2023年に入り、中国政府によるEV車への販売補助政策が完全に撤廃された。これを受け、BYD(比亚迪)や広州自動車グループ傘下のAION(埃安)など、複数のメーカーが値上げを発表。
しかし、米テスラはその逆をいき、1月6日にModel 3、Model Yをそれぞれ6%、13.5%値下げすることを発表。過去最安値となり、中国メーカーに大きなプレッシャーを与えた。
値下げの効果が現れ、世界EV市場の勢いが減速している中でテスラの1月の販売台数は過去最高を記録。中国市場では、1月1日~29日の販売台数は25,686台と、1日あたりの販売台数は前年比42%増加している。値下げによって増加した需要を満たすため、今後2ヶ月間は上海工場の生産台数を引き上げる計画が報じられるなど、テスラの値下げ効果は抜群だ。
赤字拡大でも値下げを決行するXpeng
テスラの値下げに対し、ファーウェイが共同開発したEVブランドAITOと新興メーカーのXpeng(小鹏)が先に対抗措置に乗り出した。AITOは傘下モデル「問界」の販売価格を最大3万元(約58万円)の値下げに踏み切り、さらにXpengは3つのモデルに対して、2~3万元(約38〜58万円)の値下げを発表。
元々、Xpengは新興メーカーの中で昨年上半期における販売数1位を獲得していたが、下半期から販売数が減少。2022年第三四半期で24億元(約467億円)の赤字をだし、その赤字額は前年比49%拡大している。
Xpengは今回の値下げにより、販売台数の回復が期待されたが、1月の販売台数は前年比6割減の5,218台。現時点では値下げによる販売台数の引き上げが成功したと言いがたい状況だ。
中国新興EVメーカーの赤字経営は以前から珍しいことではないが、近年の経済減速、消費低迷という厳しい現状から投資家が慎重になっており、以前のような資金調達による赤字経営を継続することは難しいだろう。
今後、テスラのように販売増加に転じるか、Xpengの2月以降の売れ行きに注目したい。
2月から価格戦争が加速
テスラの値下げに対し、最初こそ様子見の態度でいる中国メーカーが多かったが、1月の販売台数減少を受け、2月から複数のメーカーが価格戦争に参戦した。
AION(埃安)は国の補助金停止を受け、3月から値上げを行うと発表したばかりだが、近日1台5,000元の期間限定納車奨励金に加え、3年間ゼロ金利や、少ない頭金での購入といった期間限定金融補助政策を発表。
同社の2022年累積販売台数は27.1万台で、前年比126%増加。勢いはよかったものの、今年1月の販売台数は前年比36%減少している。
また、上汽通用五菱汽車(SGMW)の超人気小型EVモデル「宏光MINI EV」も3.28万元から2.98万元へと、約3,000元(約5.8万円)の値下げを発表した。
新興EVメーカーのうち、値下げはしないと以前公言していたNIOもES8、ES6の2モデルの在庫に対して、最大10万元(約193万円)の値下げに乗り出した。
中国乗用車市場信息聯席会は、2023年中国のNEV(新エネ車)の販売台数は前年比23%増加すると予測。2022年の伸び率90%から失速し、成長鈍化が顕著になると思われたが、今回のテスラから始まった価格戦争による、中国のEV市場での競争が一層白熱化していくだろう。
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中国EVメーカーが近年、世界を舞台に活躍し、存在感を高めてきた。しかし、これら企業にとって最も重要である中国国内市場の競争激化が想像以上に加速している状況だ。
メーカーらの価格戦争は消費者の購買意欲喚起につながるかもしれないが、未だ利益を出せていない企業にとって、値下げは一つの博打とも言える。特にNIOやXpengといった新興メーカーは、利益の捻出にもがいており、市場が減速している現状で、この競合の値下げは窒息死するほどの大きな打撃である。
2023年、数多くの中国EV新興メーカーの淘汰が予測されるが、これらメーカーが生き残るために次はどんな手を打ってくるのか、引き続き追っていきたい。
※アイキャッチ写真:Xpengの上海店舗(筆者より撮影)
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