中国社会の高齢化が予測より加速している。

2022年中国の60歳以上の人口は2.8億人で全体の約20%。65歳以上の人口は2億人で、全体の15%を占める。

この高齢社会の加速によって生まれた巨大なシニア市場に各国の事業者から熱い視線が向けられており、「シニア先進国」である日本の数少なくない企業も早い時期から中国市場に進出した。

しかし、介護体系などが確立されていないこの市場では初期の事業展開に多くの難題に直面することに加え、プレイヤー増加による競争が激化している状態だ。

中国で苦戦する日本の介護会社

日系介護会社は、2010年から介護市場の需要増が見込まれる中国に相次いで参入し、2020年までに少なくとも11社が中国進出している。

2020年以前に中国の介護市場に進出した外資企業の国別分布(出典:AgeLifePro)

一体どのような会社が進出しているのか?以下、具体的な会社名と事業内容である。

  • ニチイ学館:2012年に中国で事業を開始し、生活支援、人材育成、健康商品販売などを実施
  • リエイ:2012年に北京で小規模多機能型施設の運営を開始。その後も中国での事業に注力し、上海、成都、南通に3施設を開設
  • Wisnet:現地政府と連携し、3軒の老人ホームを建設

一見順調そうに見えるが、介護保険が存在しない中国では、保険制度による安定した収入が獲得できないという、日本と大きな違いがある。さらに中国では親孝行文化による在宅扶養が定着しており、介護施設の入居率が低いなどの課題も存在する。

上記の理由から中国の介護市場で成功している日系企業はほとんどなく、撤退や事業見直しのケースが出ているというのが現状である。

実際にリエイは2017年北京にある施設を閉鎖。ニチイ学館も2019年に不採算の合弁会社を整理するなど、体制の見直しをすると同時に中国事業の再編を行い、香港、上海、広州の子会社3社解散している。

しかし、それでも日系企業の中国シニア市場進出は止まらない。

パナソニックは2022年に現地企業と連携し、江蘇省で老人施設の運営を開始。シニア向けのスマート家電を提供し、入居率は50%に達している。さらにその入居者は上海や北京、蘇州などの富裕都市からである。

強力なマーケティングで急成長した現地ブランド

シニア向けの商品販売といえば、現地ブランドの「足力健」が一つ参考例となるだろう。

同社は2015年に成立し、当時はまだ市場が定着していないシニア向けシューズの販売に特化した結果、2020年の売上は30~40億元(約590〜790億円)となり、同年中国シニア向けシューズの販売数1位となった。

親孝行の要素を取り入れた足力健の広告

同社の急成長の鍵は有効的なマーケティング施策だと言える。若者が良く利用するSNSではなく、高齢者が慣れている従来の媒体であるテレビにたくさん広告を投下。さらに高齢者の間で人気の同年代タレントをイメージモデルに起用するなど、このような施策が認知拡大に繋がったと考えられる。

さらに高齢者の消費を大きく左右する家族(息子、娘)にも訴求するため、新興のECプラットフォームにリソースを投入したことで大成功し、「足力健」は中国のシニア向けシューズの代名詞となった。

しかし、近年同社の品質管理問題が浮上。マーケティング戦略の成功によって急成長する一方、品質問題の対応に追われているというのが現実だ。

中国シニア市場の課題

中国の高齢化が加速し、シニア市場が今後伸びていくと言われているが、現在中国シニア市場には以下の課題がある。

  • 市場は未成熟で、消費者教育が必要
  • 介護システムが確立されておらず、企業は政府の支援に依存し、黒字化が困難
  • シニア向け商品・サービスの浸透率低下

介護市場においては、日本のような介護保険がないため、民間企業は介護施設の運営コストを負担できず、政府の補填に依存している。さらに、介護を新規事業として展開している企業も苦戦し、結局は主業の収入による補填に依存しているケースが多い。

また、中国市場で販売されている高齢者向け商品は健康食品やサプリメントなどがメインとなり、先進国のシニア市場より商品の種類がはるかに少ないのが現状である。

以上の理由から日本企業は、日本式シニアサービス・商品をそのまま中国に持ち込むのではなく、現地の情報収集、現地パートナーとの連携を通して、サービスをローカルライズしていくことが成功への重要な一歩となるだろう。

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