2022年7~9月期に続いて、今四半期でもテンセントやアリババなどの大手IT企業らの業績は低迷の様相を呈していた。コロナ感染拡大による個人消費の低迷が広告市場に打撃を与え、当局による未成年へのゲーム依存症対策などの影響によりゲーム市場は不調を見せていた。
そうした中で、企業らはブームとなっているAI(人工知能)に注目し、AIを活用した新規サービスの開発に取り組んでいる。
以下、各社決算のポイントをまとめました!
テンセント
売上高:1,450億元(約2兆8,000億円) 前年同期比1%増加、市場予想を上回った
純利益:1,063億元(約2兆円) 前年同期比12%増加
営業利益:1,168億元(約2兆2,000億円) 前年同期比6%増加
WeChatの月間アクティブユーザー数:13.1億人 前年同期比4%増加
◇売上構成
- 中国オンラインゲーム:279億元(約5,300億円) 前年同期比6%減少
- 海外オンラインゲーム:139億元(約2,700億円) 前年同期比5%増加
- コンテンツ課金:286億元(約5,500億円) 前年同期比2%減少
- 広告:247億元(約4,700億円) 前年同期比15%増加
- フィンテック/toB:472億元(約9,000億円) 前年同期比1%減少
主力のゲーム事業では国内収入に依然減少が見られていた。当局による未成年ゲーム依存防止対策と、新作ゲームライセンスの発行が停止していたことの影響が続いていた。一方、海外市場では「リーグ・オブ・レジェンド」などの人気ゲームが下支えとなり、増収を果たした。
コンテンツ課金事業では音楽・ゲーム関連のライブ配信収入が減少したことが響いた。
広告事業ではEC企業や日用消費財企業、ゲーム企業からの広告収入に顕著な伸びが見られた。また、WeChatにおけるショートビデオやミニプログラムでの広告出稿の増加も増収に貢献した。WeChatのショートビデオ事業に注力してきた成果が実ったようだ。
フィンテック/toB事業ではコロナ感染拡大の影響により減収が見られた。
今後について、同社は大きな成長が見込めるAI(人工知能)分野に注力すると明らかにした。自社のAIモデルを開発することで、既存事業への応用と新規事業の立ち上げにつながる可能性があると示した。
アリババ
売上高:2,478億元(約4兆8,000億円) 前年同期比2%増加、市場予想を上回った
純利益:468億元(約9,000億円) 前年同期比69%増加
営業利益:350億元(約6,730億円) 前年同期比396%増加
◇売上構成
- EC(BtoBtoC):913億元(約1兆8,000億円) 前年同期比9%減少
- 直営:744億元(約1兆4,000億円) 前年同期比10%増加
- EC(BtoB):42億元(約800億円) 前年から横ばい
- 越境EC:195億元(約3,700億円) 前年同期比18%増加
- 生活関連サービス:132億元(約2,500億円) 前年同期比6%増加
- 物流:166億元(約3,200億円) 前年同期比27%増加
- クラウド:202億元(約3,900億円) 前年同期比3%増加
- メディア/エンタメ:76億元(約1,460億円) 前年同期比6%減少
- イノベーション/その他:8億元(約150億円) 前年同期比20%減少
個人消費の低迷やコロナ規制などの影響を受けながらも、アリババはコスト削減により増益を果たした。
タオバオやTmall(天猫)などを含む主力事業のEC事業(BtoBtoC)では消費低迷と市場競争激化、コロナ感染拡大によるサプライチェーンと物流への影響が響いた。タオバオとTmallではアパレル商品の需要が落ち込んでいるため、GMV(流通取引総額)が前年比で一桁数の減少を記録した。また、同社は初めて大型セールスイベント「独身の日(ダブル11)」におけるGMVの公表を控えた。
一方で、越境EC事業では、傘下トルコECプラットフォームのTrendyolにおける取引数が急増したことが収入を押し上げた。また、直営事業では生鮮食品スーパーの盒馬(フーマー)が好調を見せ、コロナ感染拡大で医薬品への需要が高まったことで阿里健康(アリババ・ヘルス)が増収を果たした。
今後について、同社は新戦略の模索ではなく、引き続き消費・クラウドコンピューティング・グローバル化の3分野に注力すると示した。
京東 (JD)
売上高:2,954億元(約5兆7,000億円) 前年同期比7%増加、市場予想を下回った
純利益:30億元(約580億円) 前年より黒字転換
営業利益:48億元(約900億円) 前年より黒字転換
◇売上構成
- 直販(家電、デジタル製品):1,417億元(約2兆7,000億円) 前年同期比1%増加
- 直販(日用品):959億元(約1兆8,000億円) 前年同期比2%増加
- 広告:246億元(約4,700億円) 前年同期比11%増加
- 物流/その他:332億元(約6,400億円) 前年同期比75%増加
中国EC大手の京東(JD)は増収を維持し、物流事業や新規事業の好調に投資面での成功により純利益の黒字転換を果たした。
各事業を見ていくと、直販事業収入の伸び率に鈍化が見られていた。消費者を引きつけるために、同社は今年3月、競合である拼多多に対抗する形でセールスイベントの「百億補貼(百億元相当の補助金)」を打ち出し、価格戦に注力した。
一方で、物流事業収入は順調に伸びており、同社の新たな成長エンジンとして全体売上高に貢献した。近年立ち上げた航空貨物会社も好調を見せており、着々と輸送ルートを展開している。
今後について、京東はコスト削減や効率アップなどに引き続き力を入れると示した。
拼多多(pinduoduo)
売上高:398億元(約7,700億円) 前年同期比46%増加、市場予想を下回った
純利益:95億元(約1,800億円) 前年同期比43%増加
営業利益:91億元(約1,750億円) 前年同期比32%増加
◇売上構成
- 広告:310億元(約6,000億円) 前年同期比38%増加
- 手数料:88億元(約1,700億円) 前年同期比86%増加
- 直販:5,820万元(約11億円) 前年同期比29%減少
中国EC大手の拼多多は増収増益を果たし、伸び率ではアリババ・京東に比べて、3社の中でトップとなった。
詳しくみると、広告事業収入と手数料が下支えとなり、売上高の増加につながった。「独身の日(ダブル11)」などのセールスイベントにおいて、同社はさらに多くのブランドと提携し、大量の補助金も出していた。そうした取り組みにより、スマホやコスメ、ベビー·マタニティなどのカテゴリが成長した。
海外事業にも注力しており、昨年9月に打ち出した越境ECプラットフォーム・TEMUはアメリカ、カナダ、オーストラリアなど各国の市場に進出している。今後はさらにイギリスなどヨーロッパの国で展開していく予定だ。
バイドゥ
売上高:331億元(約6,300億円) 前年から横ばい、市場予想を上回った
純利益:50億元(約960億円) 前年同期比189%増加
営業利益:46億元(約880億円) 前年同期比135%増加
◇売上構成
- 広告:196億元(約3,800億円) 前年同期比6%減少
- その他:135億元(約2,600億円) 前年同期比9%増加
中国検索エンジン大手のバイドゥ、売上高では広告事業の不調が響いて横ばいとなったが、純利益ではコスト削減により大幅に上昇したようだ。
詳しくみると、広告事業はコロナ感染拡大の影響を受けて、収入が減少した。しかし、コロナのまん延が収束するに伴い、経済復活の傾向が強まっており、同社の広告事業も今後回復していくと予測される。
その他事業はAI事業やクラウド事業の好調により、増収を果たした。特にAI分野では、昨年11月に米IT企業より公開されたチャットボット「ChatGPT」が中国でも大きな話題になり、バイドゥは今年3月にいち早く中国版ChatGPTと目される「アーニー・ボット」を公開した。
また、自動運転事業ではロボタクシーサービス「蘿蔔快跑(Apollo Go)」の利用件数が56万件と前年比162%増加していた。今年3月には、北京で完全無人運転(車内に安全確認の作業員がいない状態)のロボタクシーサービス運転を展開する許可も得た。
今後について、同社は売上高と利益率の上昇を目指し、支出に対する慎重な姿勢を崩さないと示した。
ネットイース
売上高:254億元(約5,000億円) 前年同期比4%増加、市場予想を上回った
純利益:40億元(約770億円) 前年同期比31%減少
営業利益:44億元(約840億円) 前年同期比4%減少
◇売上構成
- オンラインゲーム:191億元(約3,700億円) 前年同期比2%増加
- オンライン教育:15億元(約290億円) 前年同期比9%増加
- 音楽ストリーミング:24億元(約460億円) 前年同期比26%増加
- イノベーション/その他:24億元(約460億円) 前年同期比3%増加
中国ゲーム大手のネットイース、今四半期ではゲーム事業と音楽ストリーミング事業の好調が増収につながった。一方で、純利益では3割ほどの減少が見られ、決算発表後に同社の株価は一時9%近く下落した。
中国ゲーム市場全体が低迷している中で、ゲーム事業は前年比2%の増収を維持した。過去の人気作が下支えとなっており、新作ゲームの「エギーパーティー(Eggy Party)」も現地でヒットを記録した。
音楽事業では、ポニーキャニオンなどの大手音楽ソフトメーカーと提携を果たしたことが増収に貢献した。また、同社はAIを使った作曲·作詞など、音楽制作分野におけるAIの応用に力を注ぎ、新たな付加価値サービスを模索している。
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