ゼロコロナ政策が撤廃されても消費低迷が続いていた中国の消費市場の状況とは対照的に、コンサートやフェス、映画市場が空前のブームを迎えている。
超人気歌手の公演は経済効果が著しい
今年上半期のweibo(中国版ツイッター)検索ランキングで、「コンサート」と「映画」が2、3位にランクインし、中国のエンタメ市場が急速に回復している。
ゼロコロナ政策の撤廃を受け、今年2月から中国の歌手やアイドルがコンサートの準備とチケットの販売を再開したところ、多数のコンサートがチケット発売後、わずか数秒で完売するなど、コンサート市場は力強い回復を遂げた。
上半期開催されたコンサートとフェスは合計で506件に上り、総観客数は550万人を超えた。興行収入は約25億元(約503億円)に達し、すでに2019年全年の興行収入半分を超えている。この勢いが続けば、今年中にコロナ前の水準を超える可能性が高い。
興行収入以外にも注目すべきなのは、人気歌手による公演がもたらすその他の経済効果である。特にライブを見るために他の省から訪れる観客が多く、これが現地の観光収益にも寄与している。
例えば、中華圏で絶大な人気を誇る台湾出身の歌手、ジェイ・チョウ(周杰倫)が海南省・海口市で行った4公演は観光収入だけで9億元(約181億円)を生み出したと言われている。これは、ゴールデンウィークの連休期間中の観光収入を上回る額である。さらに、その後天津市で実施した4公演は、現地に30億元(約604億円)以上の関連消費をもたらした。
他にも、西安で開催された人気アイドルユニットTFBOYSの10周年コンサートは、4億元(約84億円)の観光収入をもたらすなど、人気歌手による経済効果は著しい。
また、映画市場も同じく活気を見せており、夏休み期間中における中国映画市場の興行収入は206億元(約4,150億円)で、過去最高額を記録し、コロナ前の2019年同期より16%増加した。
不況下でもエンタメ市場が盛り上がる背景とは?
中国は今年、物価指数がマイナスに転じ、デフレの圧力が増し、若者の失業率も過去最悪を更新している。これらの厳しい経済環境が続く中で、なぜエンタメ市場が大盛況となったのか?この理由について、以下の要素が考えられる。
- 体験型消費の回復:モノの消費が低迷しても、旅行やエンタメなど、コト(体験)に関する消費が回復の兆しを見せている
- 政府によるコンサート市場の支援強化:コンサートやフェスなどの審査プロセスを最適化している
- コロナで延期されたコンサートの再開:延期となっていた多くのコンサートが開催され、これらが供給を急増
実際にコンサートを見に行く理由について、現地メディア南方都市報が実施した調査によると、65%の80後は「思い出を呼び起こすから」、40%の90後は「ストレス発散のため」、55%の00後は「アイドル応援のため」と回答している。
また、消費喚起のため、中央政府はコンサートや、フェスなどの審査プロセスを最適化し、地方政府も有名アーティストの誘致に積極的である。
このようにエンタメ業界はコロナ禍で3年余りにわたって開催できなかった公演をできるだけ増やし、失われた3年間を取り戻そうとしている。
海外芸能人、映画作品にもチャンス
今年3月に中国政府が海外の芸能人による訪中公演の審査を再開したことにより、Westlifeなどの欧米ミュージシャンが中国のライブ市場に回帰し、公演を成功させた。
また、映画市場においては日本の作品が存在感を見せており、特に「すずめの戸締まり」と「THE FIRST SLAM DUNK」はそれそれ8.08億元(約157億円)、6.53億元(約131億円)の興行収入を記録。さらに「天空の城ラピュタ」「名探偵コナン劇場版ベイカー街の亡霊」などの過去のアニメ作品も中国で上映され、高い評価を得ている。
一方で、エンタメ市場の急成長は、チケットの高額転売といったダフ屋活動を助長しており、これに対応するため、政府は取り締まり強化に動き出している。以前から芸能人の脱税対策の強化や、ファン文化に対する規制も強まっているため、現在のエンタメ市場の盛況が一過性のブームで終わるのか、持続的な成長を遂げるのかは、まだ不明確である。これらの状況を踏まえると、中国のエンタメ市場は短期間で顕著な回復を見せているものの、その背後には課題があると言えるだろう。
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