現在、中国のEC化率は26%に達し、アリババをはじめとする各ECモールが自社プラットフォームで買い物をしてもらえるよう、しのぎを削っている。中国消費者にとってもオンラインでの買い物は習慣となり、ブランドがモールに出店することは中国市場に進出する上で王道となっている。
近年、ECプラットフォーム間の競争が白熱化しており、特に中国版Tik TokのDouyin(抖音/ドウイン)は、短尺動画という他に見ない特徴で台頭。アリババといった伝統EC大手の地位を揺るがす存在となった。
この背景からDouyinへ出店するブランドが急増していることは確かであるが、筆者が中国市場に携わる日本人事業者に聞いたところ、どうやらDouyinはTmall(アリババ)や、JDなどのプラットフォームと比べ、運営するのが難しいプラットフォームとなっているようだ。
具体的に、以下3点が挙げられる:
1、SNSから発祥したECのため、管理画面や運用ルールが「SNS起点」の作りとなっている。TmallやJDのような「EC起点」発想の管理画面ではないため、TmallやJDなどのプラットフォームに慣れている事業会社からすると、慣れるのに一定期間を要する。
2、EC起点でないため、インフラ(物流、倉庫、決済)が不完全で、進行しながら決定される。また、Tmall、JDでは当たり前のことがDouyinでは対応しておらず、朝令暮改が常である。
3、厳格な広告配信や、表示ルール(飛び先であるLPの文字や、デザイン表記)があり、「TmallやJDでは問題なく配信できたのに、Douyinではできない」ということが多々発生。加えてライブ配信で使ってはいけない単語も存在しており、ユーザーファーストであるがゆえにブランドにとっては運営が難しい。
EC店舗への監督を強化するDouyin
そもそも動画アプリであるDouyinは、コンテンツ制作者にマネタイズの手段を提供する手段として、2018年にEC機能を設置。リンク先のECサイトで購入してもらうという形でEC事業を始めた。その後、GMV規模の拡大に伴い、他社への購入誘導を中止し、ブランドにDouyinで出店してもらうよう、自社でのサプライチェーン構築に至った。
しかし、EC分野では新参者と言えるDouyinはインフラ整備が不完全な上、商品の品質問題が続出し、消費者からのクレームが急増。さらに、業界全体でライバーの脱税騒ぎが起き、政府はプラットフォームに対して監督責任を果たすよう義務付けた。
これを受けDouyinはEC店舗に対し監督を強化。ビックデータや、抜き出し検査、およびクレームやメディア報道など、これらを基に規則違反であるか判断する。信用点数の減点数によって、警告、罰金、店舗閉鎖、アカウント閉鎖など処罰を与える仕組みだ。
ライブ配信で使う単語に関しては、こちらも厳しく制限されており、誇大宣伝はもちろん、効果を強調する用語も禁止されている。英語や日本語など、外国語による配信も基本的に禁止されているだけでなく、羊の毛など衣類の生地についても使用が禁止されている状態である。
この厳しい単語制限を受け、ライブ配信で商品の値段を紹介する際は人民元を元と呼ばず、「米」という言葉で代替したり、羊の毛と言わずに、羊を描いた看板を出して生地を紹介したりするなど、おかしな現象が起きている。
確かに政府の強い監視下にある中国でライブ配信という直接視聴者に何かをリアルタイムで伝えるツールが様々な制限をかけられることは、予想の範囲内かもしれない。しかし、ここまで制限されているとなると、禁止用語に慣れるまで時間を要するだけでなく、Douyinの厳しいルールに合わせていくことに疲弊してしまうブランドもあるようだ。
それでもDouyinが魅力的な理由は?
ライブコマースにおけるDouyinは先駆者ではないが、ライブコマースと短尺動画を組み合わせたことで大成功を収めた。そんなDouyinのEC事業は従来のECサイトと比べ、ユーザーが購買に至る過程が異なっている。
従来のECサイトでは、ユーザーが明確な需要があることを前提にECサイトで検索を行い、値段を比較してから購入するのが一般的である。一方、Douyinは独自のアルゴリズムに基づいてまずはユーザーに最適化された動画コンテンツでユーザーを惹き付ける。そこから潜在的な需要をその場で引き出し、購入を促進する、という仕組みだ。この新しいECスタイルをDouyinは「趣味EC」だと掲げている。
DouyinはアリババなどのEC大手と比べ、物流、決済、カスタマーサービスなどのインフラ整備においては確かに劣っている。しかし、中国EC市場の成長が鈍化する背景下、「趣味EC」を通じて成長を維持するDouyinは、現在の停滞状態を打破する突破口として期待されているのも事実だ。
実際に過去1年間でDouyinのGMVは前年同期の3.2倍にまで成長している。この驚異の成長スピードは、成長が鈍化している中国EC市場と対照的で、マイナス成長のアリババの市場シェアをまさにDouyinが奪っているということだ。
このように事業者にとっては不完全であっても、短尺動画アプリにユーザーが飽きない限り、DouyinのEC事業はまだまだ伸び代があると言える。中国ECの代表格であるアリババと新星Douyin、これからも両社によるユーザーの奪い合いは白熱化していくに違いない。