近年中国製EVが日本に進出したことで、自動車大国であった日本に危機感を与えている。
実際に50万円の激安モデルである上汽通用五菱の『宏光MINI EV』は、中国よりも日本で大きく報道されている。他にも、京阪バスが京都市内を走る路線で、中国BYDと組んで全国初のEVバスの運行を開始。また、佐川急便が中国製EVトラックを7千台採用するなど、中国EV車の日本進出が絶えず話題に上がっている。
中国にいる筆者の体感的な感覚だと、街ではガソリン車が依然として多いが、緑色のナンバープレート(EV車のナンバープレートカラー)の車を見かける回数が増えたように思う。さらに、EVに関するニュースは、記者としてこちらから探さなくても、自動的に目に入り、鬱陶しいと思うほど日常の話題となっている。
2021年中国の電気自動車の輸出台数は、前年比約3倍の約50万台を突破。ドイツや米国を上回り世界最大となった。衣服だけでなく、EV車においても中国は「世界の工場」になりつつあるようだ。
今年ではコロナの影響や半導体不足で欧州における自動車製造が打撃を受ける中、中国がドイツを超え、世界第2位の自動車輸出大国になる可能性があるとして注目を集めている。電気自動車の販売好調が全体自動車の輸出好調にも繋がり、この勢いを維持できれば、自動車輸出世界1位の日本の座に挑める日も近いだろう。
この勢いからEV車のみ製造するメーカーも増えてきており、自動車メーカーBYDは、ガソリン車の製造を全面的停止し、EV車の製造に転換。長城自動車傘下の長征自動車もガソリン車の製造を全面的に停止すると宣言した。
政策が中国EV業界の発展を大きく推進
中国ではなぜこんなにもEV車の製造・販売が進んでいるのか?
まず自動車大国である日本のEV車が普及していない理由から考える:
① 価格問題
② 消費者が少ないことによる、EV車の未流通
③ チャージステーションなどのインフラ未整備
④ 航続距離
このような日本の状況を参照すると、中国でEV業界が着々と成長している理由が見えてくる。
まず、①と②の課題については、購入のハードルを下げるために値段を調整する必要がある。実際に中国政府は、2014年から個人のEV車購入に対して補助金を出し、自動車取得税を免除するなど、EV車の購入を促進した。
この補助金政策により、EV業界における起業ブームが勃発。新興EV三社と呼ばれるNIO、xiaopeng、Li Autoもまさに2014~2015年の間に起業している。
また、③④の課題は中国のEV業界でも直面している課題である。しかし、課題の解決に政府と企業が共に動き、政府が充電スタンドの設置を国の政策に入れて、設置を加速させている。それに加え、航続距離の改善に向けて企業のバッテリーに関する研究開発も進んでいる状況だ。
次に乗用車の販売台数を見てみる。このグラフからみると、中国EV車の販売台数は政府の政策の変化に伴って増加していると言えるだろう。
中国政府は2009年から業界発展の後押しを開始し、政府や企業のEV車購入に向けて補助金政策を施行。さらに2014年から個人のEV車購入に向け補助金を打ち出したことで、販売台数の増加に繋げてきた。
2019年からは補助金が削減され、販売台数が減少したものの、2021年にはまた急成長を遂げている。
このようなEV車に対する支援は中国だけではない。現在は、欧州、アメリカなどもこぞってEV業界の推進策を出しており、まさに補助金は初期段階におけるEV車普及の鍵となっているのだ。
では、いち早く補助金支援を行っていた中国は、世界で一番EV車が普及しているのだろうか?EV車の浸透率を見ると、世界最高の浸透率を誇るのはノルウェーの89.32%で、中国は13.77%、日本の浸透率は1.26%に止まっている。
現在、中国では中央政府と地方政府の補助金政策のほか、上海など一部の大都会において車のナンバープレートは抽選形式で発行されるのに対し、EV車のナンバープレート取得は比較的にハードルが低い。そのため、仕方なくEV車を購入する人もいる背景から、2022年第一四半期では、上海、深センのEV車の浸透率は40%を超過するなど、都市での浸透率は全国でも高くなっている。
補助金によって成長してきた中国EV車は、補助金が削減されても購入されるのか?
中国政府が補助金により作り出したEV業界の繁栄は、補助金の削減により、いずれ消えるという観点もある。
しかし、前述のグラフからもわかるように、2019年から中国政府の補助金が年々削減され、EV車の販売台数も一時期低迷を見せていたが、実際には2021年から補助金が削減されている状況でも、EV車の販売台数は急成長を果たしている。
これは、環境意識が強まる現在、中国消費者のEV車に対する消費意欲が増しているからだと考えられる。
最近では、地方都市でも新車販売中のEV車の販売割合が上昇し、5月のEV車の浸透率は、トップ10の都市のうち、上海以外は全て地方都市となった。
地方都市では大都市と違い、ガソリン車のナンバープレート取得制限がなく、ガソリン車を自由に買えるが、それでもEV車の販売が増加している。これは政府による補助金がなくても成長していけるという現れのようだ。
このように、何度も廃止を延期した中国政府の補助金政策は、遅かれ早かれ廃止されるだろう。完全に市場に任せることになれば今までの勢いも停止すると懸念されたが、この傾向から見ると、EV車自体が消費者に受け入れられているため、政府が身を引いても、EV車は普及していきそうだ。
ファーウェイ、シャオミなど異業種の参入が相次ぐ
中国のIT企業とEVメーカーの協業がトレンドとなり、ファーウェイ、バイドゥ、シャオミなど異業種からの市場参入が相次いでいる。
特に「車製造はしない」と宣言していたファーウェイは、近年車業界との関わりが深くなってきている。現在、自動車メーカーと共同でEVモデルを打ち出したり、ファーウェのスマホ店頭でEV車を置いたりなど、面白い風景を見せている。
なぜ畑違いの中国IT企業がEV車業界に参入したいのか?
過去の10年間急成長してきた中国IT業界であるが、近年は市場の成長鈍化と政策上の規制を受け、低迷を見せている。その反面、政府に支持されたEV業界は、まさに中国の起業者や投資家にとってチャンスだと言えるのだろう。
その裏付けとして、上海で2ヶ月に及んだロックダウン中でも、政府から真っ先に再開許可を得たホワイトリストの企業のうち、4割が自動車関連企業であったことがある。さらに、封鎖解除後の消費刺激策として、BEV車の購入に1万元の補助金を出すなど、政府は常にEV業界の発展を念頭に置いているのだ。
政治リスクの高い中国でビジネスを展開するには、政策の風向きに順応するのが賢明な判断ということなのだろう。
最後に
中国EV業界は政府の支援を追い風に成長してきた。ガソリン車の分野で世界に遅れをとっていた中国がついにEVを通して世界の自動車業界で勢力を高めてきたのである。
これを受け、日本ではEV車、特にBEV車の展開に対して様子見の態度をとってきたが、2021年の11月から、ようやくトヨタなどのメーカーが本格的にEV車の開発に乗り出した。
今後グローバル規模でEV車へシフトしていく風潮の中、航続問題など共通課題の解決や、差別化の要素など、各国メーカーが今後どう展開してくのか、楽しみである。