サブスクリプション型サービスは、米国から展開し、日本市場を含めここ数年でさらに急成長しており、「Netflix」などのデジタルコンテンツのほか、SaaS型サブスク、モノ・コトのサブスクまでジャンルは多岐にわたる。
中国市場でもiQIYI(爱奇艺)や、ビリビリなどの動画サイト、QQ音楽などの音楽配信アプリでサブスクモデルが普及しているが、モノのサブスクとなると、今日まで生き残っているのはほんの一握りである。
失敗事例と生き残った事例
背景として、2010年からモノのサブスクビジネスはアメリカで大流行し、アメリカから帰国した中国人の起業者がそれを手本として中国でも類似のサービスを開始。これを機に2014年前後から中国のファッションや生花、アクセサリーのレジャー関連や、ペット関連、および酒類などの分野において、サブスク型ECサービスを展開する会社が急増した。

・失敗例
ファッションのサブスクは、「衣二三(YCLOSET)」が当時代表的なブランド。同社は2015年に設立した女性ファッションのレンタルプラットフォームで、ユーザーが499元の月額料金を払えば、ブランド品を含め、フラットフォーム上すべての服をレンタルできるサブスクサービスである。

当時中国のシェアリング大ブームに乗ったことで注目を集め、2018年時点では登録ユーザーが1,500万まで成長。しかし、黒字化を目的とした利用ポリシー変更により、クレームが殺到したほか、レンタルした服が偽物であるなどの問題が発生し、衣二三は2021年に運営停止を発表した。
同じく女性ファッションのサブスクサービスである「Abox壹盒」は、アメリカのStitch Fixを手本に2017年からサービスを開始。月額129元で6-8着の服が届き、その中から気に入ったものをそのまま購入できるサービスである。同社に関しても収益化できず、一年後に突如サービスを停止するに至っている。
他にも「小鹿森林」や「锦衣盒」などがファッション業界のサブスクサービスとして相次いで登場したが、今やほとんどのサービスが存在を消した。
・生き残った事例
成功したとは言えないが、中国で継続しているサブスクサービスもいくつか存在する。その一つの事例は、花のサブスクサービス「花点时间」である。
「花点时间」は2015年に創業し、2021年末にはフォロワー数が1,500万を突破。最初は1つ400元の高価格で生花を販売していたが、途中から月額99元で毎週一個の花束を届けるサービスを打ち出したことで、ユーザー数が100%急増した。
さらに同社は、「花は男性が女性に贈るプレゼントとしてだけではなく、女性が自分を喜ばせる、一種のライフスタイルである」というコンセプトを提唱したことで、経済力を持ち始めた中国の女性からの共感を得ることに成功し、祝日にしか買われることのなかった花の消費頻度を一気に引き上げた。

中国の生花EC市場は、2016年の169億元から2021年897億元まで拡大し、2025年には1,500億元まで上昇するとと予測されている。市場が拡大するにつれ、プレイヤーの数も増加し競争が激化しているのも事実だ。特にすぐ枯れてしまう生花のビジネスは時間と戦いで、効率の高いサプライチェーンが求められる。同社はサプライチェーンの効率化に必死に取り込みながら、近年Tmall、DouyinなどのECプラットフォームと連携し、販売ルートを拡大している状態である。
中国サブスクビジネスの課題
中国におけるモノのサブスク型ビジネスが難航している理由として、以下の理由が考えられる。
- 一部の分野においてサブスクの消費習慣がまだ形成されていない
- ユーザーへの継続的な価値提供ができていない
- 運営コストが高く、継続した資金投入が必要
中国のサブスクビジネスは、ファッション分野から始まったが、ビジネスモデルが確立しておらず、収益化に成功したサービスはほぼない状況である。中国市場では、服のレンタルや、古着を着ること自体が普及してないため、消費習慣の形成に時間と教育が必要だ。
また、継続的な価値提供ができてないことも課題の一つである。消費者は好奇心で購入しても、重複した商品が届いたり、届いた商品が自分に合わなかったりなど、サブスクの利用を停止する消費者が少なくない。
さらに、高い運営コストも多くのサブスクビジネスが失敗する要因である。定期購入による安定した収入を獲得できるとは言え、運営コストが高く、サプライチェーンの効率低下などによって収益化できず、サービスを停止せざるを得なくなるケースが多い。
また、中国のサブスクビジネスの展開に伴い、料金の自動引き落としを停止する方法がわかない、解約方法が分からないなど、消費者からのクレームも急増している。これを受け、中国市場規制当局は自動的に引き落とされる5日前に、消費者に明確的な提示が必要と定め、サブスクへの規制を強化している状態だ。
しかし、中国でモノのサブスクビジネスの普及が難航しているが、中国の起業者や投資家は今でもサブスクへの模索を続けているという一面もある。特に現在EC業界が成長鈍化している背景下、ソーシャルEC、ライブコマースなど、様々なEC形態が登場しており、その中で、新しい可能性を生み出すのではないかと、再びサブスク型ECへの期待が寄せられている。従来の花やアパレルのほか、今後コスメやサプリメントなど、まだ開拓されてない分野において、今後のサブスクビジネスの展開に注目だ。
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