近年、中国EVメーカーは猛烈な勢いで成長を続けている。今年4月には「上海モーターショー2023」が開催され、世界各国のメーカーが出展した。EV(電気自動車)が主役となる本イベントで、トヨタやホンダなどの日本メーカーも自社EVを強くアピールしていた。そうした中で、BYDなど現地メーカーのブースは多くの注目を集め、日本メーカーに危機感を与えている。
チャイトピは、日本でも注目されている中国のEVメーカー4社の4~6月期決算を分析してみました。
BYD
売上高:1,400億元(約2兆8,000億円) 前年同期比67%増加
純利益:68億元(約1,400億円) 前年同期比145%増加
EV販売台数:70万3,561台 前年同期比98%増加
※データはBYDの決算よりチャイトピが算出

中国EVメーカー大手・BYDは前年同期比で大幅な増収増益を維持した。EV販売台数は70万台を記録し、上半期の累計納車台数は125万台となった。今年の年度目標である300万台に近づいている。
事業戦略の一つとして、同社はラインナップを充実させ、幅広い層の消費者のニーズに対応していた。今年4月に開催された「上海モーターショー2023」では、格安モデルの「海鴎」や傘下高級車ブランド「仰望」の「U8」などの新モデルを公開し、会場で大きな注目を集めた。
事業が好調である一方で、同社には競争激化のプレッシャーがのしかかっている。競合であるテスラは昨年から続け様に値引きを行い、販売台数を伸ばしている。NIOやNETAなどのメーカーも後に続き、中国市場で値引き合戦を引き起こした。こうした状況の中、BYDの創始者は今年6月に、EV業界では勝ち抜き戦が始まっており、メーカーが生き残るにはコア技術を有しなければならないと示した。今後、同社は激しい競争に打ち勝つために、引き続き研究開発に注力し、競争力の向上を目指すと思われる。
国内市場で激しい競争に直面している傍らで、BYDは海外市場進出の手を緩めなかった。すでに日本やオーストラリアなどを含む世界50カ国に進出を果たしている。また、今年7月にはブラジルで新工場も建設すると発表し、海外サプライチェーンの拡大を進めている。
新興EVメーカー3社

① NIO
売上高:88億元(約1,800億円) 前年同期比15%減少、市場予想を下回った
純損失:61億元(約1,200億円) 前年同期比123%拡大
納車台数:2万3,520台 前年同期比6%減少
納車台数の減少に伴い売上高は減少し、赤字も拡大していた。減収の背景には、同社の値引きを実施したことが関係していると思われる。また、純損失が前年同期比で123%も膨れ上がっている原因として、「その他の販売費」と「研究開発費」が増加したことが響いたと思われる。販売コストに含まれるその他の販売費は、中古車やカー用品の販売コストがかさばったことで前年同期比100%も増加し、粗利を圧迫していた。また、営業費用である研究開発費は新製品の開発などで33億元(約700億円)に上り、新興EVメーカー3社の中でもっとも高い。ライバル社との競争の圧力が決算に如実に表れていた。
今後について、NIOは自社の営業力が競合の遅れを取っているとして、同能力の向上を目指すと示した。毎月の納車台数3万台を目安に、9月までに販売スタッフの増員と販売拠点の増設を行うとした。また、新規事業であるスマホ事業については、9月下旬に製品を発表する予定である。
② Xpeng
売上高:51億元(約1,000億円) 前年同期比32%減少、市場予想を上回った
純損失:28億元(約600億円) 前年同期比4%拡大
納車台数:2万3,205台 前年同期比33%減少
納車台数は3社の中で最下位となった。納車台数の減少に加え、政府による補助金の支給が終了したことで、EV販売収入も前年同期比で36%減少していた。また、粗利率はマイナス3.9%と前年から転落しており、新興EVメーカー3社の中で唯一マイナスの粗利率を記録した。こうした不調は、同社がテスラなどのメーカーによる値引き合戦に参戦したことが背景にあると思われる。Xpengの主力モデルである「P7」はテスラの「Model 3」に対抗して打ち出された製品であり、テスラの怒涛な値引きは同社にプレッシャーを与えている。
Xpengは事業改善に向けて、生産規模を拡大し、納車台数を引き上げることに力を入れている。同社の納車台数を支える要素として、今年6月に打ち出された新モデル「G6」が期待されている。同モデルは高い人気を得ており、8月の納車台数1万3,690台のうち、半分以上をG6が占めていた。半導体などの部品不足の不安要素はあるものの、同社は7~9月期の納車台数が前年同期比3~4割増しの3万9,000~4万1,000台になると予測している。
③ Li Auto
売上高:287億元(約5,800億円) 前年同期比228%増加、市場予想を上回った
純利益:23億元(約460億円) 前年より黒字転換
納車台数:86,533台 前年同期比202%増加
売上高、純利益、納車台数は四半期ベースで過去最高の成績となった。また、売上高と納車台数においては他の2社に大きく差が開き、トップを獲得した。
事業好調の背景には、コロナ感染拡大が深刻だった昨年からの反動とEV販売モデルの増加が関係していると思われる。昨年の4~6月期では上海ロックダウンなどの影響を受けて、同社の納車台数は2万8,687台と落ち込んでいた。また、同社は幅広い消費者層にアプローチをかけるために単一車種の販売をやめ、昨年から「L9」「L8」「L7」と車種を増やしていった。
Li Autoは今年度の納車台数目標を30万台に設定しており、上半期の結果を見ると約半分近くを満たしていた。しかし、値引き合戦など市場競争が激化している中で、下半期も成長ペースを維持し、年度目標を達成することに懸念が残る。実際、8月末には期間限定で車両保険を購入すると1万元(約20万円)の手当てを還元するキャンペーンを打ち出しており、納車台数を確保するための取り組みとも考えられる。
まとめ
EV業界全体では値引き合戦が起きており、競争がさらに激化している。BYDを含む各メーカーは、市場で競合に勝つために研究開発に注力し、新モデルを打ち出すことに没頭している。
今後の中国EV市場で生き残るためには、競争力の向上につながるコア技術の獲得が肝心である。各メーカーがどのような成長を遂げるかに注目していきたい。
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