中国EC業界の成長鈍化が顕著になっている。特に「独身の日」に次ぐECセールイベントである今年の618は、この傾向が鮮明に反映された。

毎年盛り上がりを見せてきた618であるが、今年は「過去最も寂しい618」と呼ばれ、EC大型セールイベントの「衰退説」が話題となった。

EC大手のアリババや京東(JD)が公開したイベントの成績は悪くないようだが、コロナによる物流の停滞、高い返品率、低利益など問題が多く、一部の企業は618への参戦をやめたほどである。また、消費者の消費意欲が低下し、今は日用品の買い溜めのみを行う傾向にあるようだ。

物流停滞が大きな足かせに

中国経済減速の影響はさておき、上半期では北京、上海、深セン、広州といった一級都市は全てコロナの感染拡大に見舞われ、移動制限の他、ロックダウンが実施された。最もコロナ感染が深刻化した上海では、618が実施される直前の6月1日に封鎖を解除したが、この長期間な封鎖によりダメージを受けた物流業界は、いまだ完全には回復できてない。

封鎖解除された今でも、上海ではPCR検査による72時間以内の陰性証明の提示が常に必要とされ、配達拠点の従業員が完全に復帰できていない状態である。これが618セールに大きな影響を及ぼし、消費者は購入した商品がいつまでも出荷されないと、注文キャンセルが相次ぐ事態となった。

アリババ、京東のGMVはプラス成長達成するも、伸び率の鈍化が顕著に

618では、中国ECトップ2社であるアリババと京東(JD)の競争が毎年の定番だ。両社は中国EC大型セールイベントの創造者で、主役でもある。
しかし、近年は両社が争ってGMVや売上データを発表する光景を目にしなくなった。
アリババは去年から618セールの売り上げを公開しておらず、今年はプラス成長を遂げたことだけを発表している。

京東はというと、累計注文額は3,793億元で、前年実績比10.3%増だったものの、伸び率は昨年(27.7%)から大幅に減少。京東は今回のセールの割引が過去最大規模だと言われたが、それでも成長鈍化は止まらないようだ。

また、データ会社のSYNTUNによると、アリババ、京東、pinduoduoなどのECサイトの全体GMVは5,826億元で前年よりも0.7%微増している。

▲618のライブコマースでは、douyin、kuaishou、タオバオライブがトップ3位

ライブコマースでは、viya、李佳琦などの大物ライバーが各々の事情でタオバオライブから姿を消したことで、今年はライブコマース業界の勢力が大きく変化した。douyinが1位に躍進し、首位をキープしてきたタオバオライブは3位に下落。

国潮トレンドの現在、グローバルブランドはどうなっている?

近年中国では、国力の増強で国民の民族に対するプライドが高まり、「国潮」がブームとなった。特に2、3年前からコスメやアパレル分野で国産ブランドが大手グルーバルブランドの売上を超えるケースが多く、国民の国産ブランドに対する支持の現れといえるだろう。

最近では2019年「独身の日」セールにおいて、国産コスメブランドであるPerfect Diary(完美日記)がロレアルなど大手グローバルブランドを打ち負かし、Tmall(アリババ)コスメカテゴリーの1位に輝いたのが記憶に新しい。

しかし、今回の618セールでは、国産ブランドの勢いに変化があったようだ。現地メディアによると、TmallにおけるGMVベースのコスメカテゴリーランキングでは、ロレアル、エスティ・ローダー、ランコムがトップ3位で、Perfect Diary、花西子(Florasis)など国潮の代表格と呼ばれた国産ブランドの姿が見えなくなったのである。

さらに、スポーツ分野では、Adidas、ナイキがトップ2に復活。国産ブランドのAntaは4位にランクダウンした。

近年のグローバルブランド状況を振り返ると、2021年に起こったウイグル綿事件がAdidasを含む、複数の海外ブランドに影響を及ぼし、同年には国産ブランドのAntaがadidasを抜けてシェア2位に。さらに、Adidasの2022年Q1の決算は、売上が前年比3%減少。中華圏の売上が35%減少したことが全体売上の減少に影響していた。

近年のグローバルブランド状況を振り返ると、2021年に起こったウイグル綿事件がAdidasを含む、複数の海外ブランドに影響を及ぼし、同年には国産ブランドのAntaがadidasを抜けてシェア2位に。さらに、Adidasの2022年Q1の決算は、売上が前年比3%減少。中華圏の売上が35%減少したことが全体売上の減少に影響していた。

▲Douyin618セールの全ブランド売上ランキング(出典:飞瓜)

そんなAdidasであったが、Douyin(Tik Tok中国版)に注力することで、挽回を図っていたようだ。その甲斐もあり、今回Douyinの618全ブランド売上ランキングでは、Adidasは1位に急上昇した。

元々、Adidasは2020年にdouyinのアカウントを開設。ライブコマースを強みにEC業界でシェアを拡大しているdouyinにリソースを投じてきた。今回の618では、Adidasが中国市場進出25周年を記念としてdouyinと連携。5月18日から5月24日までYEEZYの新作一万着の独占発売をdouyinで実施した。さらに北京五輪の金メダリスト苏翊鸣をライブ配信に招待し、話題を作り出したことが売上1位につながったようだ。

▲Adidasが北京五輪の金メダリストの苏翊鸣をライブ配信に招待した様子

Adidasとdouyinの連携は大成功を収め、この7日間のGMVは1.7億元を超過。adidasは1週間連続でdouyinのブランド売上ランキング1位となった。

国潮のトレンドを追い風に成長してきた中国国産ブランドがブランド力を磨くと同時に、Adidasなどのグルーバルブランドも中国の複雑な環境に順応し、様々な対策を打ってきている。

成長が鈍化し、国内勢と海外勢が競争する現在、中国EC市場は今後どのような変化を遂げていくのだろうか。

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