一年の半分以上が過ぎ、中国の大手IT各社が次々と今年4~6月期の決算報告書を発表した。いまだに中国市場では消費回復の動きが鈍いものの、コロナがまん延していた昨年からの反動で各社の事業は増収増益を果たした。
また、消費者の間では格安商品を求めるニーズの変化が現れ、それに合わせてEC企業らは低価格戦略を熱心に取り組んでいた。昨年末から巻き起こったAIブームも続いており、AI活用で自社事業の再構築を図る企業やプロダクションにAI技術を適用する企業など、業界ではAIの実用化が進んでいた。
これらの中国IT大手6社の4~6月期決算について、詳しく見ていきたい。
アリババ
売上高:2,342億元(約4兆7,000億円) 前年同期比14%増加、市場予想を上回った
純利益:343億元(約6,800億円) 前年同期比51%増加
営業利益:425億元(約8,500億円) 前年同期比70%増加
◇売上構成
EC(BtoBtoC):797億元(約1兆5,900億円) 前年同期比10%増加
直営:302億元(約6,000億円) 前年同期比21%増加
EC(BtoB):51億元(約1,000億円) 前年から1%増加
越境EC:221億元(約4,400億円) 前年同期比41%増加
生活関連サービス:145億元(約2,900億円) 前年同期比30%増加
物流:232億元(約4,600億円) 前年同期比34%増加
クラウド:251億元(約5,000億円) 前年同期比4%増加
メディア/エンタメ:54億元(約1,100億円) 前年同期比36%増加
その他:455億元(約9,100億円) 前年同期比1%増加
中国EC大手のアリババは今年の3月28日に事業を6分割する大規模な組織再編を行った。そのため、今四半期の決算では直営事業から生鮮スーパー「フーマー(盒馬)」や医療関連のネットサービス「アリヘルス」などの事業をその他事業に移すなどの調整が見られた。
全体の売上高を見ると、前年同期比で14%の伸び率となっており、市場予想を上回る成績となった。また、純利益と営業利益においても二桁の前年同期比伸び率となっており、コロナ感染拡大の影響が深刻だった昨年からの反動だと思われる。
メイン事業であるEC(BtoBtoC)事業では、広告需要の増加と「タオバオ」「Tmall(天猫)」のGMV増加が増収につながった。6月の大型ECセールスイベント「618」が好調だったことが背景にある。
直営事業ではデジタル製品の販売好調を受けて、前年同期比21%の増収となっている。越境EC事業では前年同期比41%の増収を果たしており、同社は物流サービスの質の向上が背景にあるとしている。
Douyin(中国版TikTok)などのショート動画プラットフォームがEC事業に着手し、着実と成長を遂げていることがEC市場の競争激化をうながしている。苛烈な競争の中で、アリババはタオバオを中心にユーザーを引き止めることに力を注いでいる。その戦略としてメディアコンテンツの拡充や低価格商品の拡充などを行い、ユーザーを惹きつけることに努めた。これにより、今四半期末時点でタオバオアプリの1カ月あたりのDAU(デイリーアクティブユーザー数)は前年同期比で6.5%増加しており、618の好調にも貢献した。多くの競合がひしめくEC市場で新規ユーザーの獲得は困難になり、既存ユーザーがさらなる成長のカギとなっている。
京東 (JD)
売上高:2,879億元(約5兆7,000億円) 前年同期比8%増加、市場予想を上回った
純利益:66億元(約1,300億円) 前年同期比50%増加
営業利益:83億元(約1,700億円) 前年同期比120%増加
◇売上構成
直販(家電、デジタル製品):1,521億元(約3兆円) 前年同期比11%増加
直販(日用品):817億元(約1兆6,000億円) 前年同期比9%減少
広告:225億元(約4,500億円) 前年同期比9%増加
物流/その他:316億元(約6,300億円) 前年同期比51%増加
直営が特徴的なアリババのライバル社である京東(JD)は増収増益を果たし、売上高では市場予想を超えた。セールスキャンペーン「百億補貼(百億手当て)」などの低価格戦略が事業の好調につながった。
直販事業では、同社の強みである家電やデジタル製品の売上高が前年同期比でプラス成長を果たし、前四半期のマイナス成長から一転した。その一方で、日用品類は依然としてマイナス成長となっており、好転が見られない。
京東は手数料を引き下げるなどの優遇措置でブランドを誘致しており、今四半期において新規の出店ブランド数は前年同期比で417%も増加していた。特にスーパーやファッション、家具・インテリア関連のブランドが急増している。これにより、商品の種類が豊富になり、さらに多くの消費者を惹きつけることができる。また、手数料や広告収入などの増収にもつながる。
物流事業は前年同期比51%の増収となっており、昨年9月から開始した航空運送サービスでは順調に運送ルートの開拓が進んでいた。
アリババ同様に、京東もショート動画プラットフォームとの競争に直面しており、今年3月にも娯楽コンテンツをメインとするライバーの誘致に力を入れ、対抗する姿勢を見せていた。また、同社は今年全ての策略がGMV、利益、キャッシュフローにつながるものだと示しており、効果を発揮した低価格戦略と出店ブランドの誘致により一層入れ込むと思われる。
拼多多(pinduoduo)
売上高:523億元(約1兆円) 前年同期比66%、市場予想を上回った
純利益:131億元(約2,600億円) 前年同期比47%増加
営業利益:127億元(約2,500億円) 前年同期比46%増加
◇売上構成
広告:379億元(約7,600億円) 前年同期比50%増加
手数料:143億元(約2,900億円) 前年同期比131%増加
モール型ECをメインとする拼多多(pinduoduo)の4~6月期決算では、競合のアリババや京東を大きく上回る増収幅を記録した。同社によると、事業好調の背景には政府による消費促進政策の推進に伴う消費回復があった。また、京東よりも先に打ち出した「百億補貼」などの低価格戦略も功を奏した。その一方で、同じように低価格戦略を重要視する企業が出始め、同社に競争のプレッシャーが降りかかっている。
国内事業が堅調な足取りで収入を伸ばしているかたわらで、拼多多は海外市場の開拓に熱を上げていた。昨年9月には格安を売りにした越境ECプラットフォーム「TEMU」を打ち出し、アメリカやカナダなどの北米市場を中心に急速に事業を拡げた。その後ヨーロッパ諸国で事業を展開し、今年7月には日本市場と韓国市場に上陸することに成功した。しかし、同じく中国発の越境ECプラットフォーム「SHEIN」との競争が激化しており、訴訟などの問題も起きている。海外市場に進出する中国企業が増える傾向が強まる中で、同社は今よりも厳しい競争に直面するだろう。
テンセント
売上高:1,492億元(約3兆円) 前年同期比11%増加、市場予想を下回った
純利益:262億元(約5,200億円) 前年同期比41%増加
営業利益:403億元(約8,000億円) 前年同期比34%増加
WeChatの月間アクティブユーザー数:13.3億人 前年同期比2%増加
◇売上構成
中国オンラインゲーム:318億元(約6,300億円) 前年同期比横ばい
海外オンラインゲーム:127億元(約2,500億円) 前年同期比19%増加
コンテンツ課金:297億元(約5,900億円) 前年同期比2%増加
広告:250億元(約5,000億円) 前年同期比34%増加
フィンテック/toB:486億元(約9,700億円) 前年同期比15%増加
ゲームやSNS(Wechatなど)を手がけるテンセントは、今四半期において増収増益を果たしたものの、売上高は市場予想に届かなかった。また、WechatのMAU(月間アクティブユーザー数)では伸びに鈍化が続いていた。
主力事業の一つであるオンラインゲーム事業では、中国国内の収入が前年同期比で横ばいと低迷していた。これに対して、市場では同社のゲーム関連のマネタイズ活動が控え目であることが原因との見方が上がっている。その一方で、海外ゲーム収入は前年同期比19%と好調であり、「VALORANT(ヴァロラント)」などの人気ゲームが増収に貢献していた。
広告収入の伸びが顕著であり、機械学習の応用やWechat内のショート動画機能「視頻号」のマネタイズ化が功を奏したことが原因である。また、自動車を除く主要な広告主による支出が前年同期比で二桁数の増加を見せ、出稿の需要が回復していることを示していた。
フィンテック/to事業では、決済サービスの利用増加や視頻号におけるライブコマースで得た収入などが増収に貢献していた。
広告事業の好調には同社の業務におけるAI活用が反映されており、今後もゲームやクラウドサービスなどの分野における実用化に注力すると思われる。また、同社は収益性の低い事業の縮小・撤退を進めており、引き続きコスト削減と効率向上に力を入れると強調した。
バイドゥ
売上高:341億元(約6,800億円) 前年同期比15%増加、市場予想を上回った
純利益:52億元(約1,000億円) 前年同期比43%増加
営業利益:52億元(約1,000億円) 前年同期比53%増加
◇売上構成
広告:211億元(約4,200億円) 前年同期比15%増加
その他:130億元(約2,600億円) 前年同期比14%増加
中国検索エンジン大手のバイドゥ(百度)は増収増益と順調に業績を上げている。その背景には広告事業の好調などがあった。
広告事業収入が前年同期比15%増加している理由について、同社はコロナ感染拡大が収束した後、医療や旅行などの分野が回復の兆しを見せていることを例に挙げた。また、ユーザーや出店ブランドを獲得したいEC業者からの収入が増収に貢献していた。さらに、同社のショートビデオ機能を利用するユーザーが増えており、関連の広告収入も増加していた。
その他事業は前年同期比14%の増収となっており、完全無人運転の実用化を目指すロボタクシーサービスでは利用件数が前年同期比で149%増えていた。
バイドゥは今年3月、業界に先駆けてAIチャットボットの「アーニー・ボット(文心一言)」を打ち出し、AI分野における研究開発を加速させていた。約半年ほどのテスト期間を経て、9月には政府の許可を得た上で一般公開となった。
同社は広告事業を含むあらゆる業務やプロダクションにAIを活用し、事業の再構築を図ることに熱中している。今後もAIへの注力を続けるだろう。
ネットイース
売上高:240億元(約4,800億円) 前年同期比4%増加、市場予想を下回った
純利益:82億元(約1,600億円) 前年同期比56%増加
営業利益:61億元(約1,200億円) 前年同期比23%増加
◇売上構成
オンラインゲーム:188億元(約3,800億円) 前年同期比4%増加
オンライン教育:12億元(約240億円) 前年同期比26%増加
音楽ストリーミング:19億元(約380億円) 前年同期比11%減少
イノベーション/その他:21億元(約420億円) 前年同期比10%増加
「荒野行動」などの人気ゲームを開発・運営するネットイース、今四半期では売上高が市場予想に届かず、前年比伸び率も低迷していた。その一方で純利益は増加しており、投資益などを含む雑収入の大幅な増加が原因だと思われる。
各事業を詳しく見てみると、オンラインゲーム収入は前年同期比4%と微増となり、音楽ストリーミング事業では減収が見られた。オンライン教育事業はこれらの中でもっとも伸びたが、前四半期で比べてみるとほぼ横ばいの状態となった。
中国でAIブームが巻き起こる中で同社もAIの活用を図り、いち早くモバイルゲーム「ジャスティス・モバイル(逆水寒)」にAI技術を適用した。同社は、これにより開発の効率向上やより良いユーザー体験の提供が見込めると示した。今後、ゲーム事業におけるAIの活用が加速していくと思われる。
まとめ
今四半期の各社決算では以下の共通点が見られた。
- コロナ感染拡大からの反動
- 低価格戦略の成功
- AI技術の活用
また、DouyinのEC事業が急成長する中で、アリババや京東はこれに対抗してショート動画やライブ配信などの娯楽コンテンツの拡充に力を注いでいる。競争が激化する中国市場における各社の今後を引き続き追っていきたい。
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