ChatGPT類似サービスの開発を急ぐ中国企業
現在、対話型AIのChatGPTが世界中で大ブームとなっている。
中国では直接アクセスできず、使えていない人が大半であるが、それでもChatGPTを機に巻き起きたAIブームはとどまるところを知らない。
ECサイトのタオバオでは、海外の電話番号を使用して登録したChatGPTのアカウントを販売するビジネスが流行し、月6万件以上を売れるなど、凄まじい人気ぶりである。
その他にも、AIに注力してきた検索エンジンの百度はOpenAIのあとを追い、類似サービスのERNIE Bot(文心一言)をリリースした。
実際にERNIE Botで「中国の国潮が日系企業に与える影響」「上海に住んでいる日本人の数」「6月にREDでバズるヘルスケア関連ネタ」などを質問してみたところ、すぐに回答が返ってきた。見てみると、練った回答ではないが、参考にできる内容も多そうだ。
以下はERNIE Botの特徴である:
- ChatGPTと違い、多言語対応はしておらず、現在は中国語と英語のみ対応
- 従来の検索エンジンよりも早く答えを提示
- 意図を理解させるため、正確に質問する必要がある
- 簡単な絵を作成することが可能
- 政治など、センシティブな質問は回答せず
現在、百度だけではなく、アリババなどのネット大手や、AIスタートアップ、そして大学の研究チームもこぞって開発に取り込んでいる。しかし、使用した所感としてはChatGPTを模した中国版の性能はChatGPTと比べ、回答の精度などまだ劣っている部分があるように感じた。
実際に百度のCEOもChatGPTとの差を認めているだけでなく、テック企業360の創業者も「中国の対話型AI技術はChatGPTより2年遅れている」との意見を発表している。
であれば、自ら開発せずともChatGPTを使用すればいいのでは?と思ってしまうが、中国のテック企業にとって、開発せざるを得ないのも事実だ。検索エンジンやECなど、中国テック企業の主業はどれもChatGPTに大きく影響される業界であり、自ら開発を進めないと、主業の方にも影響を及ぼし、遅れをとる可能性があるからである。
ChatGPTを活用する中国のEC企業
中国のEC業界において、越境ECや代理運営、SaaSサービスなどの分野でChatGPT、あるいは中国版ChatGPTを導入する企業が出現している。以下は各企業の具体的な活用シーンをまとめたものである。
越境ECを手掛ける吉宏股份は、今年1月に事業におけるChatGPTの活用を開始。業績への貢献度はまだ不明であるが、販売商品の選出から、広告制作、カスタマーサービスの工数削減まで、作業の自動化と効率化に役立てている。
また、SaaSサービスの微盟はERNIE Botのパートナーとなり、今後はマーケティングや、コンテンツ作成などにおいてERNIE Botを導入していく計画だ。
ChatGPTブームは中国EC関連企業の株価上昇にも反映されており、ChatGPT熱が続く限り、AI技術をEC事業で取り込む事例はこれからもたくさん増えていくと考えられる。
長期的な視点で見るChatGPTによるEC業界への影響
上述のように、中国EC企業の現段階におけるChatGPTの活用方向は、事業の効率化がメインである。現地の証券会社天風証券によると、長期的に見れば、ChatGPT技術はEC業界へ以下の影響を与える可能性があるとしている。
- ChatGPTは新しいトラフィックの中心となる
- ショートムービー、ライブ配信では、AI生成コンテンツが人間と代替え
- 中小ブランドがAIを利用し、自らマーケティング・運営チームを構築
現在、中国のEC業界はトラフィックを巡る競争が白熱しており、従来のモール型プラットフォームと新興のライブコマースプラットフォームがユーザーの争奪戦を繰り返している。
そんな中、ChatGPTのアクセス数はすでにBingを超え、百度の60%、Googleの2%に達している。さらに対話型AIが人々のアプリ使用時間を奪い、新しいトラフィックの中心となる可能性もある。そうなると、AIに勧められた商品をそのまま購入するなど、ECプラットフォームや広告業界も大きく変わってくるだろう。
また、中小ブランドの場合、EC店舗を代理運営会社に託すことが多いが、ChatGPT技術を利用すれば、以前より低いコストで自社のマーケティング・運営チームを構築することが可能だ。
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中国企業はChatGPTの実用化を積極的に取り組んでいるが、政府は生成AIに対して規制案を検討している。さらにDouyin(中国版Tik Tok)もAI生成コンテンツには「AIによる作成」という明記を要求するなど、AI技術の利用は規制がかけられることが伺える。
このことから、ChatGPTが世界的に普及しても、中国市場においては最終的にChatGPTではなく、政府の条件に合った中国版サービスが定着する可能性が高い。
その時、EC業界を含め中国企業がどう対策していくのか。引き続き、追っていきたい。
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