新型コロナウイルスの感染拡大で外出が難しい中国で、最近フィットネスブームが巻き起こっていた。

今年4月、「Douyin(中国版TikTok)」でフィットネスライブを配信する台湾出身の芸能人・「劉畊宏(Will)」のフォロワー数が1週間で1,000万人以上と激増した。

彼のライブを見ながら熱心に踊る女性ファン・「劉畊宏女孩」が現れ、約1カ月でライブ視聴者数が累計1億人を突破し、中国全土を巻き込む社会現象にまで発展していた。

彼の配信は複数のメディアに取り上げられ、weibo(中国版ツイッター)などのSNSアプリでも必ずと言っていいほど彼の姿が見られた。その勢いもあってDouyinのフォロワー数はすでに5,000万人を突破。

本人のブレイクとともに、中国のオンライン・フィットネス市場にもスポットライトが当てられた。

中国のフィットネス事情

中国の市場調査会社「CIC(China Insights Consultancy)」のデータによると、ここ数年中国のフィットネス業界は右肩上がりの状態で、2021年に市場規模は7,866億元(約16兆円)に達していた。

▲ CICのデータをもとにチャイトピ!より作成

毎週2回以上フィットネスをする習慣のある人は、アメリカに比べてまだまだ少ないものの、中国の経済力の向上とともにフィットネス関連の消費も年々着実に伸びていた。

また、市場調査会社「艾媒諮詢(iiMedia Reasearch)」が2022年3月に行った調査によると、中国でジムに通う消費者の44%は上海や北京のような一級都市や準一級都市に集中しており、年齢層から見ても22~40才の女性が大半を占めていた。

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▲ 艾媒諮詢のデータをもとにチャイトピ!より作成

無糖の炭酸水が人気を馳せているように、若者の間では健康を重視してフィットネスに身を投じる者が増えている。中にはダイエットなどのボディシェイプを目的としている者も多い。

消費者のフィットネスへの需要が多様化するにつれて、コンパクトなコンテナ式フィットネスジムや回数ごとの料金制度などと、従来とは違ったフィットネスサービスを提供する新興ブランドが現れ始めた。

ことさら、オンラインフィットネス分野においてはフィットネスアプリの「Keep」が近年話題に上っている。

オンライン・フィットネス市場の成長

フィットネス市場の47%を占めるオンライン・フィットネスは近年注目を浴びている。

2021年の市場規模は3,697億元(約7兆円)となっており、2023年には5,256億元(約10兆円)に達する見込みである。 

▲ CICのデータをもとにチャイトピ!より作成

オンライン・フィットネスの最大の特徴としては、時間と場所に囚われないところにあると言えるでしょう。

金銭面の負担もジム通いに比べて軽い上、一部のプラットフォームではアルゴリズムを応用してユーザーに適したトレーニングプランを作成することも可能。

仕事でジムに行く時間を捻出できない、あまりお金をかけたくない、もしくは軽い気持ちでフィットネスに挑戦してみたい人たちにとっては魅力的な選択肢である。

また、ジムを展開するオフライン・フィットネスブランドからすれば、オンライン・フィットネスは新規顧客を獲得するコストを低く抑えるというメリットもある。

中国でオンライン・フィットネス大手と言えば、2014年に設立されたKeepが代表例となる。

 同社は2015年に無料のフィットネスレッスンを受講できるスマホアプリを打ち出しており、良質なコンテンツを体験できる上、フィットネス愛好者たちがトレーニングの成果を発信し、関連の知識を共有するSNS機能をも持ち合わせている。

▲ Keepのコンテンツ画面とコミュニティ画面(チャイトピ!より撮影)

同アプリのユーザー数は2017年8月に1億人を突破し、中国最大級のオンライン・フィットネスプラットフォームとなった。

オンライン・フィットネスが成長を遂げた一因として、新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられる。

ゼロコロナ政策を掲げる中国でも「巣ごもり消費」が増加を見せており、自宅で体を動かしたいという需要が高まるにつれて、DouyinやRED(口コミEC)など様々なプラットフォームが関連事業に力を注いだ。

ハイクオリティのフィットネス・コンテンツを投稿するインフルエンサーが続出し、海外で活動するインフルエンサーもDouyinなどを通して中国に進出し、現地で人気を集めていた。

劉畊宏が人気を博した背景にも今回のコロナ感染拡大が深刻化したことと関係がある。

こうしたブームの影響で自宅用のランニングマシンやダンベルなどの関連製品への需要も高まっている。

需要高まるも収益につまずく

盛り上がりを見せている一方で、オンライン・フィットネスには利益を上げるという難題が残されている。

ユーザー規模でアドバンテージを持つKeepは未だ赤字経営が続いており、2020年の調整後純損失は7億元(約140億円)に上る。

そもそも無料コンテンツが売りであるため、収益の手段は非常に限られている。同じコーチングでもオンラインだと料金はより安くなる。

そのため、有料会員サービス以外にもランニングマシンやサプリメントなどフィットネス関連製品の販売を手掛けることもある。

また、顧客維持も課題の一つである。フィットネスでは持続性が大事だが、例え初めはやる気満々でジムへ足を運び、熱心に指導を受けていた人もだんだんと消極的となり、三日坊主に終わることがある。

家で動画やライブを見ながらやる一人でやるオンライン・フィットネスは言うまでもない。意気込んで購入したランニングマシンが物干し台になったり、ダンベルが物置でほこりを被っていたりしても何ら不思議ではない。

顧客維持のために、Keepは若者に人気のバーチャルアイドルグループ「A-SOUL」のレッスンを受けられるコラボ企画を打ち出し人気を集めていた。

ほかにも、音楽ストリーミング大手の「QQ音楽」とコラボした音楽フェスティバルを開催し、大物インフルエンサーによるトレーニングプランやギフトボックスの抽選などバラエティに富んだイベントを開催していた。

こうした理由からも、成長途上のオンライン・フィットネス市場に注力しているフィットネスブランドだが、事業の軸足は依然としてジムなどのオフラインに置いている。

オンラインでスタートしたKeepも2018年から自社が運営するジム・「Keepland」を展開し、自社アプリにおける膨大なユーザーたちをオフラインへと誘導し始めた。

コロナ禍によって需要が高まったオンライン・フィットネスだが、感染拡大が収束した後も人気が続くかは不明瞭である。