中国の経済減速ムードがここ数年続いていたが、今年の第二四半期を分岐点に中国経済崩壊に関する議論が急に盛り上がりをみせている。

その理由として、今年の1~3月にゼロコロナ政策を撤廃したことで経済回復が予想を上回ったものの、4月から急ブレーキをかけられたかのように、コロナ禍からの反動増が予想を下回り、各経済指標が急に減少したことが挙げられる。

消費者物価(CPI)の成長が鈍化したことで、7月にはついにマイナスに転じたことに加え、不動産大手のデフォルト続発や、輸出額の減少など、今まで中国経済の牽引役だった業界が揃って低迷していることから、中国経済の今後に懸念が高まっている。

これを受け、今後の中国経済はどうなるか、現地で話題となっている3つの説をまとめてみた。

大注目の「バランスシート不況」論

経済の行方を巡り、現在中国で最も議論されているのはエコノミストリチャード・クー(辜朝明)が1990年代の日本で提唱した経済理論モデル「バランスシート不況」である。

不動産危機、内需不足、デフレの懸念など、現在の中国経済は今や30年前バブル崩壊時の日本経済に酷似しているため、中国経済の「日本化」が懸念され、「バランスシート不況」論への注目が急上昇している。

バランスシート不況とは、バブルが崩壊し、資産価値が大幅に下落した結果、企業は貸借対照表(バランスシート)悪化の問題に直面。そうなると、個人は消費を控え、企業は投資をせずに借金の返済を最優先とするため、マクロ経済にさらに悪循環をもたらす、というものである。

この「バランスシート不況」論が中国で話題になったことでリチャード・クー氏が中国現地に招待され、演説を行ったが、その際にクー氏は中国が「バランスシート不況」に陥る可能性を表明すると共に、政府による財政刺激策の実施を提言している。

「日本より悪化する」論

「バランスシート不況」論のほか、中国経済が日本より悪化する悲観論も挙がっている。

ノーベル経済学賞の受賞者ポール・クルーグマンは、中国が第二の日本となる可能性は低く、恐らくさらに悪化するだろうと指摘した。

中国の労働人口は減少しており、特に若者の失業率は日本を超えているため、今後の経済の見通しは日本より悪くなる。加えて、中国はアンバランスな経済にも苦しんでおり、パンデミック後も需要がなかなか回復していない。こうした原因から、「中所得国の罠」に陥る可能性があるとクルーグマン氏は指摘している。

「中所得国の罠」は新興国に見られる現象で、ある時点まで経済が急成長し、その後、停滞するというものである。バブル崩壊時に一人当たりの国民所得が先進国のレベルに達した日本と比べ、中国は中程度の水準にさしかかったところで成長率が低下し、長期的な低迷に陥る可能性がある。

「中国経済は日本のようにはならない」論

中国経済が日本化するという悲観論に対し、一部の中国エコノミストは比較的楽観的な見解を持っている。

彼らはコロナ禍という予想外の出来事で中国経済サイクルの連続性が破られ、正常の経済軌道に戻るまで時間が必要な現在、第二四半期の短期的な数字で中国経済の日本化を判定するには根拠が足りないとしている。

さらに、中国は現在アフターコロナの回復期間にあり、若者の失業率の上昇といった悪化した指標もあれば、飲食や旅行業界の収入増加など、回復の兆しも見られるため、全体的に見ると経済は回復に向かっている、という考えである。

また、中国で大規模な資産価値下落やバブル崩壊は見られず、現在の経済低迷は米中対立や、政府の民間企業に対する規制策による企業・国民の将来に対する信頼の低下が原因だと考えられる。これに加え、当時都市化率が77%の日本と比べ、中国の都市化率は65%のため、中国経済はまだまだ伸び代があると、主張している。

このように中国の経済状況は過去の日本と比較されることが多いが、中国独自の状況が存在することも事実である。未来の経済の動向は予測が難しいものの、中国がその経験と独自の戦略で新たな道を切り開くことができるか、引き続き追っていきたい。

関連記事:

🔗中国政府の経済政策、今後どこに注力していくのか