過熱している中国EV業界において、本土ブランドのBYD(比亚迪)は現在、大きな注目を浴びている。

BYDが公開した7~9月決算は、売上高が前年比116%増加の1,171億元(約2兆3,179億円)、純利益は前年比350%増加の57億元(約1,149億円)。販売台数は54万台と、テスラの34万台を超過した。

ただ、BYDは完全電動車だけではなく、ハイブリッド車の販売も好調で、こちらも全体の販売数成長に貢献している。完全電動車の販売台数だけでいうと、依然としてテスラが世界一位である。

低価格と豊富な品揃えで、販売台数が急拡大

BYDは、1995年に電池メーカーとして創業したが、その後半導体、自動車まで事業を拡大。世界的な半導体不足や新型コロナウイルス感染拡大に伴う部品調達難の影響を受けた競合他社と比べ、電池や半導体も手掛けるBYDはここで優位性を発揮した。

さらに、BYDが業績を伸ばした最大の武器は、コスパの良さである。テスラや中国新興EVメーカーといった高級路線と異なり、BYDが販売する車は10 万元~20 万元(約200~400万元)の低価格帯にある。

また、ガソリン車からEVへ市場が転換する間、EVを普及する上で航続距離問題が課題となってくる。その点を懸念する消費者にとって、ハイブリッド車へのニーズはまだまだあり、BYDはハイブリッド車と完全電動車の2つの領域で、他社より豊富な車種を提供し、販売拡大の成功を収めた。

▲BYDの新車販売台数推移(出典:BCG)

そんな売上好調なBYDであるが、初めから成長を遂げていたわけではない。上のグラフを見てみると、2019年同社がハイブリッド車の販売を開始し、2021年にはBEV(完全電動車)とPHEV(ハイブリッド)の販売台数が急速に拡大。全体の販売台数は前年比101%増加した。今年はさらに好調で、同社はガソリン車の生産を廃止し、PHEVとBEVに注力する方向である。

自動運転技術より価格に敏感な消費者

近年、EV業界では自動運転がブームとなり、テスラや中国新興EVメーカーを含め、多くのメーカーが開発に取り組んでいる。その点、BYDは自動運転においては他社より遅れをとっていると言われていた。

しかし、BYDが販売好調であることを鑑みると、現段階では消費者は自動運転よりも価格や安全性を最も優先しているようだ。

自動運転やスマート化技術は、将来当たり前の「汎用技術」になる可能性があるが、現在自動運転に関する法整備は整えられておらず、業界の技術基準も確立していないため、消費者に受け入れられるには、まだ時間が必要ということかもしれない。

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中国EV業界では、テスラやNIOをはじめとする中国新興EVメーカー、そして異業種から進出した百度、ファーウェイなど、ブランドが乱立している状態である。その中でBYDは低価格を武器に販売を拡大し、さらに電池や半導体の自社生産を通してコロナ禍で比較的有利な立場を獲得。他社と大差を付け、大きな注目を浴びた。

しかし、BYDの快進撃を競合他社も見ているだけではない。テスラが値下げをしたり、新興EV3社が新車種の開発を急いだりなど、日々対策を行なっている。そんな中、BYDは今後も有利なポジションを維持できるのか、また他社EVメーカーはどう差別化していくのか、着目していきたい。

※アイキャッチ写真:上海にあるBYDの店舗(筆者より撮影)

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