メタバースの大ブームで注目急増
バーチャルヒューマンとは、CG技術やAI技術を活用して生成された、実際の人間と見分けがつかないほどリアルな架空の人物である。
日本では東京2020パラリンピック閉会式にも登場した「imma」というバーチャルヒューマンが近年人気を博しており、プロモーション活動で綾瀬はるかとのコラボを果たし、中国進出にも成功している。
一方、中国では去年からメタバースがブームとなり、アリババやテンセントなどの大手IT企業が積極的に関連商標登録を申請したことで世間から注目されていた。そうした仮想世界への関心が高まっている中、バーチャルヒューマンもトレンドとして注目度が急上昇している。
今年の北京冬季オリンピックという大きな舞台でも、バーチャルヒューマンの姿が多く見られた。
中国大手IT企業のテンセント、百度(バイドゥ)はともに今回の大会向けにAI手話アナウンサーを開発。大会中に試合の実況内容などを翻訳するサービスを提供することができる。ほかにも、政府機関である北京市科学技術委員会が独自のバーチャル手話アナウンサーを投入していた。
そして、中国最大級のECサイト・タオバオを運営するアリババグループはバーチャルヒューマンの「冬冬(dongdong)」を打ち出した。冬冬は北京冬季五輪の関連商品の宣伝などプロモーションで活躍していた。
さらに、フリースタイルスキー女子ビッグエアの金メダルを獲得したことで人気沸騰中のアイリーン・グー(谷愛凌)をモデルとした「Meet GU」も現れ、大会中にスキー試合の実況などをこなしていた。
中国ではバーチャルヒューマンの実用化が進んでおり、業界が成長の兆しを見せていた。
様々な分野で活躍をみせるバーチャルヒューマン
AI技術を応用したバーチャルヒューマンは現実世界の人間に代わって、もしくはサポートする役割を果たすことができる。時間にとらわれずに、24時間でサービスを提供することができるため、様々な場面で活躍することができる。
一方で、immaのようなビジュアルをとことん追求し、モデルとして企業やブランドのプロモーションで活躍するバーチャルヒューマンも増え始めている。
アリババは2021年に、バーチャルヒューマンのAYAYIがデジタル社員として傘下ECモールTmall(天猫)のセールイベントのナビゲーターを担当することを発表した。AYAYIは上海燃麦網絡科技(Ranmai Technology)より同年の5月に公開されたバーチャルヒューマンであり、現実の人間を全く見分けがつかないほどリアルで可愛らしい見た目によりネット上で大反響を呼んだ。中国口コミECアプリ「RED(小紅書)」でアカウントを開設してから、一夜にしてフォロワーが4万近くも増えた。
その後、アリババを含む様々な企業・ブランドから声がかかり、今ではファッションモデルとして様々なプロモーション活動に参加している。
先日も、AYAYIはアリババ傘下のECプラットフォーム・Tmallのイベントで化粧品ブランドMACの新商品の宣伝活動に勤しんでいた。
中国版TikTokのDouyinでも、様々なKOL事業を手がける「创壹视频」よりバーチャルヒューマンで美容コスメ系インフルエンサーである「柳夜熙」が一時期話題となっていた。
当時、柳夜熙を主役とする動画も公開され、本物の人間に見えるほどのリアルさ、繊細な画面とサイバーパンクに中国文化を溶け込ませた近未来な背景、親近感が湧く伝統衣装などの要素が人気を呼んだ。
この動画は瞬く間に250万ものいいねを獲得し、たった3日で柳夜熙のアカウントフォロワー数は230万も増え、記事作成時ではフォロワー数が860万を超えていた。
今後は美容関連のブランドと業務提携を交わし、収益化を計画している模様。
さらに、中国名門大学の清華大学も去年9月に初めてバーチャルヒューマン「華智氷」を学生として迎え入れた。同キャラは清華大学が外部との共同開発によって完成した。
こちらもその完成度に、ギターで弾き語りしている動画がネット上で動きがリアルだとして大反響となったが、後になっ実際の人間が弾いている動画を使って顔の部分を合成したものだと判明したためにバッシングを受けた。
ほかにも、CGで再現された中国で殿堂入りの有名歌手、「テレサ・テン」が日本の紅白歌合戦に似た中国地方テレビ局の番組に登場したことでファンを沸かせた。日本でも2019年に紅白歌合戦にて同様に再現された「AI美空ひばり」が話題になっていた。
実用化に残された課題も
AIを応用したバーチャルヒューマンはカスタマーサービスやガイド、翻訳にニュースアナウンスなど様々な場面での活用が期待される。
一方、バーチャルヒューマンの実用化にいくつかの課題も残されている。
Douyinの競合である快手(kuaishou)、ライブコマース向けのバーチャルーライバー「関小芳」を打ち出し話題となっていたが、口や目など表情の動きなどではまだ向上の余地があるように思える。
より現実感があり、滑らかな動作ができるバーチャルヒューマンを開発するためにはAI技術や3Dモデリング技術などが要となってくるので、莫大な費用を投じなければならない。
そして、ビジュアル路線を行くのであれば、開発にはデザインやアニメーション制作など美術に長けた人材が必要となってくるが、現状ではそれが不足しているようだ。
メタバースの大ブームを通して注目を集めたバーチャルヒューマンは今後どうなっていくか、引き続き関連情報をお伝えします。