中国の代表的なショート動画プラットフォーム「Douyin(抖音)」は、中国市場で事業を展開する企業やブランドらにとって重要なプロモーションチャネルとなっている。Douyinの公式アカウント運用でユーザーを惹きつける動画コンテンツ制作の重要性も増しており、市場が拡大するIP(知的財産)分野とて例外ではない。
参考記事:中国市場における日本ブランドのIPコラボ事例(ローソン、ユニクロ等)
MOLLYなどの独自IPで人気商品を次々と打ち出している中国フィギュアメーカー「ポップマート(POP MART)」を例に、ユーザーを惹きつける動画コンテンツについて紹介したい。
恋愛物のショートドラマ
フィギュア紹介などの一般的なプロモーション動画があふれる中で、対照的に若い男女の甘い恋愛模様を描いた1~5分ほどのショートドラマが目を引く。
2022年にポップマートが打ち出した『泡泡星座小劇場』では、星座別の人物たちに焦点を当てた12話構成の恋愛物語が展開されている。ポップマートの星座フィギュアシリーズのプロモーションにつながっており、劇中の様々な場面にフィギュアが自然体で溶け込んでいる。大半の動画が1万いいね超えと反応がよく、全体の再生回数は600万回以上に達している。これに次いで今年も新たな恋愛ショートドラマ『泡泡短劇下午茶』が打ち出され、各話が3万いいね以上獲得とユーザーからの好評を得ている。
意外にも思える恋愛ドラマの制作には、ショートドラマの影響力拡大が背景にある。中国市場調査会社「徳塔文(Datawin)」のレポートによると、2022年上半期で制作を計画中のショートドラマは2859本あり、2021年の年間398本を大きく上回った。ハイテンポで進み、すきま時間にサクッと見終われるショートドラマは、タイムパフォーマンスを追求する現代の人々の需要に満たしている。
メイキング映像
ポップマートの新商品紹介動画で、フィギュアの世界観を再現したジオラマが舞台である『泡泡小世界』がユーザーから好評を得ている。中でも、舞台裏を収録したメイキング映像が本編を上回る反響を見せている。
映画『ジュラシック・ワールド』とのコラボフィギュアのプロモーション動画とメイキング映像を比較すると、前者よりも後者の方が約10倍も多くのいいね数を獲得している。
動画へのコメントから、ジオラマ作りの様子がユーザーたちから好評を得ている理由だとわかる。
- ジオラマ作りに心を込めている
- すごいジオラマ、細部まで作り込まれている
- デザイナーが丹念を込めているのがわかる
- この制作チームに入りたい、どうすれば入れますか?
緑が茂る広大な森、電柱が連なる荒地のロードウェイ、複雑に入り込んだ吹き抜けの洞窟など、繊細でリアルなジオラマを一から作り撮影する動画は高い専門性を発揮しており、ユーザーから好評を得ているポイントの一つと思われる。
DIY動画
DIYとは英語で「Do it yourself(自分自身でやる)」の略語であり、欧米から中国に伝わった単語とされている。中国ではハンドメイド(手作り)の代名詞として使われることも多く、ポップマートのDIY動画はこれにあたる。
動画をみると、開封済みのフィギュアの箱や不要となった紙袋などを使って、フィギュアケースや貼り絵などを作る方法が紹介されていた。コメント欄では、ユーザーから完成品に対する称賛の言葉や自作した貼り絵の写真などが見られた。同動画シリーズ『泡泡手作計劃』の合計再生回数は600万回以上を記録しており、数千位いいねや1万いいね以上の動画も少なくない。
近年、中国若者の間でDIYが流行しており、SNSではロゴ入り紙袋を改造したブックカバーや、使い捨てのテイクアウト用コップを改造した装飾品などの投稿が相次ぎ現れた。消費者による投稿だけでなく、中国コーヒーチェーン大手「ラッキンコーヒー」も自社の紙袋で作られた指輪ケースとミニ花束の写真を上げ、14万いいねと大きな反響を呼んだ。
発想力と創造力に富んだUGC(ユーザー生成コンテンツ)は、企業やブランドにとって良い宣伝効果をもたらすと考えられる。そのため、企業やブランドからユーザーに自主的なアプローチを取ることもある。
まとめ
特徴をを以下にまとめることができる:
- ショートドラマ(ユーザーにとって時間効率の高いコンテンツ)
- メイキング映像(高い専門性を発揮するコンテンツ)
- DIY動画(UGCにつながるコンテンツ)
これら動画コンテンツの共通点としては、フィギュア以外の部分を通してフィギュアの魅力を引き出していることが挙げられる。流行に乗った動画だけでなく、意表をつくような方向からのアプローチもユーザー獲得の成功につながっている。