市場が縮小している国内市場より、隣国の中国市場に注目する日本ブランドは少なくない。

その莫大な市場規模が企業を惹きつけ、関連企業の中国市場進出が相次いたが、中小企業にとっては予算面で大手に敵わない上、現地消費者の嗜好などの知識がないなど、ハードルの高い市場でもある。

そんな中小規模の日系ブランドが中国市場でどうしたら成功できるのか?ニッチな分野で成功した新興ブランドを例に紹介したい。

東方香水をアピールする「観夏」

コロナ禍で口紅の需要が減少したのとは対照的に、香水はマスクに影響されないとして、中国における香水市場は2021年から大きく成長を遂げた。世界の香水市場の中で最も成長が早い市場となり、2025年には43億ドルの規模に達すると予測されている。

また、中国香水市場の市場集中度は低く、新興ブランドにとっても大きなチャンスが残されている。そんな中、2019年に創業した香水/フレグランスブランド観夏(To Summer)は、2021年は年間売上1億元を達成した。

▲観夏のWeChat店舗

同社の製品は金木犀など中国人に馴染みのある植物を原料に採用し、デザインや香水の名称も中国風と一貫した「中国香水」をセールスポイントとしたことで、大手国際ブランドとの差別化に成功している。

販売戦略面では、創業当初はECプラットフォームに出店せず、WeChatの公式アカウントのコンテンツ配信に注力し、集めたファンをWeChat上の店舗に誘導するDTCモデルを採用。ECプラットフォームへの出店費用を抑えただけでなく、工夫したコミュニティ運営により、ロイヤリティの高いファンを多く獲得した。

また、新商品を数量限定、または時間限定で販売したことで、製品の希少性を高めただけでなく、美術館やコーヒーブランドなどとコラボを展開し、ファン層をさらに拡大することにも成功しており、こうしたDTC戦略によって2021年WeChat公式アカウントのファン数は百万人にのぼった。

知名度をあげた観夏は、ECモールを含む中国主流プラットフォーム開店に踏み出しただけでなく、実店舗も打ち出すなど、さらなる事業拡大を図っている。

KOLからワインのEC企業まで成長した「醉鹅娘」

醉鹅娘の創業者である王胜寒氏はワイン好きのKOLとして、2014年から個人SNSでわかりやすい言葉でワインの知識を紹介。そのコンテンツが人気となり、フォロワーを600万人まで拡大した後、王氏はSNSで獲得したフォロワーをWeChatのコミュニティに誘導する、という方法でECビジネスを展開した。

WeChatコミュニティで、ワインがブラインドボックス式で毎月送られる1年間のサブスクリプション会員サービスや、WeChatで追加したユーザーの日常飲食習慣から味覚を分析し、それに合わせたワインが推薦されるなど、一人一人の消費者に親和感を与えるサービスを展開している。

▲醉鹅娘の会員サービス(左)と自社ブランド「每日红酒」(右)

自社ブランドである「每日红酒」は、中国語の包装デザインを採用したことで、「ワインはお金持ちの嗜好品」という概念をなくし、若い世代がワインに親和感を覚えたことで、最も販売数の多い人気商品となっている。

2022年には、同社の会員サービス、ワイン販売収入、そして自社ブランド「每日红酒」の販売収入の合計で年間売上3.5億元を超過する、ワイン分野の大ヒットブランドとなった。

コミュニティ運営で大成功したlululemon

カナダのスポーツウェアlululemonはヨガウェアを皮切りに、服だけでなくライフスタイルをアピールすることで購買力の高い中間層の女性消費者を獲得することに成功。現在はナイキに次いで時価総額世界2位のスポーツブランドにまで成長している。

中国市場へは2013年に進出し、コミュニティ運営を通した集客に成功。 2022年第四四半期には中華圏の売上高が前年比30%以上増加し 、自国カナダでの成功を中国でも実現している。また、中国の店舗数もカナダを超え、上海の街中でもlululemonのヨガウェアを着て歩く女性が増えている。

▲Lululemonはヨガ先生を招待したイベントを開催

オフラインにおいては、実店舗を中心にヨガの授業など、イベントを頻繁に開催し、消費者との接点を増やしている。また、Lululemonのブランドコンセプトに共感する店員を募集し、店員自身の体験を消費者に伝えるなど、コミュニティ形成としても機能させているのが特徴だ

オンラインにおいては、WeChatのコミュニティで毎週火曜日に新商品を数量限定で発売を行っている。こうした情報収集はコミュニティに加入する必要あるため、消費者が新たなファンになるよう、工夫がされている。

このように、広告投下よりもオンラインとオフラインのコミュニティ運営を通して、ブランドコンセプトとその背景にあるライフスタイルを消費者に伝え、共感してもらうことで購入に至らせる作戦は、中国市場でも大成功し、Lululemonはニッチなブランドから今や多くの人が知るブランドとなった。

上記3社が成功した理由は、以下の要素があると考えられる:

  • 伸び代のある分野
  • ニッチな市場に対応した商品
  • 充実したブランド・商品ストーリー
  • コミュニティ運営でファンの忠誠心や愛着を高める

日系企業にとって、中国市場は莫大な規模感が魅力的であるものの、所得格差、地域発展の格差など、非常に複雑な市場でもある。加えて、中国の経済減速や消費回復の遅れにより、中小企業はさらに厳しい環境に置かれているのも現実だ。

しかし、その一方で中国消費層の世代交代により、若者の嗜好に合わせた食品飲料、コスメなどの分野で新ブランドがたくさん登場している。これらの新興ブランドは消費者をファンにさせるストーリーを構築したことで、ニッチな市場から知名度を拡大してきた。これは中国市場へ新たに参入する日系中小企業にとって良い参考事例となるだろう。

長期視点から見ると、一過性のトレンドではなく、持続的な成長も期待できるため、これら新興ブランドが今後どのような施策を打ち出すのか、引き続き追っていきたい。

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