中国国内で日本の処理水海洋放出を巡る世論が高まり、その影響が広がっている。

日本メディアが行った国民世論調査によると、67%が処理水の海洋放出を「理解している」と回答し、25%が「全く理解できない」と回答した。

一方、中国国内においては、海洋放出に対する反対の声が圧倒的に大きく、メディアの報道も批判一色となっている。

影響は水産物から化粧品、インバウンド市場へ拡大

中国では、処理水を“汚染水”と位置づけ、政府は日本の水産物禁輸地域を従来の10都県から日本全域に拡大。

中国の2022年日本の水産物輸出総額に占める比率は22.5%、香港は19.5%と、合計42.0%に達しており、この措置は日本の水産業に大きな打撃を与えることが予想される。

また、水産物だけではなく、化粧品やパーソナルケアブランドにも影響が及んでいる。中国政府は化粧品への規制措置を導入していないものの、汚染水を使った可能性があるとして、大きな風評被害を受けている状態だ。

中国のネット上では「放射性の危険性のある日本化粧品ブランドリスト」が拡散され、有名な日本化粧品ブランドのほとんどがリストに掲載されている。これを受け、各社は放射性物質の検査結果の公表や、生産地が日本以外であることを示すなどの対策に追われている。

現在、これらのブランドが売上にどれほど影響を受けたかは明らかになっていないが、成分に関する関心が高い中国市場において、今後は海洋成分の使用について慎重なアプローチが求められるだろう。

肌に触れるものだけではなく、口に入れるものへの懸念も高まっており、「危険性のある日本食品ブランドリスト」なども拡散されている。この状況は11年前に中国で発生した反日デモが想起される。当時も車、化粧品、デジタル製品関連の日系ブランドに関する不買リストが拡散された。

また、反日感情が高まりに伴い、インバウンド市場にも影響が出ている。中国政府は8月10日に日本への団体旅行を解禁したが、処理水の海洋放出を受け、団体旅行がキャンセルされる事態が発生し、旅行会社も日本旅行関連サービスの宣伝を控える動きが見られる。

中国の漁民や日本と関わりのある中国人KOLも批判対象に

処理水の海洋放出は中国のメディアに大々的に報道され、weiboのランキングでも関連トピックが連日上位に入るほど注目を浴びている。こうした状況から世論がエスカレートし、ライブ配信を行う中国沿海の漁民や、在日中国人もバッシングの対象となり、SNSアカウントで批判的なコメントが殺到するなど、混乱が広がっている。

これを受け、有名なインフルエンサーが日系ブランドとのビジネス連携を中止するなど、リスクヘッジの行動をとる動きも見られる。

処理水海洋放出当日のweiboランキング

中国政府のスタンス

一方で、中国政府は日本の処理水放出を批判しつつも、国民の過剰な反応を抑制するよう動いている。

汚染水に対する不安が高まり、中国一部地域では食塩の買いだめが発生し、品薄となる事態が起きたが、塩の国有企業は「十分な備蓄がある」と表明し、地方政府も安定した供給と十分な在庫確保を約束するなど、消費者の不安を和らげる対策をとっている。

また、西安市では「所有している日本車が破壊された」との書き込みがネットで広がり、反日デモ時の事件を想起させられたが、現地の公安局がすぐにこれはデマであると声明し、市民に対してデマを信じないよう呼びかけた。

中国の国営メディアの元編集長も「中国各地にある日本料理店などの日本カルチャー要素を寛容に受け入れるべきであり、日本料理店の経営者は中国人で、無関係な人々である」と述べ、国民に冷静な対応を促した。

今後も国際的な関係性や市場の変化、世論の動向を注視し、中国政府の対応や国民の行動、および企業の取り組みが今後の展開にどのような影響を与えるのか、チャイトピは引き続き、お伝えしていきます。


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