直近数ヶ月の中国では、「ドーパミン・ドレッシング(dopamine dressing)」というファッションスタイルが大流行しており、SNS上では関連動画や関連写真の投稿がトレンドになっていた。ドーパミン・ドレッシング(dopamine dressing)は、“幸せホルモン”とも呼ばれるドーパミン分泌につながるとされる、明るく鮮明な色でコーディネートされた服装のことを指している。
目に焼き付く明るい服を身にまとった若者たちの動画がネット上で急速に拡散され、アパレルやコスメだけでなく、飲食業界にもその影響が波及していた。
こうした大流行の経緯と背景には、新型コロナウイルスの影が見え隠れていた。
ブームの成り行き
中国で巻き起こったドーパミン・ドレッシングブームの火付け役は、ユーザー名「白昼小熊」という若い女性動画クリエイターとされている。今年4月に、中国版TikTokとも呼ばれる・Douyin(ドウイン)で、当人が黄色やピンクなどのカラフルな服装で楽しげに歩く動画が356万いいね以上を獲得し、大きな注目を集めた。白昼小熊はその後も立て続けに同じスタイルの動画を投稿し、400万いいね、500万いいね以上と記録を更新していった。
あまりの人気ぶりに、SNS上では類似動画などの関連投稿が爆発的に増加し、トレンドに急上昇した。話題が沸騰したドーパミン・ドレッシングは、現地のマーケティングにも多大な影響を与えた。
中国ECプラットフォーム・唯品会(VIPSHOP)によると、ブームの影響を受けて、今年4月以降では色が明るい、彩度が高い服の売り上げが急増している。また、ドーパミン・ドレッシングの商品を主に取り扱うブランドでは、売り上げが前年に比べて30%以上の増加が見られた。トレンドの波に乗り遅れないように、多くのブランドがドーパミンに結びつけて商品を宣伝していた。
同ブームはさらにアパレルからコスメ、飲食分野へと業界の垣根を越えて中国市場で急激的に拡がっていった。
唯品会では、ブームの中の約2カ月で「ドーパミン・ドレッシング」「ドーパミン」「ドーパミン・コスメ」などのキーワード検索数が急増した。同時期では、コスメ商品全体の売り上げも前年比で増加が見られ、中でも現地人気ブランド・INTO YOUの売り上げは5倍に膨れ上がっていた。飲食業界でもドーパミンを冠した多彩なフルーツドリンクやハンバーガー、スイーツなどが次々と打ち出され、見た目と味の両面でドーパミンとの抜群な相乗効果を見せていた。
また、中国大型ECセールスイベント「618」期間中では、「多巴胺风(ドーパミン・スタイル)」が現地大手ECプラットフォーム・タオバオの検索ランキング一位に上っていた。
“ドーパミン”は「明るい色で楽しい気分にさせるもの」として意味合いを持ち始め、SNSから中国市場全体に徐々に浸透していった。
コロナ禍による反動が背景
ドーパミン・ドレッシングは、そもそも欧米諸国で先に流行していたファッションスタイルだ。その背景には、コロナ禍が終了したことの反動により、人々が沈んでいた気持ちから切り替えようとしていることが関係している。例えば、イギリスでは2021年7月にロックダウン政策が徐々に解除されてから、明るい色の服がトレンドとして注目され始めていた。
こうした現象は、中国でも再現されている。2022年12月に、中国ではゼロコロナ政策が解除され、それに伴い移動規制やロックダウンなどの感染拡大防止対策も終わりを告げた。その後、第一波の感染拡大が過ぎ去り、いよいよコロナ禍が落ち着きを見せる中、人々はこれまでの反動により、幸福感や開放感が得られるものを追い求め始めた。若者にとって、新鮮さと愉悦を感じさせるドーパミン・ドレッシングは熱中させるに十分な要素を持ち合わせている。
このような変化に現地ブランドだけでなく、ユニクロなどの海外ブランドもドーパミン・ドレッシングを取り入れたプロモーションを熱心に行ない、迅速な対応を見せていた。中国市場におけるマーケティングでは、絶え間なく移り変わる中国若者らのトレンドをしかと捉えることが欠かせない。
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