消費低迷の暗雲が漂う中、消えた売上数字
独身の日と双璧をなす中国ECのセールイベント「618セール」が幕を下ろした。同イベントはゼロコロナ政策解除後、消費回復を測る重要なイベントとして注目を浴びていたが、経済減速と消費低迷の暗雲が漂う現状では、苦戦を強いられたブランドが多かったようだ。
例年行われたプラットフォーム各社が競って売上を公開する光景もなくなり、618セールにおける市況感を把握しにくい状況ではあるが、現地データ会社の星図が発表したレポートでは、ネット全体の売上は7,987億元(約15兆9,000億円)で前年より15%増加し、前年の20%から伸び率が鈍化している。
さらに近年中国ECを牽引してきたライブコマースは、今回2桁の成長を維持しているものの、前年は3桁の成長を遂げていたことを鑑みると、勢いは大分落ち着いた。
星図の他、複数のデータ会社が公開した数字やアナリストの分析などを総合的にみると、今回の618セールはマイナス成長の事態こそならなかったが、今後の中国消費市場回復を甘くみてはいけないようだ。
低価格と中小ブランド支援がプラットフォームのキーワードに
以前、中国ECプラットフォームのユーザー層は明確に分かれていて、アリババ系のTmallはアパレルやコスメを強みとし、女性ユーザーを、JD(京東)は単価の高いデジタル製品を強みとし、男性ユーザーを、格安ECの拼多多は地方ユーザーを多く有しているというのが特徴であった。
しかし、消費低迷に加え、EC市場成長鈍化が顕著となった近年では、本来のターゲット層だけではなく、価格に敏感なユーザーへの施策に各社が重点を置くようになっている。
このような背景もあり、今回の618セールでは各プラットフォームが低価格製品、コスパの良い製品の露出チャンスを増やすなどの優遇措置を講じ、中小出店者へのサポートを強化する動きが多く見られた。
EC最大手のアリババも危機感を抱き、創業者のジャック・マーが「タオバオに回帰すべき」とグループの新しい方向性を提唱しており、今後はブランド品に注力したTmallより、ノーブランドや個人店舗が主流のタオバオへのリソース投入が拡大されていくと予想される。
カテゴリ別の消費動向
総合ECプラットフォーム(アリババ、JD、拼多多)のカテゴリ別GMV(取引額)と前年比伸び率は以下の通りである。
- スキンケア:300億元(前年比2.3%減少)
- 香水/メイクアップ:106億元(前年比2.9%増加)
- アウトドア・スポーツ:258億元(前年比3.6%増加)
- 日用品:144億元(前年比5.9%増加)
- 食糧、油、調味料:105億元(前年比4.0%増加)
- スナック:66億元(前年比3.1%増加)
以上のデータから、総合ECプラットフォームではコスメの販売低迷が続いており、アウトドアや日用品などのカテゴリが成長を果たしていることがわかる。
一方で、ライブコマースのDouyin(中国版Tik Tok)では、スキンケア、メイクアップを含め、コスメカテゴリのGMVは前年比70%増加している。これは、アリババなどの総合プラットフォームから一部のシェアを獲得したからだと考えられる。
実際に、ロレアルなど海外コスメ大手もDouyinへのリソース投入が顕著になっており、今回のDouyinスキンケア売上ランキングでは、トップ5のブランドのうち、4つは海外ブランドとなっている。
また、単価の高い家電製品カテゴリでは、プラットフォームとメーカーから売上発表がほとんどなく、消費者が不動産業界の低迷で家電製品の消費に対しても保守的になっているのだと考えられる。
まとめ
ゼロコロナ解除後、初の大型ECイベントとして、消費回復による売上増加への期待が寄せられたが、結果から見ると、値引き競争が加熱しても中国の消費者は慎重な姿勢を崩すことはなかった。
厳しい環境に置かれたECプラットフォームも自ら変化を求め、過去10数年間で最も規模が大きいと言っても過言ではないほど、組織再編や事業再編の流れが各社に広がっている。
この変化の激しいマーケットにおいて、プラットフォーム、ブランドはどう対応して行くのか。引き続き、追っていきたい。
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