサラリーマンがメインであり、一級都市と二級都市のコーヒーを飲む習慣が定着した消費者の割合から見ても、その規模はすでにお茶と同列に並ぶところまで来ていた。
理由としては、中国のGDPが増加するにつれて、中国消費者の経済力と生活水準も引き上げられ、コーヒーのような嗜好品を楽しむゆとりができたからだと考えられる。その中でも、消費力の高い大都市、特に上海など外国人にも人気のある国際都市では元からコーヒーへの需要が高かったため、コーヒーの消費量も店舗の数もダントツとなった。
中国経済メディアの第一財経によると、中国のコーヒー消費量は毎年平均15~20%の勢いで増加しており、世界規模の2%を大幅に上回る結果となった。
さらに別の調査会社、艾媒諮詢(iiMedia Research)のデータによると、中国のコーヒー市場規模は2020年に3,000億元(約5兆4,297億円)を記録しており、2025年には1兆元(約18兆円)に達する見込みである。
コーヒー文化が徐々に広まっていくにつれて「早C晚A」という、朝はコーヒー(Coffee)、夜はアルコール(Alcohol)の生活を意味する流行語もネット上に現れた。中国でも朝の仕事前にコーヒーを一杯啜る習慣が広まりつつあった。
こうした背景もあって、中国では近年様々なコーヒーチェーンブランドが誕生し、日本を含む他国のブランドの中国進出も相次いでいる。
激化するブランド間の競争
中国では1999年に市場進出を果たしたスターバックスが絶大な人気を誇っているが、近年は「ラッキンコーヒー」や「Manner Coffee」、「Nowwa Coffee」など、国内の新興コーヒーブランドが現れたことでその地位が脅かされている。
特にラッキンコーヒーは開店当初に高額割引クーポンで消費者を獲得し、急速な店舗展開で市場シェアが拡大していった。2019年末時点で店舗数はスターバックスを超え、中国最大のコーヒーチェーンブランドにまで成長した。
2020年に不正会計問題が発覚し、米上場廃止に閉店ラッシュが続くなど危機的な状況に陥ったが、債務調整などを経て決算状況が改善を見せていた。そして、2021年に店舗数でまたスターバックスを追い抜き、再び中国市場に返り咲いた。
経営困難でラッキンコーヒーの市場シェアが縮小していた際、Manner CoffeeやNowwa Coffeeなどの競合相手が着々と勢力を伸ばし始めた。
Manner Coffeeは最低10元(約181円)のレギュラーコーヒーを提供しており、商品のコスパ面で勝負しているブランド。テイクアウトでのサービスがメインであり、非常に小さな敷地によってコストを抑え、低価格で濃いコーヒーが人気を得ているようだ。
ラッキンコーヒーよりも数年早く設立され、店舗数はまだ数百店舗にとどまっているが、現地メディアの報道によるとManner Coffeeは粗利率が高く、投資業界からも注目されていた。
そして、Nowwa Coffeeは2019年に設立された若手ブランドであるにもかかわらず、現在すでに店舗数が1500店以上と急成長を遂げている。20代、30代のサラリーマンをターゲットとしたマーケティング戦略を展開しており、値段は15元(約272円)あたりに設定。
スイカ味やメロン味、ココナッツ味などのフルーツコーヒーを打ち出しており、コーヒーに馴染みがなく、苦味に抵抗のある消費者を引き付けることに成功している。
国内コーヒーブランドが頭角を表し始めている間、海外ブランドの中国進出も止まるところを知らない。
2019年2月に中国進出を果たしたカナダの「Tim Hortons」はすでに300以上の店舗を展開しており、IT大手であるテンセントからの出資も受けていた。上海では日本の「%Arabica」やアメリカの「Peet’s Coffee」なども人気を博している。
去年、中国でMannerにNowwa、Tim Hortons(中国)を含む多くのブランドが資金調達に成功しており、年間の資金調達総額は170億元(約3078億円)と過去最高を記録した。
存在感が増すテイクアウト・デリバリー専門店
市場競争が苛烈化するとともに消費者のニーズも多様化している。
コーヒーショップといえば、中国では従来スターバックスや「%Arabica」、「Seesaw」のような快適な雰囲気を醸し出したり、店舗のデザインに凝ったりと空間に付加価値を与え提供するスタイルが基本的だった。ターゲット層となるのは自宅や職場以外でくつろげる第三の場所を求めている消費者だ。
しかし、近年コーヒーが持つ目覚ましの効果自体を求めるサラリーマンの消費者が増加しており、忙しさの中で出前アプリを通して注文し、比較的に優しい値段で手軽に購入できるテイクアウト・デリバリー系コーヒーショップの人気が高まっている。
MannerやNowwa、ラッキンコーヒーなどを例に挙げると、店舗はコンパクトで、基本的には座って飲むスペースは設けられていない。その代わり、価格帯も15元(約272円)あたりに抑えられており位置しており、コスパ的にコーヒーの効能を重視する消費者にとっては魅力的である。
実際、去年では北京と成都ではコーヒーの出前注文数が2倍に膨れ上がるなど大幅に増加した。そうした背景の中、スターバックスも今年、中国出前サービス大手の「美団(meituan)」と業務提携を交わし、出前サービス分野にも力を入れている。
テイクアウト・デリバリー専門店は通常小規模で面積をあまり必要とせず、ブランド側にとって賃貸料や内装コストなどの費用を比較的に低く抑えることができ、迅速な事業展開というメリットもある。
中国コーヒー市場の行方
去年の中国コーヒー輸入量が前年比86%もアップしたことから、今後中国のコーヒー消費量はさらに増加していくことが予想される。
そして、より大勢の消費者がコーヒーを日常的飲み物として必要としていくにつれ、ファストフードのように効率化され、商品価格が手頃のテイクアウト・デリバリー専門店もどんどん出現する可能性が高い。
同時に、スターバックスやラッキンコーヒーなどのコーヒーブランドはポテンシャルがある地方都市への進出も計画しており、今後地方都市を狙うブランドの競争がより激化することが予想される。
しかし、地方都市ではまだコーヒーを飲む習慣が定着しておらず、消費力でも大都市に比べて低いため、コーヒーの普及と適切な価格調整が課題となってくる。
そして、地方都市ではすでに中国ドリンクチェーン大手の「蜜雪氷城」がコーヒーチェーン事業を展開し、版図を広げていた。元々、低価格戦略に長けている同ブランドは、やはり5元(約91円)と安価な値段で売り出しており、すでに約400店舗近くを展開している。
一級都市を主戦場とするコーヒーチェーンブランドが地方へと転戦する際にはこうした壁にも直面しなければならない。