暑い太陽が照りつく今年の夏、中国のネットではアイスクリームブランドに対する熱論が起きていた。

今年の上半期ではコロナ感染拡大が深刻化したため、消費者らは価格に対して敏感になっていた。その中で年々上昇するアイスの値段が注目された。

そうしたアイスの値段をネタにネットユーザーは盛り上がっていたが、徐々に高級アイスブランドに対する批判・炎上へと事態は深刻化していった。

中国のアイス市場でいったい何が起きているのだろうか?

コスト高で値段が上昇

ここ数年、中国のアイスクリーム市場は右肩上がりの状態で成長していた。中国緑色食品協会のデータによると、中国のアイス市場規模は2015年の839億元(約1.7兆円)から2021年の1,600億元(約3.2兆円)と約2倍にまで膨れ上がっていた。

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▲ 伸び続ける中国アイスクリーム市場規模(チャイトピより作成)

 中国でアイスの需要がさらに高まる中で、目玉焼きなど斬新な味の商品や美しいデザインが施された商品など種類もより豊富となっていった。

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▲ RED上の関連投稿(チャイトピより撮影)

一方で、原材料価格の高騰などのコスト高により、アイスの値段も年々上昇していた。中国市場調査会社・艾媒諮詢(iiMedia Research)によると、2008年に比べて2020年では牛乳などの原材料コストが80%も増加していた。

また、ブランド側も商品に高級感を醸し出そうとマーケティング対策に注力し、価格設定も自然と高くなった。

中国メディア・新京報の報道(今月7日)によると、中国アイス市場では5~15元(約100~300円)の商品が半数以上を占めていた。 

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▲ 5~15元の商品が多く集中する中国アイス市場(チャイトピより作成)

こうした市場変化により1元前後の低価格アイスはめっぽう減ってしまい、それを懐かしむ80後(1980年後生まれ)や90後(1990年後生まれ)の声が多く上がっていた。

勢い増す消費者の反発

高価なアイスに対する消費者の態度にも変化が見られた。今年6月、突然「雪糕刺客」という単語がネット上で大流行した。 

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▲ 雪糕刺客の検査数(出典:百度指数)

■雪糕刺客(アイスアサシン) 
見た目はいたって普通だが、レジに持っていくとその高価な値段で胸を刺してくるアイスクリームのこと。

中国では、特にコンビニでは全てのアイスの値段が明記されていない場合が多く、外見だけで値段を予想してレジに持っていくことが一般的だった。実際の値段が予想を超えてもメンツを気にしてそのまま購入する人は少なくないため、雪糕刺客という単語やその体験をネタにした動画は多数のユーザーからの共感を得ていた。

そして、アイスの値段が不透明であることへの消費者の反発が強まるにつれて、中国政府は今月1日より事業主が商品の値段を明記することを義務付けた。

しかし、反発はこれだけには止まらなかった。

 SNSでは「なぜ高級アイスはこれほど高いのか」「私はただ安くておいしいアイスが食べたいだけ」などと疑問や反発の声が増え始め、高級アイスの品質などに注目が集まった。

 ターゲットとなった高級アイス

今月初め、現地メディアは中国で人気のアイス6種類を使って実験を行った。室温31度の環境下でそれぞれのアイスがどれくらいで溶けるかを測るものだ。

その結果、最高で一本66元(約1,300円)もする「鐘薛高」が1時間経過しても形を保ったままであることが話題になった。同じ高価格帯に位置するハーゲンダッツは水のように溶けたが、鐘薛高は柔らかくなっただけであまり崩れていなかった。

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▲ 問題になった鐘薛高の商品(wechat公式アカウントより)

これを見た消費者らは防腐剤などの有害な添加物が含まれているのではないかと疑い、同ブランドに焦点が当てられた。

その後、あるネットユーザーがライターで同じ商品をあぶってもあまり溶けず表面が焦げた動画が注目を集め、ついに大炎上した。 

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▲ 話題となった動画(Douyinより、現在すでに削除されている)

ブランド側は全ての原材料が国家の安全基準を満たしていると火消しに急いだものの、批判は止まらない。ゼリーなどにも使われるカラギーナンという添加物が原因で溶けにくいとされているが、消費者は同添加物も含めて品質問題だと捉えた。

高級アイスへの不満から追及、そして炎上へと事態はだんだんと深刻化していった。

そのため、中国市場監視管理当局までもが本騒動に関心を寄せていると示した。

現在も同ブランドのアイスを火であぶる、ゆでる、揚げる動画がDouyin(中国版TikTok)などであふれている。全体の雰囲気にブームのような波乗り感があることは否めない。実際、本騒動が鐘薛高による炎上商法ではないかと疑う者も現れ始めていた。

今後について

今回の「アイス狂騒曲」がこれほどの大騒ぎになった要因は様々だが、一番の原因は今年のコロナ禍で消費者はより価格のコスパに敏感になっているからだと思われる。

また、鐘薛高は低・中価格帯のアイスと一緒に置かれているため、消費者からは紛らわしいとの声も上がっていた。そのため、同ブランドは専用アイスボックスの設置計画を進めていると示した。

反対に廉価でシンプルな商品への支持が強まっており、13年間格安価格を維持してきたアイスブランド「雪蓮」の売り上げは急増していた。

こうした値段騒動はアイス市場に止まらず、干し梅やフルーツ市場などと広がりを見せていた。今後、同じように槍玉に挙げられるブランドが現れないとも限らない。

コロナ情勢が沈静化したものの、まだ不安定な様子を見せている中国で市場がどのように変化するのか、チャイトピは引き続き注目していきたい。