プラットフォームから個人情報が取れなくなったことによる影響
中国は2021年から「個人情報保護法」と「データ安全法」を施行し、サービス提供者が個人情報収集と分析を行うには消費者本人の同意が必要となった。これにより、ECプラットフォームがかつて提供してきた消費者の名前や電話番号、および住所などの個人情報が暗号化され、ブランドのマーケティングに大きな影響を与えた。
アリババに関しては、消費者の名前や電話番号の一部を非表示にした後、さらに個人情報保護の対策を強化するため、電話番号を仮想電話番号に変換。お店側は仮想番号を通して受取人と連絡が取れるが、仮想番号には30日間という有効期限があり、期限が切れると連絡が不可能となる仕組みだ。
他にも、EC2位のJD(京東)や、ライブコマースのDouyin(中国版Tik Tok)も電話番号など個人情報の暗号化を進めている。
これらの理由から、以前はダブル11などの大型セールイベント直前に店舗から大量の営業メッセージが発信されていたが、今ではその数が大きく減少している。消費者からは歓迎されるが、施策ができないブランドにとって痛手だと言えるだろう。
以下はプラットフォームの個人情報保護によって不可能となったマーケティング手法である:
- プラットフォームから消費者の名前や電話番号など、個人情報の取得
- 消費者への電話営業、メッセージ営業
- 電話番号を使用した別アプリでの消費者データ分析
- 電話番号を使用したWeChatなどへの消費者誘導
以上のことから、保有している消費者のデータが少ない中小ブランドや、中国市場に新規参入したばかりの海外ブランドにとって影響が大きいことは間違いない。その一方で、大手企業は新規顧客のデータ取得に影響するものの、すでにオンライン・オフラインの両方で大量の既存顧客データを持っているため、影響は比較的小さいようだ。
今の中国マーケティング業界で流行している手法とは?
・ECプラットフォームの会員制度を利用した個人情報の取得
注文データは暗号化されたものの、近年のユーザー成長鈍化を受け、ECプラットフォームも既存ユーザーの運営に注力している。その対策の一つとして、会員システムの構築が挙げられる。
プラットフォームの会員システムを利用してもらうと、ブランド消費者の個人情報取得が可能だ。会員に加入するには、ユーザー名、電話番号などの情報提供に同意しなければならないため、クーポンなどの優遇措置を通して会員加入を促すことが主流なマーケティング手法になりつつある。
一部の店舗では会員しか商品を購入できないような形式にすることで会員数を増やしている。
実際に2023年Tmallの618セールイベントでは、会員売上が1億元(約20億円)を突破したブランド数が前年比40%以上増加し、主要コスメブランドの平均会員売上シェアは60%を超過した。さらに主要スポーツ・アウトドアブランドの平均会員売上シェアは70%を超えるなど、今後は新規顧客の獲得だけではなく、会員の運営が重点だと言えるだろう。
・カード発送による消費者情報の獲得
以前からEC店舗がよく使う手法の一つである「カード発送」は今でも活用されている。商品発送時にQRコード付きのカードを一緒に発送し、消費者にwechatの友達追加をしてもらうことで、ファングループへの加入を誘導する、という流れである。グループでは、新品発売やイベント、割引などの情報が随時発信される。
・プライベート・トラフィックの獲得を重要視
ECプラットフォーム依存から脱却するため、近年チャネル開拓も重視されており、特に私域流量(プライベート・トラフィック)がマーケティングのキーワードとなっている。
ECモールに広告を出して獲得するユーザー「公域流量」と比べ、「私域流量(プライベート・トラフィック)」はWeChatアカウントやセルフメディアなど、無料でユーザーにリーチできるルートを通じて企業自身が有するユーザーを指す。前述の消費者をWeChatグループへ誘導することもプライベート・トラフィック獲得の一つの手法である。
このようなプライベート・トラフィックを獲得すれば、ECプラットフォームに依存しなくても消費者に接触できるため、重要なマーケティング手法として現在定着しつつある。
以上の分析から、中国マーケティング業界のトレンドは以下の3点だと考えられる。
- 会員獲得、会員運営への注力
- プライベート・トラフィックの獲得
- チャネルの多元化
今後は、単一のプラットフォームに依存しすぎないよう、チャネルの拡大、プライベート・トラフィックの運営が成功の鍵となるだろう。
関連記事: