有名人が推薦したことで一夜にして有名となった商品例は少なくないだろう。今回は、バズることよりも、バズった後の行動を追ってみたい

今回注目するのは、中国の有名女優ファン・ビンビンの推薦によるバスったpdc社の酒粕パックである。この商品は、推薦後1,000万個が完売し、訪日中国人がお土産として買い求めるようにまで至った。現在中国市場の売上は全体の3分の1を占め、pdc社にとって重要な市場となっている

▲中国で大ヒットした酒粕パック

酒粕パックは、今もなお中国市場で高い人気を誇っている。
そんな酒粕パックが、消費者のフィードバックを基に2代目のパックをリリース。
第1ヒットから得たインサイトを今回の新商品にどう取り入れたのか、および中国市場への考え方などについて、pdcの海外事業部部長である北井さんにお話を伺った。

▲pdc海外事業部部長 北井宣晴さん

酒粕パック ヒット後の行動

チャイトピ:ファン・ビンビンが推薦してくれた後、中国市場で酒粕パックはどれくらい売れたんですか?


北井:日本から空輸で中国市場に送られた分や、中国の観光客がお土産品としてお買い求め頂いた分も含めると、1,000万個程度だと計算できます。

チャイトピ:第1ヒットから得たインサイトをどう今回の新商品に取り入れたのでしょうか?

北井:お客さまの不満点を改善し、高評価頂いている点をパワーアップ致しました。
具体的には、洗い流しに少し時間がかかるとお声を多く頂いていたので、粘度を抑え、より使いやすくいたしました。
また、酒粕エキス等の主要成分の配合量を2倍に増量いたしました。更に、酒粕=アルコールといったイメージをもちやすい敏感肌の方にも手に取っていただけるように、アレルギーテストやパッチテスト等を実施し、安心してお使いいただけるようになりました。

チャイトピ:和フードを美容素材に使うという理念は、どのように中国消費者の中で浸透させていったのでしょうか?


北井:実は「ワフード」というブランド名自体の知名度はまだ高くありません。理由は中国のお客さまにより効果的に想起していただくよう、キーワードを「酒粕面膜」に絞り込み、認知の拡大活動を続けて来たからです。当時、「面膜」というキーワードは日本と比べ物にならないくらい認知されていたので、認知が高かった「面膜」に、知名度が高くなかった「酒粕」を付けて、「酒粕面膜」というオリジナルキーワードを作り、酒粕の成分をスキンケアに取り入れるとお肌に良い事や、洗い流すタイプのマスクという面白さ、熊本で伝統的な手法で酒造りをしている酒蔵さんのオリジナルの酒粕を使っている等の切り口で、地道に販促活動をしてきました。

▲上海のショッピングセンターのコスメ店舗でもよく見かける酒粕パック

チャイトピ:中国市場への進出経緯や、中国市場で認知度を上げるためにどのような活動を行ってきたのか教えて頂けますでしょうか?

北井:2011年に中国での販売を開始しました。当時はインバウンド需要の走りだった時期ですが、インバウンドのみならず、アウトバウンドに打って出る戦略を立てました。その流れでECを開始し、今に至ります。
また、ECから地道に認知度を上げる活動を行ってきました。これにより、しっかり認知度が上がり、自然とリアル店舗からもお声がかかるステータスにまで到達しました。今後は、OMOを意識しながら、顧客ニーズを素早くキャッチでき、事業に取り込めるような仕組みづくりを推進する予定です。

チャイトピ:中国市場でどういった PR戦略・ブランディング戦略を行っているのでしょうか?

北井:PRに関しては、広告代理店を使わずに直接インフルエンサーにアサインする事に力を入れています直接やり取りする事で、pdcの想いが伝わり、より効果的なPRが出来るようになりました。ブランディング戦略としては、「酒粕面膜」というキーワードを獲得出来たので、「pdc」という言葉を中国のお客さまに想起して頂けるよう、酒粕面膜=pdc=アンバサダーという関連付けの販促に力を入れております

▲中国のdouyin、REDなどのSNSで1万人以上のインフルエンサーがレビューを投稿

チャイトピ:中国のREDなど、口コミサイトにてインフルエンサーによる酒粕パックのレビューが多いですが、どういったプロモーションを行ったのでしょうか?

北井:実際に使ってもらって気に入って頂いた場合には、率直な感想をあげてもらっています。

チャイトピ:インフルエンサー選ぶポイントは何ですか?

北井:フォロワー数など、定量で選ぶことはもちろんですが、それ以上に過去の投稿等を見て、我々と相性が合いそうかどうか、という定性面も重視しています。

▲pdcの中国市場での顧客層

チャイトピ:pdcのメイン顧客層はどんな人ですか?また、中国消費者をどう見ていますか?

北井:中国では、日本以上に若い世代からご評価をいただいており、10代~20代前半のボリュームが最も大きくなっています。中国のお客さまは、10代~20代前半のZ世代と、20代後半~30代以降の間には、購買行動に大きなギャップがあると感じています。20代後半以降~のお客さまは農耕的購買で、20代前半までのZ世代のお客さまは、狩猟的購買をする傾向があるように感じております。中国では、既にZ世代の購買行動がマーケット全体の主流を作るほどに成長したと考えており、我々は、Z世代の購買行動によりスピーディに対応する事が求められていると考えております。Z世代のお客さまは、他の世代以上にインフルエンサーのライブ販売に反応しやすい傾向がありますし、日頃からSNSを通じて情報をよく収集し蓄積した上で、購買行動は刹那的に行い、次々に良いと思ったものに移り変わっていく特性を強く感じております。

中国人アイドルのアンバサダー起用

▲pdc初のアンバサダーに中国アイドル ファン・チェンチェンを起用

チャイトピ:二代目酒粕パックを打ち出したと同時に、御社初のアンバサダーに中国人アイドルのファン・チェンチェンを起用しました。彼をアンバサダーに起用した理由は何だったんでしょうか?

北井:ファン・ビンビンさんの弟、ということももちろんありましたが、それよりも市場調査の結果、彼のファンと酒粕パックのファンの性質に類似性があるというデータがありましたので、依頼することにしました。

チャイトピ:アンバサダーやイメージモデルサービスについての考え方を教えてください

北井:メリットはpdcの認知を拡大できる事です。pdc内では権威付けと表現していますが、pdcの認知や権威・価値が上がれば上がるほど、我々の商品を使っているお客さまに、より満足して頂けると思っています。新規のお客さまにとっても購入のハードルを下げる効果があると考えております。

中国市場に関する考え方

チャイトピ:インバウンド需要が減少した現在、中国ビジネスチャンスをどう捉えていますか?

北井:中国市場のマーケットの変化は、我々の想像をはるかに超えるスピードで変わっており、とても難しいマーケットになっています。
ただ、OMOというマーケットが進んでいる中国で起きたことは、数年後に必ず日本で起きているため、中国でビジネスを続けていく必要性は強く感じています。
中国と日本でビジネスをしていて気づきましたが、日本・中国という国家間のギャップより、10~20代のZ世代と30代以降の世代間ギャップの方が大きくなりつつあると感じています。そういった意味で、今までは中国用・国内用とマーケティングを分けて考えていましたが、言葉が違うだけでお客さまの行動パターンに違いはあまりないと考え直し、両マーケットに取り組んでいきたいと考えています。

チャイトピ:中国市場に進出する日系ブランドの成功例もあれば、失敗例もありますが、中国で成功するには何が重要だと思いますか?また、日系企業の課題と優位性は何だと思いますか?

北井:成功するための重要性と日系企業の課題は同じだと考えています。日本企業は中国・韓国メーカーと比べ、圧倒的にスピードで負けています。OEMも含めたサプライチェーンのスピードも圧倒的に負けていると考えています。このスピードについていく事が成功のポイントで、我々日系メーカーが苦戦している所だと考えています。

チャイトピ:中国では国潮が90後や00後の若者を中心にブームとなっており、コスメ分野でも現地ブランドが綺麗な見た目と手頃な値段でたくさんのファンを獲得しています。中国のこの国潮についてどうお考えですか?すでに対策などは取っているのでしょうか?

北井:国潮化の流れは我々も19年末頃から感じていました。日本産等の訴求がお客さまに響かなくなってきたのも同時期からです。国潮化というと国内回帰という考えになりがちですが、pdcとしては中国のZ世代は「どこ産」という拘りがなくなりつつあり、SNS等を通じて、商品の効果やエビデンス、見た目や有名インフルエンサーのおすすめ等で購買行動をしだしたと考えています。

同時に中国産の化粧品のレベルが著しく成長したことも大きな要因ですが、国潮化≒中国産を買おうではなく、いいものが欲しい≒中国産≒国潮化と考えております。消費者に国潮化という考えが浸透したからという考え以上に、海外メーカーが、中国産のメーカーに、コスト・品質・スピードに負けた結果、国潮化が加速していると考えています。pdcは現地のトレンドに合わせた商品開発を視野に入れ、対応出来るようにしたいと考えています。

「酒粕パック」の使用感を調査

▲初代酒粕パックと2代目酒粕パック

中国の消費者が酒粕パックをどう評価しているのか、筆者はpdc中国EC店舗のユーザーレビューや中国の友人に使用感を調査した。結果は以下の通りである。

・薄っすらお酒の匂いがして、新鮮感がある
・使用した後、くすみがなくなり、肌が明るくなった
・値段が安く、170グラムで10回ぐらい使える
・初代より2代目が洗い流しやすい

中国ではシート状のフェイスマスクが使用の利便性から長年マスク市場シェアの大半を占めたていが、近年では性能が重視され、洗い流すタイプのパックが人気を集めている。筆者も実際に使用してみたが、この点において、くすみ対策の酒粕パックは魅力的だと感じた。

また、中国では酒粕を化粧品の素材に使用するコンセプトはほとんど存在しない。パウチ容器のパックであることも珍しいため、一般的なものよりも水が入りにくく、衛生的である。この2点からも面白さを感じて購入する人も少なくないようだ。

まとめ

近年、中国化粧品市場では、韓流化粧品が下火となり、ロレアルなどの有力な海外ブランドが人気を誇る一方、国産ブランドも手頃な値段とZ世代の嗜好に合わせた商品デザインで一定のファンを獲得している。
O2Oにとどまらず、OMO、国潮などのトレンドも速いスピードで変化しつつあり、日系ブランドがこの市場で成功することは決して容易ではない。

そんな中、広告代理店の使用は最小限にし、インフルエンサーと直接やり取りすることで、自社の想いを伝え続け、地道にSNS販促などのプロモーションを展開したpdc社。現在の地位があるのは、紛れもなくpdc社の直向きな努力だと言えるだろう。

これからもチャイトピは日系企業の手助けとなるような情報をお伝えしていきます。

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