中国政府は化粧品業界への監督を強化し、2021年に「化粧品ラベル管理弁法」を公開した。同規定では、含有量0.1%以上の成分を含有量の多い順でラベルに記載しなければならない。また、0.1%以下の成分は表示順に規定はないものの、同様にラベルに記載することをメーカーに義務付けるなど、今までなかった含有量0.1%~1%の成分表示や順番の規定を新たに追加し、成分への管理を厳格化した。

同規定は2022年5月以降に施行され、それ以前に登録または届出を行った化粧品で規定を満たしていないものがある場合、2023年5月1日までにラベル内容を更新することが求められた。

同規定の成分表示に関するポイント:

  • 全ての化粧品成分は中国語名で記載しなければならない
  • 含有率0.1%以上の成分は、含有量の多い順に記載しなければならない
  • 含有率0.1%以下の成分については、掲載する順番に規定はないが、成分を必ず掲載しなければならない
  • 商品の最小単位(個包装)までラベルを貼らなければならない

この規定は成分を重視する中国消費者の権利保護のためであるが、化粧品メーカーにとって対応が難しく、苦情が上がっている。

より細かく成分を開示することに関しても、化粧品のレシピが世間に漏洩、コピーされる恐れがあるとして懸念が高まっている状態である。

新規定で輸入化粧品の新商品届出数が急減

▲2022年1月〜2023年6月中国化粧品新品の届出数(出典:EntercoMatrix)

強化されたのは、ラベル管理規定だけではない。他にも化粧品業界の監督を強化する法律が施行され、結果として中国化粧品業界の新商品届出数はマイナスとなった。

さらに国産ブランドと比べ、海外メーカーは新規定への対応が難航し、2022年輸入化粧品の新商品届出数は1.1万件と、前年比35%減少。国産ブランドの台頭もあり、3年連続での減少となった。

特にラベル規定が施行となる2022年5月には届出数が急減し、2023年上半期では輸入化粧品の新商品届出数が2022年と比べて横ばいとなるなど、規定の影響は続いている。

▲2023年上半期輸入化粧品新商品の生産国の比率
(出典:EntercoMatrix)

また、2023年上半期輸入化粧品新商品の生産国のうち、韓国は28%と去年トップだったフランスを抑え、1位となっている。日本は13%で3位である。

政治問題で韓国製品は中国で一時期ボイコットされたものの、近年中国市場での巻き返しが行われているようだ。

欧米大手メーカーが対応を完了

▲欧米大手の人気商品は新しいラベルに変更

成分開示に対して日系ブランドは慎重な姿勢を見せているが、ロレアルやエスティローダーなど、一部欧米の大手ブランドはラベル管理規定に応じて新しいラベルに変更している。

ロレアルは含有率0.1%以上の成分を順番に表示し、含有率0.1%以下の成分を「その他微量成分」として表示した。

ただ、ラベル管理規定は成分表記以外にも細かなルールが制定されており、海外ブランドは今後商品開発の段階から中国市場の規定を考慮しないといけなくなるだろう。

日系メーカーにとっては?

日系メーカーの中では、成分配合量が推測できてしまい、レシピが漏洩される懸念が広がっている。中国市場は元々レシピだけで勝てるような簡単なマーケットではないが、中国政府の管理強化で、化粧品市場のハードルが上がり、一部のメーカーは淘汰されることは間違いない。

しかし、実はレシピ漏洩のリスクに抵抗があるブランドにとって、一つは、新規定が適用されない越境ECへの転換、もう一つは完全に中国市場向けの新商品を開発する、という二つの対策がある

このように対策はあるものの、日本メディアの報道を見ると、このラベル管理規定は原料名と比率を明記した調合表の提出を義務づけたものだと報道しており、完全なレシピ開示だと誤解させることが多いようだ。

また、化粧品に使用した原料に対する安全性関連情報の提出を求める別の規定「化粧品登録備案資料管理規定」をラベル管理規定の内容とする誤報も見られた。

この「化粧品登録備案資料管理規定」は、2023年5月1日までに全ての原料に対する安全性関連情報の提出を求めているが、海外メーカーの対応が難航しているため、2024年1月1日まで延長されている。

さらに、過去に登録・届出が完了した化粧品について、全ての原料安全性情報を提供する代わりに「化粧品安全技術規範」の該当する原料を2023年12月31日までに補充することで、安全性情報の提出すべき原料の範囲が縮小される。

このように中国政府は、厳格な管理方針を出しても、市場の状況見つつ調整を行っており、メーカーは政策の修正など、政府の動向も追っていく必要があるだろう。

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