近年、中国ではトレーディングカードブームが熱を帯び始め、話題を膨らませていた。新たなトレーディングカードが続々と現れ、「ウルトラマンカード」や「ポケモンカード」などといった日本発のものは現地でも人気を集めていた。ネット上で頻繁に行われるカード売買に、続々と開催されるオフライン大会からも中国トレーディングカード市場の活気が伝わってくる。
ウルトラマン、ポケモンなどの日本トレカが大人気
現在、中国市場では様々なトレーディングカード(以下トレカ)が打ち出されている。タオバオなどのECアプリで検索にかけると中国や日本、アメリカの人気IPのトレカを見つけることができる。
また、WeiboやDouyin(中国版TikTok)といったSNS上ではトレカ発売の宣伝にあふれ、オフラインでは地下鉄駅構内といった所で大々的に広告が行われている。
現地の小学生たちに大人気であり、注目を集めているトレカの一つが「ウルトラマンカード」。
日本の特撮として、ウルトラマンは中国の子どもたちだけでなく、大人にも多くのファンを有している。ウルトラマンがもたらすIP効果以外に、1パック8枚入りで1~2元(約20~40円)という値段の安さも購入のハードルを下げており、子どもからすると気軽に買えるものになっている。また、ウルトラマンカードを買うのは同年代のグループに溶け込む、友達を作るためといった社交的な理由もある。
カードゲーム大手「卡遊(Kayou)」のT-mall公式オンラインショップでは、ウルトラマンカードが月間1万件以上売れており、売り上げランキングではトップを飾っている。また、アーケードゲーム用のウルトラマンカードの販売事業を手がけている「華立科技」も好調を見せており、2021年度の決算ではウルトラマンカードを含むIP関連グッズ事業の売上高は1.75億元(約35億円)と前年比157%上昇した。
もう一つ人気を誇っているのが「ポケモンカード」だ。現地メディア・北京商報の報道によると、昨年11月に玩具チェーン店「X11」では数量限定のポケモンカードのギフトボックスが販売初日で売り切れとなった。
また、愛好者ら集まるグループチャットでは対戦用もしくはコレクションを目的としたカードの売り買いが頻繁にやり取りされている。カードの相場はトレカ売買のアプリで確認することができ、希有で人気なカードには高い値段がつけられている。
さらに、中国各地のポケモンジム(公式認定されたトレカ専門店等)では今でも新人交流会やジム戦といった対戦のイベントが行われており、活気を見せ続けている。
トレカブームの背景には中国IP市場の成長がある
中国でトレカがブームになっている理由としては以下の3つが考えられる。
- 経済の成長
- 中国IP市場の成長
- 未成年オンラインゲーム依存対策政策の実施
中国のGDPは年々増加しており、それに伴って国民の経済力も向上している。そうした中で、現地消費者のニーズも今まで以上に増え、非常に早いペースで変化している。
また、中国トレカブームの背景には、近年中国におけるIP市場の盛り上がりも深く関わっている。
IP(Intellectual Property)とは知的財産を指しており、アニメ・マンガ・キャラクター・人物など様々なものが含まれている。
参考記事:【第四弾】中国IPコラボ十選!!(テスラ、原神、ジョジョなど)
人気IPの集客力はトレカブームを支える重要な要素の一つだ。好きなIPの絵が印刷されているカードを目当てに購入する消費者は少なくない。中国では「スラムダンク」や「ウルトラマン」など、日本のアニメや特撮が幅広い年齢層から支持を得ており、そうした人たちはトレカの潜在的な消費者だ。また、駄菓子に付属する「水滸伝カード」がかつて人気を見せており、トレカ文化は以前から現地で受け入れられてきた。
さらに、当局が2021年8月ごろに打ち出した「未成年オンラインゲーム依存防止対策」もトレカブームに影響を与えた。これにより、未成年者のオンラインゲームプレイ時間は金曜~日曜の1時間に大幅に制限され、その反動で子どもたちの興味はトレカへと移った。
現地消費者はトレカのどこに魅力を感じるのか?
実際に中国の消費者はトレカのどこに魅力を感じているのだろうか。筆者は社内でトレカを購入している数名の方にアンケートした所、以下のような結果を得ることができた。
Q:トレカのどこに魅力を感じますか?
結果:一番多かったのが「IP」、次に「ゲーム要素」と「きれいな絵」が並ぶ。
Q:対戦するのが好きですか?それともコレクションするのが好きですか?
結果:対戦好きな人がコレクションを上回った。
Q:トレカを買い始めた理由はなんですか?
- 友達が買っているから
- 好きなIPだから
- 子どもの頃に買ったことがあり、最近また買い始めた
- アニメの影響
など
こうして見ると、やはりIP効果が人々の購入意欲を刺激しており、対戦できるというトレカのゲーム要素が遊び心をくすぶっているようだ。
アンケートを受けた方の中で、トレカ経験の長い人にさらに詳しい話を伺った。
「トレカは『遊戯王』や『三国殺(三国志を題材とした中国のトレカ)』をやったことがあります。当初トレカをやり始めたのは『遊戯王』のアニメを見たからです。対戦するのが好きで、複雑なルールと策略を使うところが魅力的ですね。今はオンラインのトレカゲームをやることが多いです。どこでも遊べるし対戦相手も探しやすい、操作も簡単で手間がかからないから」
オンラインゲームはその利便性からも、トレカを始めたい初心者の方を簡単に獲得でき、トレカの消費者規模拡大にもつながる。
依存性や買い占め問題への指摘も
昨年8月ごろ、北京にいる親が子どものために200万元(約4000万円)をかけても「ウルトラマンカード」を全て揃えることができなかったという中国メディアの報道が現地で大きな話題となった。こうしたこともあり、トレカにはギャンブルのような依存性があるとの意見も見られた。
また、転売屋の買い占めも問題となっている。こうした行為に消費者からは批判の声が上がっており、販売側は購入制限を設けるなどの対策を打ち出している。
中国トレカとの競争激化の可能性も
日本のトレカ市場はおもちゃ市場全体を押し上げるほど成長しており、IPビジネスが活発な中国でもトレカ市場は大きなポテンシャルを秘めている。
また、近年では「斗羅大陸」や「一人之下」など中国IPのトレカが打ち出されている。「国潮」により中国産や中国文化を支持する動きが強まる中、中国独自のトレカが次々と生まれ、市場シェア争いが激化していくかもしれない。
※アイキャッチ写真:ポケモンカード(筆者より撮影)