巨大、そして変化の激しい中国市場において、「Tmall店舗を展開したが、次は何をすべきか?」と今後の市場変化にどう対応するか悩む日系ブランドが増えている。
これまでの中国EC市場シェアを振り返ると、2018年時点ではアリババがシェア率58%と、半数以上を獲得しており、2位のJD(京東)と大きな差をつけていた。
当時、PDD(拼多多)は成長段階でまだ規模は小さく、その他Suning、唯品会、国美(GOME)など、下位のプラットフォームは家電など特定のカテゴリにおいて影響力がある時代であった。さらに、当時Amazonはまだ中国市場から撤退しておらず、0.7%とわずかながらシェアを持っていた。
4年後の2022年には、アリババとJDの成長鈍化が顕著に。経済減速を追い風に格安ECのPDDがさらなる成長を果たした上、シェアも2位のJDに追い迫るなど、上位3社の総合ECプラットフォームは順位は変わってないものの、攻防戦が一層激しくなった年であった。
加えて、4位以下のプラットフォームが一変し、Suning、唯品会らと取って代わり、douyinをはじめとするライブコマースプラットフォームが急成長。シェアを21%まで拡大している。
このように中国政府の独占規制強化など、複数の要素によりEC市場の勢力図は変化し続けている。今回は、これから成長していくことが期待されるプラットフォーム・サービスを紹介する。
Douyinの「貨架EC」
Douyin(中国版Tik Tok)はショート動画とライブ配信を武器として成長してきたプラットフォームである。しかし、今年に入りDouyinは競合のアリババやJDなど、従来の総合ECプラットホームのサービスである「貨架EC」に注力している。
「貨架EC」は、ユーザーがDouyinの動画コンテンツやライブ配信をみて商品購入に至るパターンとは異なり、ユーザーは事前に欲しい商品があり、それを検索あるいはdouyin上のモール「Douyin商城」で商品を探し、購入する。
実際に、2022年「貨架EC」はDouyinのEC事業GMVの30%以上を占め、そのうちDouyin商城のGMVは前年比178%増加しており、かなりポテンシャルが高いと言えるだろう。
ライブコマースを武器に急成長してきたDouyinであるが、「貨架EC」を通してさらなるシェア拡大を図り、アリババなど大手へ挑めるほど中国EC市場での存在感が日々高まっている。
WeChat上の「視頻号」
SNS・ゲームを手掛けるネット大手のテンセントは中国のネット規制などの逆風にさらされ、業績が低迷に陥った会社の一つである。そんな中、著しい成長を見せた「視頻号」は全社の希望の光と呼ばれ、重要な位置付けとなっている。
視頻号はテンセント傘下の国民的チャットアプリWeChat上で作られたショート動画とライブ配信のプラットフォームである。WeChatからユーザーを誘導することで、速いスピードでユーザー数を伸ばしてきた。
また、WeChat でDouyinなど他社動画サービスのリンクシェアを規制したことで、自社サービスの視頻号が成長を遂げる、絶好の成長環境を整えている。さらに決済サービスのWeChat payなど、テンセントの既存サービスも視頻号のEC事業展開をサポートする形となった。
現在、視頻号の規模はまだまだ小さいものの、大手プラットフォームの高い広告費と日々降下するROIのリスクを懸念し、一部の中小企業が視頻号へリソースを投入する動きが見られている。
REDのライブコマース
RED(小紅書)は以前「种草(消費者の購買意思決定に大きな影響力を持つ口コミ)」のプラットフォームとして知られたが、近年自社EC事業に注力し、マネタイズを加速させている。
REDのEC展開は決して順調ではなく、ライブコマースへの進出も大手より比較的遅れているが、現在流行している早いトークで魅力的な割引を売りにするライブ配信と差別化し、ライバーの価値観を重視したトークなど、ゆったりとしたライブ配信スタイルを創出。現在は章小蕙、董洁などのライバーがこうした個性的配信を通じて、人気が急上昇している。
また、REDは1級2級都市の女性ユーザーが多いため、他のプラットフォームよりも価格に対してあまり敏感ではなく、格安商品よりもライバーの価値観に共感して、商品購入にいたるのも特徴だ。
このようなゆったりとしたライブコマーススタイルが人気となり、現在はREDへの出店者数、および売上がともに急増している。
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すでに成熟しているプラットフォームに出店している場合、インフラが整っており、便利なだけでなく、リスクも抑えられるが、激しい市場競争によるROIの低下などが課題となっている。一方、新興プラットフォームは成長に勢いがあるものの、ブランドにとっては、試行錯誤のための先行投資が必要だ。
中国市場は消費不振に加え、EC業界は成長鈍化に陥り、全体的にマイナス要素が多いが、この時期こそ、環境変化への対応能力が問われる。
市場の変化を追い、早期からの情報収集が勝負を決める要因の一つとなるだろう。
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