6月末、上海にカプコンのグッズを販売するアンテナショップ「カプコンストア」の海外一号店がオープンした。開店前にSNS上で大きな注目を受け、平日にもかかわらず開店初日では大行列ができ、同社の人気ゲームシリーズである『モンスターハンター』や『逆転裁判』などのグッズを求める大勢の消費者らで大盛況となった。
アニメやマンガと同様に、中国Z世代の若者らにとって日本のゲームに登場する人気なキャラクターのグッズも魅力的な商品である。ゲームコンテンツもまたIP(知的財産)として様々な事業を展開することが可能。中国市場調査会社・伽馬数据(CNG)によると、2022年におけるモバイルゲームをIPとした派生商品(グッズなど)の中国市場規模は35億元(約680億円)に達していた。
日本だけでなく、世界中で存在感を高めてきた中国のゲームメーカーのコンテンツも膨大な数のファンから支持されており、現地で多種多様なIPビジネスを展開している。
テンセント(王者栄耀、和平精英など)
テンセントは10億人以上のユーザーを持つSNSアプリ「WeChat(ウィーチャット)」を開発した企業であり、「王者栄耀(Honor of Kings)」や「和平精英(Game for Peace)」などの代表作を創出したゲームメーカーとしても有名である。
中でも5対5マルチプレイゲームの王者栄耀は、現地で絶大な人気を誇っており、5周年となる2020年ではデイリーアクティブユーザー数が1億人を突破した。そのため、同ゲームに登場するキャラクターとのコラボキャンペーンが後を絶たない。昨年にはユニバーサル・スタジオ・北京にて王者栄耀のキャラクターを載せた4台のフロートが走るパレードに注目が集まった。
ゲームのストーリーを再現した完成度の高いパレードを目当てに、現地のプレーヤーらはコスプレ姿で参加しており、好きなキャラクターとの記念撮影に勤しんでいた。
関連のオフラインイベントは頻繁に行われており、昨年9月には北京のショッピングセンター・三里屯太古里で体験型のイベントが開催され、若者受けする現代風なデザインのオブジェやゲーム機、グッズ売り場が設けられた。
さらに、王者栄耀をテーマとしたオリジナルミュージカルが今年5月に上演され、劇場には大勢のファンらが足を運び、集団で記念写真を撮影した。また、女性キャラクターをモチーフとしたレディースファッションブランドも立ち上げられ、同ゲームのIPビジネスが多岐にわたっていることがわかる。
同社はゲームコンテンツのIPとしての性質を重視しており、ゲームが内包しているコンセプトや世界観を強調し、より多くの人々それらを体感させることに注力している。これに基づいた幅広いIPビジネスの展開は、王者栄耀のプレーヤーだけでなく、ゲームに触れたことのない一般の方を惹きつけることができる。
ネットイース(第五人格、荒野行動など)
マルチプレイゲームの『Identity V 第五人格』(以下第五人格という)や『荒野行動』などの大ヒット作品を打ち出したネットイースも、ゲームコンテンツのIPビジネスに注力している。
日本でも累計ダウンロード数5000万以上と高い人気を持つ第五人格は、今年3月に上海でテーマカフェを打ち出した。同ゲームの世界観をコンセプトとした料理の数々とグッズを求めて、多くのファンたちが店舗を訪れていた。ほかにも、中国の二十四節気(一年の季節・気候の節目)に合わせたオフラインイベントを打ち出しており、プレーヤーからミニゲームの体験や限定バッジのプレゼントへの好評を得ている。
源氏物語の平安時代を背景としたネットイースの人気RPGゲーム『陰陽師本格幻想RPG』(以下陰陽師という)においても多様なるIPビジネス展開が見られた。2018年には同ゲームを原作とするアニメ『陰陽師・平安物語』が放送され、中国動画配信サイト・ビリビリ(bilibili)では5000万回以上の再生回数を記録している。同年には上海をはじめとする中国各地でオリジナルミュージカルが上演され、満席状態が続くなどの大反響を得た。翌年には第二弾も上演され、チケットの入手が困難になるほどの人気ぶりに話題が沸騰した。
他にも、2020年7月には上海でテーマカフェとアンテナショップを合わせた陰陽師の旗艦店がオープンし、開店初日にはプレーヤーが大勢で集まって場を盛り上げた。食事やグッズ購入だけでなく、オフラインイベントを楽しめる空間としてプレーヤーから支持されている。
miHoYo(原神、崩壊3rdなど)
miHoYoは上海に本社を構える中国大手ゲームメーカーであり、日本などの海外市場にも進出している。市場調査会社・Sensor Towerによると今年6月の中国スマホゲーム海外市場収入ランキングでは同社のゲームがトップと3位を占めていた。
同社は『崩壊3rd(Houkai Impact 3rd)』などの3Dアクションゲームを打ち出しており、タイトルやキャラクターなど随所に見られる日本要素が特徴的である。特に、2020年にリリースしたオープンワールド・アクションゲーム『原神(Genshin Impact)』は大ヒットし、中国Z世代らを熱狂させている。その影響力はすさまじく、米ファーストフードチェーン「ピザハット」と中国で打ち出したコラボキャンペーンではファンがなだれ込むなどの混乱ぶりで話題になった。その後も数々のコラボを打ち出し、注目を集めた。
関連記事:原神×ピザハット
また、同社は中国ECモールの「Tmall(天猫)」にて原神の関連グッズを販売するオンラインショップを開設しており、157万人のフォロワー数を擁している。同じく中国の大ヒットゲームである『王者栄耀(Honor of Kings)』のTmall店舗フォロワー数の約6倍となっている(2023年7月10日時点)。
コラボやグッズ販売にとどまらず、今年4月には天津と成都にてオフラインイベントを開催した。ゲームの世界を再現したスペースにグッズ販売や舞台ショーを行い、コスプレしたファンなど多くの人々を引きつけることに成功した。
今年8月においても、上海で原神の大型オフラインイベント「原神☆FES」が開催される予定。直近数カ月、上海で開催されたアニメ・ゲーム関連の大型展示会が混み合っていたことから、夏休みにコスプレをしたZ世代の大群が会場に押し寄せると予想される。
他にも、miHoYoはテンセント傘下の音楽ストリーミングサービスにてオリジナルアルバムを打ち出し、日本アニメ制作会社・ufotableと共同で原神のアニメ化を進めている。
また、プレーヤーによる二次創作にも支援しており、二人の人気キャラクターの衣装を交換したデザイン画を描く者などが見られた。これにより、プレーヤーらが自由にゲームに対する感情を表現できるオープンなコミュニティが形成され、原神の影響力を高めることができる。
まとめ
以上のことから、ゲームコンテンツのIPビジネス展開をいくつかの種類にまとめることができる。
- コラボキャンペーン
- グッズ販売(ネット通販、アンテナショップ)
- オフラインイベント
- テーマカフェ
- アニメ/ドラマ/映画/ミュージカル化
人気ゲームコンテンツのIPビジネスを推進することで、様々なフィールドで消費者にアプローチすることが可能となる。特にゲームに熱狂的な中国Z世代の若者たちに対して、グッズ販売やイベント開催などの魅力的なIPビジネスは大きなポテンシャルを秘めている。中国市場でゲームメーカーらが展開するIPビジネスの今後に注目していきたい。
※アイキャッチ画像(王者栄耀の北京イベントグッズ売り場=中国SNSより)