中国が事実上ゼロコロナ政策を解除してから3ヶ月が経過。この3ヶ月の間、日中両国は水際対策の強化や、ビザの発行を中止するなど、インバウンドの回復に不利な動きが相次いだ。
これもあり、中国人観光客の旅行先は、入国手続きが比較的便利な東南アジア諸国がファーストチョイスとなっていたが、日本が3月から中国を対象にした水際対策を緩和したことで、現在は日本旅行の人気も高まっている。
コロナ発生から3年が経過した現在、中国人の海外旅行の現状、そして中国人が日本観光に何を求めるのか、現地の最新情報をもとに分析を行った。
回復する中国人の海外旅行、訪日には課題も
ゼロコロナの解除に伴い、中国人の海外旅行が回復。1月8日~3月7日の間で、中国の出入国者数はのべ3,972万人、前年比112%増加している。また、中国最大のオンライン旅行会社Trip.comの海外旅行関連予約数はコロナ前の40%まで回復した。
しかし、中国人の海外旅行が着実に回復している一方、訪日中国人の人数は直ちに戻るわけではなさそうだ。筆者は以下の課題があると考える。
・中国人向けの訪日旅行ビザは一部のみ解禁
・国際航空便の回復が遅く、チケット代金が高い
・3年間のコロナ禍で旅行業界崩壊による、人材不足
日本は現在、中国人の海外旅行先の第一候補になってない。その理由の一つとして、ビザの問題がある。中国はいまだ日本への団体ツアーを解禁してないことに加え、個人旅行においては、中国人向けの訪日ビザのうち、富裕層向けの「5年マルチ」しか解禁していない。
日本と比べ、入国手続きが便利なタイ、そして中国を新たにビザ免除対象に入れたモルジブなどが中国では人気で、中国人インバウンド客を取り合っている状態だ。
また、国際航空便の数もインバウンド市場回復の足かせとなっている。
直近の定時出航便数を見ると、中国国内航空便の数はすでにコロナ前の水準に戻っているが、国際便の回復は遅いことがわかる。3月12日までの一週間、定時出航便数は3,665便で2019年同期の20%に止まっている。ゼロコロナを解除してから、国際便が増加傾向にあるが、コロナ前の水準とは程遠い。
この理由から、航空便の数が少なく、チケット代金が高いことも訪日旅行の懸念点となっている。オンライン旅行サイト「去哪儿」によると、1月と2月、日中航空便の平均価格は5,000元(約9.7万円)。3月現在はさらに高騰し、8,000元(約15万円)まで上がっている。ただ、日航など航空会社の増便により、4月上旬は下落する見通しだ。
また、コロナ禍で旅行業界の人材不足も一つの課題と言えるだろう。過去3年中国の旅行や航空業界において、人材の離脱が激しく、一部の会社では50%の従業員が離職。観光ビジネスが大崩壊し、人材不足が深刻化している。さらに3年前と比べ、EC化や、ライブコマースなどの販売ルートが主流となったことで、求められる人材も3年前と異なる。旅行会社が復活を遂げるには、まだ時間がかかりそうだ。
訪日ビザ問題、国際便の少なさ、現地旅行会社の人材不足といった、この3つの課題はいずれ解決されていくだろうが、それにたどり着くまでの時間が2023年インバウンド市場の勢いを決める鍵となるだろう。
桜の季節がチャンスとなる
現在はタイなど東南アジア諸国が人気だが、3月の桜の季節を控え、日本への旅行も徐々に人気を増している。近日の日本旅行では「追樱路线(桜前線を追う路線)」がホットワードとなっており、Trip.comのデータによると、3月中旬から5月頭の桜の期間中は中国観光客の日本へのチケット予約数が前年比6割増加。ホテルの予約数は前年より2倍増加している。先に述べた課題はありながらも、日本旅行の根強い人気が見られる。
また、観光者のうち女性が6割、80年以降に生まれ層が絶対的消費主力だ。花見の人気スポットとしては、東京と大阪がそれぞれ1位、2位となっている。
中国人はコロナ後の日本観光に何を求めるのか?
中国人が来日する際、どんなことをしたいのかがインバウンド施策の要点となる。
現在、訪日旅行のメインとなりつつある中国の若い世代がコロナ後の日本観光に何を求めて、どんなことを体験したいのか。筆者は社内の85年以降生まれと90年以降に生まれた中国人40人にアンケートを行った。
・今年、日本旅行する予定の人は37%、行きたいが懸念がある人は41%
・日本旅行の懸念点として、航空券の高さが一番多い
・日本旅行で買い物するより、観光やサービスを体験したい人が多い
・買い物をする場合、化粧品を買いたい人が一番多い
・旅行の形式について、団体ツアーより97%の人が個人旅行を選択
詳細は以下の通りである:
- 日本に旅行したことがあるか
2、今年、日本に旅行する計画があるか
3、日本旅行への懸念点はなにか(複数回答可)
4、日本旅行するなら、下記のどれをしたいか(複数回答可)
5、日本旅行でどんなものを買いたいか(複数回答可)
6、日本旅行するなら、どんな形式で行くか
中国SNSのRED(小紅書)では、「日本で何を買いますか」と検索すると、サジェストに出てくるのは「化粧品」、「高級ブランド品」、「お買い得品」が挙げられる。円安を受け、中国より安く買えるのが一つの理由だろう。
中国人が高性能で品質の高い日本製品を求め、日本で爆買いすることがインバウンド業界で期待されていたが、訪日中国人の世代の変化に伴い、旅行スタイルや日本観光に求めるものがコロナ前とは異なる。
特に、ゼロコロナが緩和され、最初に海外旅行に出た80、90年以降生まれの若い世代は団体ツアーではなく、個人旅行(日本語がわからなくても)を選ぶ人が多く、「爆買い」よりも、現地のカルチャー、グルメ、サービスの体験などを重視しているようだ。
現在、訪日旅行できる中国人は高所得層に限られているが、今後個人旅行ビザの全面的再開に備え、このような若い世代に向け万全な受け入れ体制をつくること、そして日本観光ならではの体験・サービスを提供することがインバウンド市場を制する鍵となるだろう。
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