今月21日、突如「weibo」(中国版ツイッター)のトレンドランキングのトップにポケモン「コダック」の名前が躍り出た。
近づく「国際こどもの日」(6月1日)に向けて、中国ケンタッキーが打ち出したポケモンのキッズセットが原因のようだ。
同セットは、付属品として「ピカチュウの水筒」に「ピカチュウのオルゴール」、音楽に合わせて踊る「コダックのおもちゃ」がランダムで付いている。
その中で、コダックのおもちゃが驚くほどの人気を得ていた。weiboだけでなく「Douyin」(中国版TikTok)や「RED」(口コミECアプリ)なども踊っている同おもちゃの動画で埋め尽くされてしまい、コダックは中国で一躍してビッグスターになった。
そのため、各店舗では品切れが続出し、ネットではコダックを買い求める消費者の声が日々強まっていた。
しかし、なぜピカチュウではなくコダックがこれほど圧倒的な人気を集めたのか?
過去にも注目されていたコダック
そもそも、中国ではピカチュウの人気と知名度が圧倒的に高い。
同国最大級の検索エンジン・「バイドゥ」のデータによると、今回のブームが起きるまでキーワードの検索数では「ピカチュウ」が「コダック」の数倍以上あった。
また、「ポケモン」に比べても一回り大きいものだった。ポケモンと言われてもピンと来ないが、ピカチュウならば分かるという方もいるかもしれない。
そのため、中国のポケモンコラボ企画ではピカチュウは欠かせない存在である。今回ケンタッキーが打ち出したコラボの宣伝ポスターでも、ピカチュウが前面に押し出され、主役ポジションにあった。
そんなピカチュウに圧倒されている「コダック」だが、実は2016年年末にも大きく注目される出来事があった。
当時、中国のSNSでは「コダック問題」というクイズが流行っていた。そのルールにはクイズが解けなかった場合、SNSのアイコンをコダックに変えなければならないというものがあった。
そのため、一時SNS上のアイコンがコダック一色となり、同キャラクターへの注目が一気に高まったようだ。
また、2019年には映画「名探偵ピカチュウ」が中国本土で上映されたため、ポケモン関連の話題が急増した。同時期における「ピカチュウ」の検索数は激増し、「コダック」も一定の影響を受けていた。
しかし、結局はクイズや映画といった話題の“おまけ”として軽い一過性のブームに終わっていた。今回のように「ピカチュウ」の最高値2倍ほどの検索数記録を叩き出したのは初めてであり、まさに異常な現象であると言わざるを得ない。
外見、音楽と遊びの要素がポイント
今回の「コダックブーム」の火付け役は、やはり消費者らによる関連動画だと思われる。
ケンタッキーはポケモンのキッズセットが販売される数日前からweiboなどのSNS上で宣伝を行ってきた。また、中国トップインフルエンサーのAustinに同キッズセットの宣伝紹介を依頼するなど、拡散とインプレッション向上にも力を注いできた。
その結果、一定の効果を得ることができたものの、大ブームとなるまでは至らず、むしろ「値段が高い」などと不満をこぼすコメントが散見していた。
関連の動画が増え始め、話題になりつつあった当初でもケンタッキーの同セットについて触れている投稿は少なかった。いくつもの投稿を経てようやくケンタッキーというキーワードを見つけ、weibo上で過去の投稿を漁ってやっとキッズセットに辿り着く。
こうしたことからも、コダックのおもちゃがブームとなったのは口コミによる影響が大きいと考えられる。
また、現地メディアの新京報によると、本来児童向けの同おもちゃは逆に多くの若年層消費者を惹きつけることになった。SNS上でも90後(1990年後生まれ)のユーザーによる動画投稿が多く見られた。
では、消費者はコダックのおもちゃのどこに惹かれたのだろうか?
チャイトピは実際に購入し、ネット上で動画を投稿したユーザー3名に対して取材を行なった。
その結果、コダックの可愛らしい外見に動けること、またそのダンスと音楽に中毒性がある所が魅力のポイントだと分かった。また、ポケモンのファンであることも購入につながっているようだ。
人気となったもう一つの理由としては、シンプルかつ自由度の高い遊びの要素にあると思われる。
Douyinなどを見てみると、関連動画には文字が書かれた紙を腕に貼られ、交互にそれを振るコダックの姿が多く見られた。「仕事」「したくない」や「残業」「拒否」などといった面白い内容もあり、中にはいいね数が100万以上と大きくバズった動画もあった。
つまり、人気のポイントをまとめると以下の3点となる:
- ボケッとしたコダックのかわいさ
- 中毒性のある音楽に合わせて踊ること
- シンプルで自由度の高い遊びの要素
ダフ屋横行で批判も
中国市場でのマーケティングとして、ケンタッキーは様々なコラボ企画を頻繁に打ち出してきた。ポケモンだけでなくドラえもんやハローキティ、さらに原神といった現地の人気ゲームともコラボしてきた。
今回打ち出されたコダックのおもちゃは、熱狂的なブームを巻き起こすことに成功した。
しかし、その一方で問題も起きていた。
コダックに注目が集まってから間もなくして、ネットでは付属品である同おもちゃをキッズセットの数倍の値段で転売する人々が現れ始めた。
人気が上昇するとともにこうした転売も加熱していき、なんと日本のメルカリでも中国からの輸入ということで1万円以上の値段で売る者が現れた。
また、あるネットユーザーの書き込みによりケンタッキーの従業員が直接転売している疑いが生まれ、不満と批判の矛先は同社にも向けられた。
さらに、コダックが当たるまで代わりにキッズセットを食べる食事代行サービスもちらほら見かけるようになった。
こうした問題は今回が初めてではない。
ケンタッキーは以前、中国フィギュア大手の「POP MART」とコラボしたことがある。限定版フィギュアのブラインドボックス(中国版ガチャ)がついたコラボセットは大きな人気を博していた。
しかし、同時に高額な転売と食事代行サービスも横行した。また、セットを大量に購入し、フィギュアだけを残して食べ物を捨てる食品ロスまで起きてしまった。
そのため、同社は消費者だけでなく中国消費者協会からも大きな批判を受けていた。
今回の騒動にケンタッキーは「値段を釣り上げた転売を決して支持しない」「そういった個人行為は弊社と無関係」「従業員による投機目的の勝手な転売は決して認めない」といち早く反応し、リスク回避に注意を払った。
まだまだ続くコダックブーム
SNSアプリや転売アプリなどを見てみると、依然としてコダックを転売しているユーザーとそれを求めるユーザーの姿がいた。
コダックがブームとなったことで、ほかの関連おもちゃや商標登録にまで注目が集まっていた。
また、同おもちゃから鳴る音楽とダンスの拡散力は凄まじく、すでにいくつものネタ動画が現れ始めている。
このブームがいつまで続くのか、今後どのような変化が起きるのか、そして、コダックというキャラクターの人気はブーム終了後どうなるのか引き続き注目していきたい。
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