ゼロコロナ政策終了後の1~3月の中国では急速的に拡大したコロナ感染が落ち着き始めた。移動制限がなくなった今年の旧正月は例年より早い帰省ラッシュが始まり、それに伴い旅行業界や広告業界も回復の兆しを見せ始めた。

市場経済は完全復活しておらず、個人消費の低迷も顕著だが、中国IT大手各社の事業は緩やかに改善に向かっていた。ただ、EC大手2社が1桁の成長率を維持するのと比べて、拼多多とテンセントは2桁の成長を果たし、注目を浴びていた。その理由を分析していきたい。

アリババ

売上高:2,082億元(約4兆1,000億円) 前年同期比2%増加市場予想を下回った
純利益:235億元(約4,600億円) 前年より黒字転換
営業利益:152億元(約3,000億円) 前年同期比9%減少

◇売上構成

EC(BtoBtoC):603億元(約1兆2,000億円) 前年同期比5%減少
直営:718億元(約1兆4,000億円) 前年同期比1%減少
EC(BtoB):40億元(約780億円) 前年から8%減少
越境EC:185億元(約3,600億円) 前年同期比29%増加
生活関連サービス:125億元(約2,400億円) 前年同期比17%増加
物流:136億元(約2,700億円)前年同期比18%増加
クラウド:186億元(約3,600億円)前年同期比2%減少
メディア/エンタメ:83億元(約1,600億円)前年同期比3%増加
イノベーション/その他:6億元(約120億円)前年同期比47%増加

売上高は前年同期比でやや増加し、純利益では投資による含み益が黒字化につながった。

メイン事業である中国国内のEC事業は全体的に減少している。EC(BtoBtoC)事業では「タオバオ」「T-mall」の有形商品に関するGMV(流通取引総額)が前年同期比で一桁単位の減少しており、収入に響いた。しかし、3月にはアパレルやサプリメント類の商品販売が好調なため、GMVはプラスに転じた。生鮮食品スーパーの「フーマー(盒馬)」などを含む直営事業では、1月のコロナ感染拡大や例年よりも長い春節などの影響を受けてオフライン店舗の売り上げが減少した。

中国EC事業が低迷の様相を呈している中で、海外EC事業では東南アジアの「Lazada(ラザダ)」やトルコの「Trendyol」といったECプラットフォームが増収を果たした。また、現地生活サービス事業ではフードデリバリーサービス「eleme(餓了麽)」の注文件数増加と平均注文価格の上昇がGMVを押し上げた。物流事業では国際物流関連の収入が増加していた。

3月28日に、アリババグループはECやクラウド、物流など6つの事業部を分割・独立させると発表した。これにより、事業における意思決定の迅速化が可能となり、今四半期では物流事業の「菜鳥(cainiao)」が1年~1年半で上場することを検討されている。

根本的な組織調整を進める傍らで、同社は中国でも巻き起こったAIブームに乗っかり、バイドゥに続いてChatGPTに類似した生成AIモデル「通義千問」を打ち出した。タオバオやT-mallなどの製品・サービスに導入される予定であり、事業に新たな変化をもたらすと期待されている。

京東 (JD)

売上高:2,430億元(約4兆7,000億円) 前年同期比1%増加、市場予想を上回った
純利益:63億元(約1,200億円) 前年より黒字転換
営業利益:64億元(約1,300億円) 前年同期比167%増加

◇売上構成

直販(家電、デジタル製品):1,170億元(約2兆3,000億円) 前年同期比1%減少
直販(日用品):786億元(約1兆5,000億円) 前年同期比9%減少
広告:191億元(約3,700億円) 前年同期比8%増加
物流/その他:283億元(約5,500億円) 前年同期比61%増加

アリババのライバル社である京東(JD)の売上高は市場予想を上回ったものの、前年比伸び率は1%と微増にとどまった。

直販事業では全体的に4%の減少を見せており、商品販売の落ち込みが浮き彫りになった。その一方で、テスラの公式旗艦店が開設されるなど、同社のプラットフォームに出店するブランドが増加するとともに、EC事業全体のGMVは押し上げられていた。京東は新規出店者への優遇など出店ブランドの引き込みに力を入れており、今四半期では出店者数が過去最高を更新した。

また、同社は低価格戦略を重要視しており、今年3月にはセールスキャンペーン「百億補貼(百億元相当の補助金)」を打ち出した。こうした施策を通してユーザー獲得を試みていたと考えられる。

商品販売が低迷している一方で、広告事業や物流事業などは増収となった。特に物流事業では大型荷物を専門とする配送会社「徳邦快遞(Deppon Express)」を買収したことが大幅な収益増加につながっている。

京東も他社同様、AI開発に着手しており、年内には内部のコア産業に導入されるAIモデルを開発している。また、今年の大型セールスイベント「618」ではIT大手「バイドゥ(百度)」の画像生成AIツールを通してポスターを作成した。同社の事業内部でAI技術の応用が浸透していくと思われる。

拼多多(pinduoduo)

売上高:376億元(約7,500億円) 前年同期比58%増加、市場予想を上回った
純利益:81億元(約1,600億円) 前年同期比212%増加
営業利益:69億元(約1,400億円) 前年同期比222%増加

◇売上構成

広告:272億元(約5,400億円) 前年同期比50%増加
手数料:104億元(約2,100億円) 前年同期比86%増加

市場予想を大きく上回る好成績を受けて、決算発表後に同社の株価は14%ほどの上昇を見せた。低価格を売りとしている新興ECプラットフォームの拼多多(pinduoduo)は、アリババや京東に迫る勢いで成長し続けている。中国市場調査会社「Questmobile」によると、2022年2月からの約1年間で拼多多のDAU(デイリーアクティブユーザー数)がタオバオを上回っていた。

こうした低価格戦略によってユーザー規模が拡大するとともに、同プラットフォームへの出店者も着実に増え続けており、広告収入と手数料収入の増加につながっている。

また、海外市場ではECプラットフォーム「TEMU」が急速的に事業を拡大しており、アメリカを始めにカナダやイギリス、ドイツなどの欧米市場で同社のアプリが続々とリリースされ、現地のアプリダウンロード数ランキング上位に名を連ねていた。

テンセント

売上高:1,500億元(約3兆円) 前年同期比11%増加、市場予想を上回った
純利益:258億元(約5,100億円) 前年同期比10%増加
営業利益:404億元(約7,900億円) 前年同期比9%増加
WeChatの月間アクティブユーザー数:13.2億人 前年同期比2%増加

◇売上構成

中国オンラインゲーム:351億元(約6,900億円) 前年同期比6%増加
海外オンラインゲーム:132億元(約2,600億円) 前年同期比25%増加
コンテンツ課金:310億元(約6,100億円) 前年同期比6%増加
広告:210億元(約4,100億円) 前年同期比17%増加
フィンテック/toB:487億元(約9,500億円) 前年同期比14%増加

全体的に業績が回復を見せており、約一年ぶりに売上高の前年比伸び率が2桁数を記録した。メイン収入源であるオンラインゲーム事業の伸びが目立っており、昨年4月、中国で停止になっていたゲームライセンスの発行が約9カ月ぶりに再開されたことで、テンセントの中国ゲーム事業は徐々に改善に向かっている。また、ゲーム内におけるアイテム販売や音楽サブスクリプションの収入増加を受けて、コンテンツ課金も増収を果たした。

広告事業では「WeChat(ウィーチャット)」のショート動画機能「視頻号」が新たな収入源をもたらし、ミニプログラムにおける広告増加も増収に貢献した。Douyin(中国版TikTok)などのショート動画サービス同様、視頻号の人気も日々高まっており、1日あたりのコンテンツ制作者および動画投稿数は前年の2倍以上に跳ね上がっている。テンセントは急成長を見せている視頻号にリソースを投入し、コンテンツの露出を増加させ、オンライン販売関連の枠組み作りにも力を入れ込んでいる。

事業が堅実に回復する中で、同社はAI開発にも注力し、さらなる事業の発展を目指している。

バイドゥ

売上高:311億元(約6,200億円) 前年同期比10%増加、市場予想を上回った
純利益:58億元(約1,200億円) 前年より黒字転換
営業利益:50億元(約1,000億円) 前年同期比91%増加

◇売上構成

広告:180億元(約3,600億円) 前年同期比6%増加
その他:132億元(約2,600億円) 前年同期比15%増加

中国最大級の検索エンジン会社であるバイドゥは増収と黒字転換を果たし、市場予想を上回る成績を残した。

詳しく見てみると、広告事業では医療業界や旅行業界からの広告需要の回復により増収を果たし、今後も需要は増加する見込みだ。その他事業ではロボタクシー事業が順調に伸びており、今四半期におけるサービスの利用件数は66万件と前年同期比236%も増加していた。

また、AI事業では他社に先駆けてChatGPTに類似した生成AIモデル「アーニーボット(Ernie Bot)」を打ち出し、迅速にAIサービスを展開してきた。バイドゥは同AIツールのコスト削減と効率アップに力を入れており、使用する際のハードルを下げている。

ネットイース

売上高:250億元(約5,000億円) 前年同期比6%増加、市場予想を上回った
純利益:68億元(約1,400億円) 前年同期比54%増加
営業利益:72億元(約1,400億円) 前年同期比31%増加

◇売上構成

オンラインゲーム:201億元(約4,000億円) 前年同期比8%増加
オンライン教育:12億元(約240億円) 前年同期比3%減少
音楽ストリーミング:20億元(約400億円) 前年同期比5%減少
イノベーション/その他:19億元(約380億円) 前年同期比13%増加

オンラインゲーム事業の好調が増収につながった。中国における新規ゲームライセンスの発行が再開されたことで、同社は新作ゲームを次々と打ち出し、中には「エギーパーティー(Eggy Party)」などの作品が人気を収めている。

同社の粗利率は66.7%と前年の62.2%から上昇しており、1月から利益率の低いゲームの運営を終了し、収益構造を改善したことなどが原因に挙げられる。

日本やカナダなどの海外市場におけるゲーム事業の展開も続いており、同社は目標として海外市場の売り上げが全体を占める割合を40~50%に引き上げたいと示している。

コスト面では研究開発費が37億元(約730億円)と前年同期比10%増加しており、自社生成AIモデルの開発に注力している。

まとめ

ゼロコロナ政策が終了し、感染拡大も収束する中で中国経済は回復に向かっていた。コロナの混乱から立ち直り、テンセントは約1年ぶりに売上高が2桁数の伸び率を記録した。しかし、消費者は支出に対して慎重になっており、EC業界では低価格商品が特徴的な拼多多がアリババ・京東を上回る成長率を維持した。

今後、中国市場でどのような変化が表れるのか注目していきたい。

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